そこから始まったのは、果てしなく続くように思えたリハビリの日々だった。
最初に向き合ったのは、手のリハビリだった。
ペンを握ることすら叶わず、手を動かそうとするたびに無力感が押し寄せる。
指先に力を込める練習を繰り返す。
けれど、ペンを握ろうとするたびに、指は震え、ペンは無情にも床に転がった。
「また、だめだ。」
その失敗が、胸に重くのしかかる。
指先の震えだけでなく、自分自身が壊れてしまったような感覚に襲われる。
看護師が優しい声で励ましてくれる。
「大丈夫です。少しずつできるようになりますから。」
でも、その言葉がかえって胸を刺す。
(少しずつって、どれだけの時間が必要なんだ。)
そんな苛立ちを隠しながら、ただペンを握る努力を続ける。
それでも、数ヶ月が過ぎた頃、僕はようやく箸を使えるようになった。
そのとき、看護師が心から喜んでくれたのを覚えている。
「すごいですね!ここまでよく頑張りました!」
でも、僕の中には何も残らなかった。
(君がいないこの世界で、こんなことに意味なんてあるのか?)
次に向き合ったのは、足のリハビリだった。
脛骨と大腿骨が砕けていた僕の脚は、最初は痛みで動かすことすらできなかった。
リハビリのたびに、傷口が焼けるような痛みに襲われる。
それでも、理学療法士が励ましてくれる。
「少しずつでいいんです。今日はここまで動けば十分です。」
だけど、痛みを超えるたびに思う。
(こんなことに、何の意味があるんだ。)
脚を動かせるようになっても、君は帰ってこない。
そんな絶望が胸の奥で渦を巻いていた。
やがて、車椅子を使えるようになる頃には、
僕の心はさらに削られていた。
車椅子に乗り、窓際まで移動できるようになると、僕は窓の外を見下ろす時間が増えた。
君と見た星空を思い出しながら、何度も窓から飛び降りることを考えた。
そのたびに看護師が駆けつけ、僕を止める。
「そんなことをしてはだめです。」
「あなたにはこれからの人生があります。」
その言葉が、僕には空虚に響く。
(僕の人生なんて、君がいないのなら空っぽだ。)
数ヶ月が経ち、ようやく松葉杖を使えるようになった頃、
僕は自分の足で立つ感覚を少しずつ取り戻していた。
松葉杖を握りしめ、病院の廊下を一歩ずつ進む。
そのたびに、足元が不安定に揺れる。
それでも、なんとか前に進むことはできるようになっていた。
「すごいですね!ここまで来られたんですから、自信を持ってください。」
看護師がそう言って笑ってくれる。
けれど、僕の心は笑顔とは程遠かった。
松葉杖を握るたびに、君と手を繋いで歩いた記憶が甦る。
君の手の温もりと、君の隣で歩く足取りの軽さが、痛みを伴って胸を刺す。
「誰も何も分かっていない。」
病院の窓から見えるのは、君がいない世界。
そんな世界で、どうやって歩き続ければいい?
松葉杖を支えに、僕は再び窓の外を見つめた―――。
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