テラーノベル
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ふまくんはできる男だと思います。
りょさん視点。
打ち合わせの後はそれぞれ別の仕事があり、全てのスケジュールをこなした頃には夜中近くになっていた。家に着くまでスマホを見ていなかったため気づかなかったが、若井から「話があるんだけど」とメッセージが入っていた。流石にこの時間に返事をするのは憚られるが、明日は個別の仕事で会うことはない。次に会うのがロケ日になってしまうから、内容は確認しておきたいところだ。起きたら返事をしようと既読だけをつけると、すぐに若井からの着信を画面が知らせた。
「も、もしもし?」
『お疲れ。仕事終わりにごめん』
「ううん、なにかあった?」
『なにかっていうか、デートのことなんだけど』
あぁ! 今日の僕のファインプレーね!
「大丈夫だよ!」
『は? 何が?』
「若井が立てたプランなら、絶対楽しいよ! だって元貴のこと、いちばんよく分かってるんだから」
『え? は?』
「俺も菊池さんに迷惑かけないように頑張るから! 安心して楽しんでね!」
きっと僕のことを心配して、今からでもペアを変えようって話だと思うんだよね。だめだめ、そんなことしたら意味なくなっちゃうでしょ。
『ちょ、話聞いて!?』
「ペア変えようって話じゃないなら聞く」
『なっ』
ほら。僕だって若井や元貴の考えそうなことくらいわかるんだから。そりゃぁ僕のことをよく理解してくれている2人のうちどっちかと組んだ方が安心はできるけど、それじゃぁ目的が果たせなくなる。プランを組むのは若井だって言ってたけど、元貴がアプローチできるチャンスなんだから、絶対譲らない。
「心配してくれてありがと。俺は大丈夫だから自分たちが楽しめるようにして。ね?」
『……わかった』
「おやすみ、また明後日ね」
『おやすみ……』
通話を切って鼻歌混じりにシャワーへと向かう。いいことをすると気分がいいよね。若井もなんだか疲れていたようだし、しっかり休んでくれるといい。僕のことは心配要らないから。とにかく2人に心配かけないように頑張らないと!
そう意気込んで臨んだロケ当日。騒ぎにならないようにと早朝の商業施設を貸し切ったという、大々的な企画に少しだけ気後れする。
「本日はよろしくお願いします」
控え室で菊池さんに挨拶をすると、菊池さんはこちらこそと朝がよく似合う爽やかな笑顔を浮かべてくれた。
「今日は藤澤が迷惑をかけると思うけど、よろしくね」
「ねぇ、だから失礼!」
「本当のことじゃん。今からでも遅くないからペア変えない? 相当変人よ、このひと」
「変えない!」
元貴の言葉に憤慨する。菊池さんはネタだと思って笑ってくれてるけど、元貴は本気だと思う。
なんなの、もう。嬉しくないの? 若井とデートできるんだよ?
「何かあったら俺か元貴にすぐ連絡して。いい?」
若井も若井で過保護な親みたいなことを言ってくるし。そんな信用ないかな、僕。制限された空間で何が起こるっていうのさ。
むすっとする僕に菊池さんが小さく笑う。
「愛されてますね、藤澤さん」
「愛……? これは馬鹿にしてるんですよ!」
「そうかなぁ」
くすくすと笑う菊池さんは僕より歳下なのに大人びて見える。グループをまとめる立場だからかな? 8人もいるグループをちゃんと機能させるのは、きっとすごく大変だろうな。
挨拶を済ませたから今度はメイクと着替えに向かう。メイクはいつも通り、ステージに立つときよりは薄めだけどしっかりと似合うものを施してもらい、衣装はラフだけどそれぞれの個性が生かされているものを選んでもらった。
うんうん、なんかデートっぽいね。
「それじゃぁ張り切っていきましょう!」
ぐっとこぶしを握る僕に、張り切らないでいいから、とすぐにツッコミが飛んでくる。ねぇ、せっかくのデートなんだからもう少しテンションあげてよ!
