テラーノベル
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#感動?
「晴一、わし買いたい花あるんだけど」「勝手に買ったらいいじゃん」
「綺麗じゃから晴一にも見てもらいたくて」
「なおさら買ったの持ってこい」
―天気(曇)
「昭仁、この植物何?おまぁ植物好きじゃったっけ?」
「ん、あぁうちの息子が学校の技術で育てたらしい。なんやったっけ、ポトフみたいな名前だった」
「多分ポトスじゃけ。今は技術で植物育てるんじゃなぁ」
「んな…なんか晴一植物詳しいな…」
昭仁がいつもいる定位置の近くにあった机に、目新しい観葉植物が置いてあった。黄金の斑点が入った鮮やかな緑の葉は、ただの灰色だった机の影に鮮やかな色が付いたみたいだった。俺は単純に、実は植物が好きだったとかいうのを想像していた。ところが彼はただ、息子が学校から植物を家に持ち帰ってきたものを無理矢理押し付けられたそう。
「嫌ではない?」
「嫌、というか好きほどまではいかんけど植物ってなんか落ち着くけぇ」
今日は低気圧のせいで、あまり思考が回らなかった。このごろの時期は湿っぽくてジメジメしてて、やる気が起きない。眠たいし、今日は早く帰ろう。
―天気(曇のち雨)
今日は地方のライヴがあるから、早めに起きて東京から福井まで、新幹線と特急の乗り継ぎで向かった。昭仁に連絡したが、中々返信が返ってこない。相変わらず能天気な人だ。
「昭仁起きてる?」
「起きてる。北陸新幹線だからそのまんま着く」
「俺は東海道線と特急使ってるから多分1時間ずれる」
「今日のライヴは午後からだからまだ間に合うな。こっちは先にリハーサルしておく。」
1時間かけてやっと返信が来た。昭仁はまだ寝てるのかと思っていたのだが、俺より先に乗り継ぎなしの新幹線に乗っていた。やはりリハーサルは長めに取っておきたいから、今日は寄り道せずに会場に向かおう。
特急を降りた頃、福井では大雨が降っていた。福井の天気なんて東京のテレビじゃやってないから、雨が降るなんて想定していなかった。傘を持ってくれば良かった。
「はるいちもびしょびしょじゃけぇ」
「傘持ってくるの忘れた」
「わしも今日来たとき、小雨で傘忘れとったから今上着を乾かしとる」
「今日はジメジメしてて嫌な汗かきそうじゃ」
「温暖化がにくいの…。取りあえず、はいこれ、タオル。」
「気の利くスタッフじゃの」
「わしはスタッフじゃないぞ!!」
リハーサルの為に急いできたのに、他愛もない雑談でみるみるリハーサルの時間は削れていった。もし、未来を予想できていたなら、多分数時間前の自分は普通に近くの店で傘買っていた。
その後、リハーサルではサビ部分のみを通し練習した。新曲のターンになると、昭仁はちょくちょく歌詞飛んでいたのだが大丈夫だったのだろうか。
「昭仁、昭仁、おーい」
俺は楽屋で眠たそうな昭仁の身体を揺らした。昭仁は眠たそうに、付けていたサングラスを外して目をこすった。
「ん、今日は眠いの…」
「昨日の夜は何しとったん?」
「部屋の掃除しとったら、ずっと探しとった漫画が見つかって、気付いたらぶっ通しで全巻通して読んでた…」
「明日ライヴっての分かってるのに能天気すぎる」
「結局今日も朝早くから目が覚めちゃって今眠い」
眠たい理由が何とも昭仁らしい回答だった。今さら驚くこととではないが、あまりにも突然としてハマりだす癖は直して欲しい。
「漫画読むのは良いけど…流石に歌詞は覚えてほしい…。作詞しとる俺の名誉が…」
「お昼寝したい…」
「もう11時だよ、あと2時間後にライヴだよ?」
「分かった…歌詞見ながらご飯食べる」
昭仁は眠たそうな声で答えた。俺らは楽屋に置いてあった弁当を食べながら、セットリストの確認をした。
昼食を済ませた後、1時になるとライヴの時刻となった。
「―福井は久しぶり?いや、確か今年の1月にやったんだっけ?」
「―1月の頭じゃ。クソ寒かったのを覚えてるけ。しかし、福井は東京よりも湿度が高いのぉ」
「―低気圧のせいで何もやる気が起きん」
「―今日は雨じゃから風邪引くなよ!では、聴いてください!ネオメロ!」
今日の昭仁は眠いと言いつつも、MCではあまり噛まなかった。もちろん歌詞間違いはあった。インディーズの頃からあるセンラバで。ファンからも1番と2番は間違えやすいと言われるが、こんな完璧に間違えるのは昭仁ぐらいしかいないだろう。
ライヴが終わり機材片付けた後、昭仁はそそくさと楽屋に戻ってしまった。やっぱ早く帰りたかったのだろうか。俺も機材を片付けた後、楽屋に戻った。
「昭仁、やっぱ眠い?」
「ん?もうさっぱり起きとるけえ」
「いや、いつもより楽屋戻るの早いなって」
「早く寄り道したいけぇ、すごい綺麗な花屋があって」
「珍しいの、もうすぐ結婚記念日とかでもあるん?」
「いや、ただ綺麗だったから」
「持ち帰るときどうするつもりなんだ…」
俺は昭仁の言い分に疑問しか残らなかった。その後、無事サポメンの方々とスタッフさんにお礼してからその場で解散した。俺は家で用事があったから、すぐに帰った。
新幹線の中で俺は、昭仁は今どうやって花を持ち帰ってるんだろうとか考えたりした。東京に着いた頃には厚い雲に覆われて、全体的に空が見えなかった。
