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この辺りの道路事情を有り体にいうと、“まるで迷路のような”という表現がピタリと当てはまる。
小路の先は別の小路に通じていて、これがきちんと本筋の市道に繋がっているかと言うと、必ずしもそうではない。
土地勘のない者が気ままに足を進めた場合、時には民家の塀がそそり立つ行き止まりに。
時には、伸び放題の雑草がさわさわと靡く空き地に行き当たる。
それにも増して厄介なのが道幅だ。
何れの小路も、人ひとりがやっと通れる程度の幅しかなく。たとえば自転車でここを走破するのは、相当の根性がいる。
「ミニ四大会、熱かったよなぁ。 お、これ……は、ただの石ころか」
「あったね、そんな事も。 小6の時だっけ?」
ただ、車が通らないという点から、この場所を遊び場に選ぶ子供たちも少くない。
視覚的にも、両側に迫る石塀や、左右に生垣を配した緑豊かな細道、庭木がこんもりと茂る自然のトンネル等、冒険心を満たすには打って付けの好材料が揃っている。
「………………」
ふゆさんにとってはどうだろうか。
少女のような、婦人のような。 何とも掴みどころのない印象ではあるが、よくよく見れば外見的には私たちと同じくらいか、ヘタをすれば年下に見えないこともない。
その足取りは最初、いたって無機質なものだった。
まるで風に煽られた雲が、ぼんやりと空を渡る様子に酷似していたように思う。
それがゆっくりと小路を辿り、細道を抜け、竹林に囲まれた坂道にいたる頃には、どことなく。
心なしか弾んで見えたのは、きっと錯覚じゃない。
「………………」
細い指先が、生垣の鮮やかな緑をそっとなぞる。
道端に猫を発見し、これと暫くにらめっこをする。
野道の先で見つけた水田を、瞳を細めて観察する。
「ここ、カブトエビやらザリガニやら、むっちゃ居たよな、昔」
「いっぱい獲ったよねー」
「今でも居るぜ、むっちゃ。 うちの玄武が元締やってらぁ、ここいらの」
「え、そんな縦社会なの?」
爽やかな風が吹き、ふゆさんの白雪のような頭髪が、ひときわ銀光を振りまいて躍った。
懐かしい景色。 あの頃を想起させる夏の風。
彼女にとっての“あの頃”とは、果たしてどういうものだったのか。
それを早く取り戻してあげたいと望むのは、いたって当たり前の、人間的な心情だと思う。
“落としもの”
それを手にすることによって、彼女は何かを思い出すのだろうか。
その思い出は、本当にただ美しいだけのものだろうか。
胸に迫る感情が何なのか、私には判別をつけることが出来なかった。