撮影が始まって、タレントさんの進行に合わせて少しだけトークをして、そこからは二手に分かれて別行動になる。それぞれにカメラマンさんが1人と音声さんがつき、一台ずつハンディカメラも渡された。涼ちゃんが持ってたら壊しかねないから風磨くんお願いと元貴が言って、僕は持たせてもらえなかった。壊さないのに。
「それじゃぁ改めて、今日はよろしくお願いします」
「お願いします。早速だけど、呼び方変えません? 話し方も。デートなんだし」
おお、スマート……。
「もちろん。風磨くんって呼んでいい?」
「じゃぁ俺は涼架さんで」
「うわぁ、なんかくすぐったい」
呼ばれたことないかもと言うと、じゃぁ俺だけだねって菊池さん……風磨くんが嬉しそうに目を細めた。うぐ、カッコいいなこのひと。こういうところにときめくんだねきっと。こんなイケメンから特別扱いみたいなことされたらみんなコロッと落ちちゃうよ。
「涼架さんが動物好きって聞いたからさ」
「うん」
「ここ、動物と触れ合えるカフェがあるんだよね。知ってた?」
「そうなの? 知らなかった……調べてくれたんだ」
「そりゃぁ楽しんで欲しいからね?」
ぱちっとウインクをする風磨くんはお世辞抜きにカッコよくて、僕のために調べてくれたっていうのがすごく嬉しくて、ありがとう、と笑顔でお礼を言う。
面食らったように固まった風磨くんが、照れくさそうに頰をかいた。
「いっつもあの2人はこれを独占してるわけか」
「?」
「ま、今日は俺が独占させてもらうけど」
「なんの話?」
「分かんないか。そりゃ過保護にもなるわ」
全然分かんないんですけど……。首を傾げる僕に風磨くんはニヤッと笑って、
「涼架さんの笑顔が可愛いねって話」
と言った。臆面もなく何を急に言い出すのかと僕がびっくりしていると、行こっか、と歩き出した。
慌てて後を追うとちゃんと待ってくれて、歩幅も僕に合わせてくれる。歩きやすいようにスニーカーだけど、ふわふわしたスカートみたいな服を着ているから少しだけ歩きにくいのだ。
「その衣装って涼架さんが選んだの?」
「ううん、これは大森が選んでくれたやつ」
「元貴くんなんだ」
「うん。僕の好みも把握してくれてるから」
衣装もメイクもディスカッションを重ねて決めるけど、最初の案を出すのはいつも元貴だ。
「へぇ。じゃぁ後で服屋も行こうか」
「え? 欲しい服あるの?」
「涼架さんの好きな服教えてよ。今度贈るからさ」
「じゃぁ風磨くんの好きなものも教えてね? 僕も贈るから!」
そんな話をしながら風磨くんが調べてくれた動物カフェに到着する。外観をカメラマンさんが撮影し、話は通っているからと早速中に入って行く。
「か……かわいい……」
中はいくつかのブースに分かれていて、猫ちゃんがたくさんいる猫カフェコーナー、鳥さんたちが自由に飛べる空間が確保されている鳥さんコーナー、うさぎやモルモットがいる小動物コーナーになっていた。小さなふれあい動物園みたいな感じになっている。
まずは猫カフェコーナーに入り、手を洗ってふわふわもこもこの猫ちゃんたちに挨拶をする。
「こんにちは、お名前は?」
寄ってきてくれた猫ちゃんを撫でながら問い掛けると、カフェのスタッフの人が名前を教えてくれた。
「わさびちゃんって言うの、かわいいねぇ……。若井の家にも猫ちゃんがいてね、もずくちゃんとむすびちゃんって言うんだよー」
にゃぁと返事をしてくれたわさびちゃんを抱き上げる。すりすりと顔を寄せながら横を見ると、菊池さんがカメラを僕に向けていたから、わさびちゃんをカメラに近づける。カメラのレンズを不思議そうに見つめるわさびちゃんが、もふもふの手でレンズに触れた。他の猫ちゃんたちも近づいてきてくれて、さながらここは猫天国だ。
「風磨くんも抱っこする?」
カメラを床に置いた風磨くんにわさびちゃんを丁重に渡すと、サービス精神旺盛なのかイケメン好きなのか、わさびちゃんが風磨くんの鼻をぺろっと舐めた。うわ、とびっくりした風磨くんを見てくすくすと笑う。
「猫ちゃんにまでモテるとか、さすがアイドル」
「や、涼架さんの方がモテモテじゃん」
和やかで癒される空間を堪能しながら、猫ちゃんや鳥さん、うさぎさんたちとも触れ合っていく。久しぶりに動物たちと触れ合えて、僕はすごく楽しかった。
動物カフェを出ると、今度は服飾店がずらりと並ぶフロアにやってくる。お洋服も大好きだから、見ているだけでワクワクした気持ちになる。
「あ、これ元貴に似合いそう。こっちは若井が好きそうだなー」