―(天気)晴れ
今日は久しぶりに晴れた。それによって猛暑が加速していると感じているのは俺だけじゃないはず。
「うわー、暑いのぉ…植物も枯れるけぇ」
「昨日まで蝉鳴かんかったくせに、今日になっていきなり鳴き出したんじゃ」
「そう考えると、わしらの因島はがっつり海の方が面積大きかったから海風でまだ涼しかったんじゃな…」
「まぁそれもありそうじゃけど…確実に昔と比べて温暖化進んでるけぇ…どうにかしてくれ昭仁」
「温暖化なんて騒ぎ出したの完全に上京してかなり経った後だもんな」
「この前まで30度超えたら騒いでたのに…今じゃ当たり前になってきとう…」
俺と昭仁は暑さにやられて思考が働かなかった。それに加えて、エアコンがない部屋でスタッフに待機してろと言われた。反応楽しんでるのか…俺らを燻しにきてるのか…。窓がない部屋ということもあり、密封性が高く最悪だった。ドアを全開にして、少しでも空気を循環させた。
「そういえば、昨日買おうとしてた花は買ったん?」
「うん、今リビングの隅に置いてる」
「へぇ、なんて名前の花?」
「ホシクジャクっていうアフリカ原産の花であんま売ってないやつらしいんじゃ。後から調べて、今の時期にしか咲かないらしい」
「じゃあなんで買ったん?枯れちゃうんじゃ?」
「今綺麗な花咲かしてる花を今見せたくて」
昭仁は少し間を置いてそう答えた。少し昭仁らしくない答えが、柔らかな眼差しが自分の胸に差し掛かった。
「遅れてすみません、こちらへどうぞ」
「お、よし、ありがとうございます」
「暑かったですよね、今日は他のアーティストさんがめちゃくちゃ来てて部屋が埋まってて」
「全然気にせんで大丈夫ですよ、なんなら部屋あること自体ラッキーでしたから。外だったら蒸し焼きでしたよ」
昭仁は軽いジョークで若いスタッフの不安を消し去った。それに加えて嫌な顔せずに話せるなんて、今まで見てきた物腰の柔らかさでは昭仁ぐらいだろうか。
「ここの部屋でお願いします、先ほどは失礼しました」
「いえ!ありがとうございます!」
「あ、涼しい、ありがとうございます」
別の楽屋に案内され、今度は逆に寒く感じられるほどエアコンが完備されているちゃんとした部屋だった。
その後はあまり会話が続かなかった。ペットボトルの中身を2本飲み干すほどには普通に両者ともバテていた。
ある程度涼んできた頃には、本当の目的だった収録室を案内された。
アルバムの収録曲を何テイクか取ったあと、そのまま現地解散になった。収録する前は2時頃で、日中の中でも最も強い日差しが街を照らしていたはずだったのに、建物から出た後はもう日が沈み、建物の中から漏れ出した人工的な光が街を照らしていた。
昭仁とはちょっとした雑談をしてから別れた。
タクシーで自宅に帰る途中で、昭仁が買った花を調べた。サボテン科の花で、赤やピンクの色の花を咲かせる。花言葉は「恋の年頃」。あの人に合う言葉じゃないな。
俺はそう思って空を見上げた。そろそろ夏の大三角は見えるだろうか?晴れていたはずなのに、空は雲に覆われていた。
―天気(雨のち晴れ)
「昭仁、今日は外でのMVの撮影だったらしいんだけど出来そう?」
「そうじゃな。後で監督の方と確認してくる。梅雨も終わりかけじゃからね。
「テレビでも関東は災害級の大雨じゃって、まさか外での撮影の日に限って雨じゃの…」
「一応夕方頃には関東通り過ぎるらしいんじゃけど…野外ライヴでも雨じゃし、嫌になるな…」
昭仁と俺はラインとの連絡で他愛もない会話で、嫌な雨の音を搔き消した。
「そういえばこの前買った花の話なんだけど、サボテンは水少なくてもいいっていうのは聞いたことあるんだけど、サボテン科の花は水いるんだっけ」
「普通にいるじゃろ、綺麗な花咲かしてる時期なのに枯らすな…」
そういって送られてきた写真には、濃い赤色を施した綺麗な花だった。特に花に思い出はないが、水晶越しでも分かる強く惹きつけられる魔性の花だった。
「昭仁らしくないの」
「なんでじゃ?」
「花に興味持つなんて高校の時じゃ考えられんかったな」
「はは、そん時は陸上とサッカーに夢中じゃったから」
基本ラインでの会話は上手く進まず、今日もここで会話は途切れた。
その後は昭仁が監督に連絡して後日、また撮影を行うことにしたという連絡がきた。その後は曲を考えたりして、パソコンと向き合うだけでも窓の外は日が沈んでいた。
窓を開けて空を眺めると、冷たいと感じられる風と、雨上がりの匂いと、しんと静まり返った空気で部屋を充満していった。空は森羅万象な星で満たされた。
溢れるほど花に水をあげて綺麗な花をまた見せて欲しい。
コメント
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読ませていただきました。昭仁さんが買った「ホシクジャク」、その花言葉が「恋の年頃」というのが、彼の柔らかな眼差しと重なってとても印象的でした🌷 天気の移り変わりが心情の機微を描くのに効いていて、特に雨上がりの星空と「溢れるほど花に水を」の一文が美しかったです。バンドマン同士の距離感も絶妙で、続きが気になりますね。