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そのとき、突然気付いた。文化境界線はこの世からすっかり消えてなくなったのではなかったことを。俺のこの皮膚そのものが、国境だったことを。俺を信じろと言う前に、俺がプナールを心の底から信じてあげなければ、彼女は救われない。この俺自身を破らない限り、その国境の中で息をしている責任転嫁や他力念願を手放さない限り、殻を破って細胞レベルまで新しいエネルギーへと脱皮しない限り、本当の自由を手に入れたとはいえないし、彼女を自由にしてあげることもできない。
風は強くなった。雲が空を覆いだした。辺りは急に暗くなった。俺の声は穏やかになった。
「いいか、プナール。よく聴け。お前ならできる。お前なら絶対にできるぞ。それを、俺はよく知ってる。世の中の誰ひとり信じなくても、関係ない。世界中でたった一人になっても、俺はお前を信じている。
さあ、登っておいで。ここで見ていてあげるから。ずっと、ずっと見ていてあげるから。さあ」
太陽は地平線に接した。気付かないうちに、上空には黒い雲が張り出していた。ぱらぱらと雨粒がこぼれる。一層強くなった風は城壁に、プナールの長い髪を容赦なく打ちつけ、途切れることのない涙を染みつけている。