通りかかったお店の店頭に並んでいる小物を見て、思わず2人のことを思い浮かべる。うまくやってるかなぁ……若井のデートプランってどんなのなんだろう。商業施設だから行くところは限られているけど、美術館も併設している施設だからそういうところに行ってるのかな? 楽器店もあるし、2人ならそこに行ってそうだ。
「ほんとうに好きなんだね」
「え?」
「元貴くんと若井くんのこと」
そりゃ大好きだけど、今は風磨くんのデートプランを楽しまないといけなかった。
「あ、ごめんなさい、デートなのに」
「いいのいいの。2人のことを考えてる涼架さん、すごいいい顔するね」
「え、恥ずかしいな、どんな顔してる?」
「恋してる顔」
「こっ」
サラッと言われると反応に困る。これ、放送されるんだよね? 編集は入ると思うからダメだったらカットしてもらお……。
風磨くんはにこにこと笑ったまま、涼架さんはどれが好き? と訊いた。
「僕はこう言うのが好きかなぁ。風磨くんは?」
「俺はこっちが好み」
「わ、似合うね」
「でしょ?」
自信満々に笑う風磨くんに僕も笑顔を返す。お店を移動しながらウィンドウショッピングを楽しんでいると、遠くの方に元貴と若井の姿を見つけた。仲良く並んで僕らと同じように服を見ている。
よかった、楽しそうだ。幼馴染で親友という肩書きに、Mrs.っていう大切な宝物が加わって、それがいつか恋人って変わるといい。少しだけ寂しい気もするけど、2人がしあわせならそれが一番だ。
「……涼架さん? 疲れた?」
「へっ? あ、や、ちょっとお腹空いた、かも」
「はは。朝早かったもんね。お昼にしようか」
風磨くんに気を遣わせてしまった。いけない、気を引き締めないと。
レストランフロアに移動すると、風磨くんが好きだと言うトンカツ屋さんに入る。一生食べたいって思うくらいトンカツが好きなんだって。
僕の好きな食べ物の話をしたり食べ方のこだわりを聞いたりしているうちに料理が運ばれてきた。
「ん、美味しい!」
「お、今日イチの笑顔だ」
「美味しいごはんは人をしあわせにするよね……つい食べすぎちゃう」
「だめなの?」
「だめじゃないけど、昔は食べても太らなかったのに、今は食べた分だけ……ね」
「でも痩せたよね?」
「うん、10周年に向けて身体絞ってるところ。風磨くん、すごくいい身体してるよね? 雑誌で見たよ」
「惚れた?」
「あはは、惚れた惚れた」
風磨くんってやさしくて面白い。よくいじられているけどそれも上手に返すし、尊敬するところたくさんあるなぁ。
食事を終えて、そろそろ終わりの時間に近づいてくる。
「楽しかった?」
「すっごく楽しかった!」
「じゃぁ記念にこれ」
「え?」
はい、と風磨くんが差し出したのは、ご飯を食べる前に見ていたお店で僕がいいなって思っていたブレスレットだった。
「え! いつの間に買ったの!?」
「さぁいつでしょう」
にこにこと笑いながらチェーンを外すと、僕の右手を取って優しくつけてくれた。キラッと輝く細いチェーンのブレスレットは、ひとつだけ石がついている。けっこういいお値段したと思うんだけどな、これ。
「赤い石でよかった?」
「う、うん……」
何色かの展開があったはずなのに、なんで分かったんだろう。
「俺もすごく楽しかった」
ふわっと笑った風磨くんは本当にカッコよかった。僕もなんかお礼をしないとと思ったけどそれを先読みした風磨くんに、
「俺があげたかっただけだから」
と言われてしまった。
集合場所に戻るとすでに2人は戻ってきていて、進行役のタレントさんと談笑していた。僕らに気付くとすぐに、
「迷惑かけてない?」
「もの壊してない?」
2人して失礼なことを言う。
「かけてない……よね?」
ちらっと風磨くんを見るとにっこりと笑ってくれた。
「かけてないよ。今度はプライベートで出かけようね、涼架さん」
そう答えてくれた風磨くんはなぜか元貴を見ていた。不思議に思って僕も元貴を見ると、元貴がすごく冷たい目で風磨くんを見ていてどきりとする。
なんでそんな顔してんの……?
続。
これ、どうやって終わらせよう……。
コメント
13件
おぉぉ先が読めなすぎる‼️風磨くんが強すぎてソワソワしてしまう🙀笑
いつもは当て馬になるのに、💜さんが、すっごくかっこいいです🥹✨これは、またデートしないとですね🤭💕 でも繊細魔王のメンタルが心配になります。笑
結構ガッツリ💜💛でニマニマしました🤭できる男ふまくん頑張って!って思うけど、潜在意識で赤選んじゃってるからなぁ😏魔王が頑張って素直になればすぐそうなので、それまでふまくん応援隊しておきます笑 ❤️💙のドタバタデート風景も少しは見れますか?笑(私は愛され💛ちゃんが大好きですよ♥️)