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#15 愛と恐怖の境界線
雨がしとしとと降る夜、私たちは古びた倉庫に閉じ込められた。
最初はただの恐怖だった。光の届かない空間、冷たいコンクリートの床、そして逃げられない事実。
彼──名前すら呼べなかった存在──は静かに私を見つめていた。
日が経つにつれて、恐怖は不思議な感情に変わっていった。怒りや嫌悪の感情が、少しずつ甘美な依存に変わっていく自分を感じた。
彼が私に与える小さな優しさ、食べ物や暖をくれる手の温もりさえ、異常に尊く感じられた。
「ここから出たら…誰にも言わないでくれるか?」
その声は冷たく、しかしどこか切なさを孕んでいた。
私は頷いた。なぜだか、拒むことができなかった。
ある夜、彼が微笑んだ。「ピーポー…」
一度だけ、語尾にその奇妙な言葉をつけた。私は一瞬心を揺さぶられた。なぜこの無意味な音に、こんなにも心がざわつくのだろう。
その笑顔に、私は心を奪われてしまった。逃げたいのに、逃げられない。嫌悪と愛情が同時に胸を締め付ける。
自由になった今も、私は彼を忘れられない。
社会は戻った私に「正常」と言うだろう。でもあの倉庫での夜、あの目、あの声の記憶は、深く心に刻まれたままだ。
あの約束──誰にも言わないという約束──が、私を支配している。
愛か狂気か。今でも答えは出せない。
ただ一つ確かなのは、あの夜の倉庫で芽生えた感情が、私の中で消えないことだ。
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