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東京タワーの尖端に立って日本の空気を満喫した私は、まだ陽も高いので東京観光をすることにした。と言っても警備や準備もしていないのに私が降りたったら大変な騒ぎになるのは分かるので、今回はゆっくりと飛びながら空中散歩だ。空を飛んでいるから、邪魔にはならない筈だよね。
さて、大都会東京の高層ビルの森を飛び回っていて前世とは決定的に違うものを幾つか見付けることが出来た。
真っ先に私の目を引いたのは、あちこちを飛び回る大小様々なドローンだ。確か前世でもドローンによる配達の実証実験をやってるとかニュースで聞いたことがある。あれから三十年も経てば、実用化して普及するのは当然のことなのかもしれない。
ドローンにもいろんな種類があって、荷物を運んでいるのが多かったけど面白いのは工事現場で見かけたドローンだ。
ちょっと大きな台座みたいな形をしていて、その上に作業員さんが立って高所の作業に取り組んでいた。
確かにこれがあれば足場を組む必要はなくなるし、作業効率も上がるんだろうなぁ。もちろん転落防止の柵みたいなものはあったし。
「ああ、大丈夫だよ。ちゃんと命綱はあるし、万が一の時は飛び降りるようになってるからね」
作業中の渋い作業員さんが優しく教えてくれた。突然現れた私にビックリして落ちそうになってたのは申し訳無いです……。
次に目を引いたのは、空飛ぶ車だ。THE・SF!って感じでテンションが爆上がりしたのは秘密だよ。まあ、私自身がSFな存在だけどさ。
ただ、数はそこまで多くないし、決められたコースを走るだけらしい。まだまだ普及させるには時間が必要みたいだ。飛んでる車も富裕層が持ってる私用車と緊急車両が中心だね。
『文明レベルはそれなりの水準を維持していますね』
「まだまだ、地球は発展途上だから」
つまり、これからどんどん進歩していくってことだよ。数百年間停滞しているアードからすれば、地球との交流は良い刺激になる筈。
……って!
「危ないっ!」
『ティナ!?』
不注意に車道へ飛び出した子供がトラックに轢かれそうになってるのを見付けた私は、翼を思いっきり羽ばたかせて急降下!寸前で子供を抱き抱えて歩道に降ろして!
「ごめんなさい!」
避けようとしたトラックはバランスを失って、このままじゃ歩行者の群れに突っ込んでしまう。ドライバーさんごめんなさい!
そのまま翼を羽ばたかせて加速し、暴走するトラックの前に降り立ち、盾を構えて真正面から受け止めた。
私の盾はビームだけじゃなくて物理ダメージにも対応できる。専用のシールドで衝突のエネルギーを吸収して最小限に抑える。ただ大事なのは最小限であってゼロではない。
トラックの衝突エネルギーは相当なもので、私は結構強めの勢いで後退る事になる。確かにアード人のフィジカルは地球人を凌駕するし、普通なら対物障壁魔法を同時に展開して受け流す。でも私の魔法なんて気休めにしかならないし、何より消耗が激しすぎる。だから、力一杯踏ん張るしかないっ!
で、何が起きるか。草を編んだだけのサンダルが摩擦に耐えられる筈もなく、底は一瞬で磨り減り直ぐに素足とアスファルトがご対面を果たすわけで。
「痛ったーーーいっっ!!!」
アスファルトで足の裏をガリガリ削られる感覚、とんでもない激痛だ。でも、ここで逃げたら後ろの人たちが危ない!
痛みに耐えた甲斐があって、歩道の手前でトラックは止まった。エネルギーの大半を盾が吸収したためか、目だった損傷もない。
そして同時に周りに居た大勢の人が大歓声を挙げた。そして拍手の嵐だ。
ただ私もそれに反応する余裕はなくて、その場に座り込んでしまう。
「痛たたたたっ……はぁ、これは酷いや」
両足共に血塗れ、足の裏は真っ赤だ。あっ、血の色は地球人と同じだよ。同じ成分があるのかは知らないけど。
『ティナ、医療シートの使用を推奨します』
「分かってるよ」
これまでの反省で個人用の医療シートを持ち歩くようにしてる。いっつも怪我をするか怪我人を手当てしてるけど、治癒魔法だと消耗が割に合わない。毎度マナ欠乏症になって倒れるわけにもいかないしね。
「大丈夫ですか!?」
「これは酷い……貴方!救急車を!」
「はっ、はいっ!」
座り込んでいる私の周りに人が集まってきた。皆心配そうな顔をしてる……あっ、動画撮ってる人が居る。
「君!やめたまえ!英雄に恥ずかしくないのかね!?」
「なんだよオッサン!」
中年のサラリーマンさんが動画を撮影してる若い人に注意してる。
「私は大丈夫ですから、皆さんお怪我はありませんか?」
「ああ、君のお陰だよ!」
「ドライバーも無事だ!」
良かった、皆無事だ。安心していると、一人の中年紳士が屈んで、私の足を見て眉を顰めた。
「取り敢えず、応急措置をしよう。私は医者でね、君は……噂の?」
「はい、惑星アードから来ました。ティナです」
「そうか……身体の作りが違うだろうが先ずは止血しないと」
「ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫……あっ」
私は今になって普段身に付けてるポーチが無いことを思い出した。ばっちゃんを送るフェルに頼んで持ち帰って貰ったんだ。
美月さんへのお土産を忘れていたから、戻るついでにポーチに入れて欲しいとお願いしたんだよね。
夕方には合流する予定だったし、大丈夫かなと思ってた。
……当然ポーチに入れている医療シートも手元に無い。自分の間抜けっぷりに溜め息が出そうになった。
「とにかく止血しよう。皆さん!ハンカチなどでも構いません!清潔な布を!早く!」
お医者さんの呼び掛けで周りの人達がハンカチなんかを取り出して、お医者さんがそれを使って傷口を抑えてくれた。痛みはあるけど、簡単な包帯みたいな感じになったかな。
「退いて!道を開けて!」
「ここだーっ!」
「こっちだ!早く!」
思ったよりも早く救急車が駆け付けて、私を担架に乗せてくれた。
「ごめんなさい、ご迷惑を……」
「何を仰るか!ここに居る皆が貴女の勇気ある行動を見ていた!貴方は大勢の人を救ったんだ。胸を張ってください!」
「むしろ、手当てを行えて光栄だよ。さっ、早く病院へ!」
「ありがとうございます」
そのまま私は空飛ぶ救急車で搬送された。またフェルに心配かけちゃうな……ばっちゃんなら笑い飛ばして誉めてくれそうだけど。