評価を聞いた後、館林さんから講習の終了の認定を貰って、その場で別れた。
これで、晴れて俺も冒険者になったのだ。
空を見上げれば雲と青空が半分半分で、自分の中にある不安と希望がゴチャ混ぜになった今の気分を表しているようだ。
そう、希望、希望があるのだ、今の自分の中には。
親の脛を齧りながらでも、自分の夢に向かって一歩でも進めたと言う事実が、確かな達成感となって心の中に根付いていた。
よーし、パパ今日は稼いだお金で父さん達に良い物食べさせるぞー!
ハイに向かっている精神で施設内の食堂に向かい、今日の収支の計算を始める。
今回取得魔石量:82g(0.1g以下切捨)
魔石の重量 1g = 魔力量 1mp(マジックポイント)
取得魔力量:82mp - 個人使用魔力量:0mp = 残存魔力量:82mp
残存魔力量:82mp - 召喚時消費魔力量:100mp = 最終魔力量:-18mp
本日の魔力レート:1mp = 102円
-18 × 102 = -1836
本日の利益 -1836円
( ゚д゚ )
( ゚д゚)
本日の利益 -1836円
( ゚д゚ )
あれ… おかしい、おかしいよ?
召喚時消費魔力量:100mpって。
まって。サイトにある数字の計算だと合計で38mpになるはずでは…
え? この数字は種族毎の基本値?
個体特性・特技によっては増える事も!?
待って、増え過ぎ、増え過ぎだって!?
結論:バルクさんはマッチョでも太い御方でした(mp的な意味で
次回からマリィさんも呼ぶんですが、もしかして彼女も太いおk
t
思考が何故か途切れていたが、何も無かった。ツキガキレイデシタネ。
何も無かった。(強弁
うおあああぁぁぁぁぁぁぁー
どうしよう。それにしてもどうしよう。本当にこれは不味い。
しばらくGランクで修行を積むつもりだったのに、Fランクに行かないと黒字にならない。
のびのび「ぼくの夏休み」気分で行くつもりが、サツバツ!「夏の強化合宿 ~ドキッ ポロリもあるよ~ 身体欠損的な意味でナァ!!!」になってしまった。
なんてこった。
…悔やんでも仕方が無い。
事業計画の組みなおしだ。今日の取得魔力は全部召喚デバイスに補充しよう。
武器防具に充填して性能の底上げをしておきたかったんだけどなぁ…
ああ、今日の報告は気が重い。あ、家に帰る前に役所に寄ってダンジョン外の召喚許可証を申請しておかないと。
あああああ、手持ち資金が減っていくぅぅぅ……
クリア直後のハイテンションから一転して失意のドン底に落ちた気分を引きずって帰宅する。
「ただいまー……」
「ん? 守か、おかえり」
「あれ? 今家に居るのは父さんだけ? 母さんは?」
「母さんなら買い物からまだ帰ってきていないな。ああ、報告なら後で良い。夕飯の時にでも話をしてくれよ」
「了解」
風呂掃除→そのまま湯沸し→ヒャッハ~一番風呂だーの流れから部屋に戻り、まずは一人で反省。
何よりもまず反省すべきなのは、ウルフ+小鬼の件だ。
どう考えてもあれは俺のミスだ。
事前の打ち合わせと訓練も無しに騎乗させたのは今考えると、どうかしているとしか思えない。
騎乗用の鞍・鐙の用意もそうだけど、何よりも練習が必要だ。
訓練場を借りるか、Gランクダンジョンで真剣稽古するか。
訓練場を借りる場合は幾ら掛かるんだろうなぁ。
召喚するたびにMPを消費する事も考えると、一ヶ月丸々訓練するわけにもいかないし……
消費と言えば、召喚MPの件もそうか。経費が当初見積もりの倍以上とか、どんな見落としだ。サラリーマンになったら一発でクビになる。
ていうか、なんちゃって事業主の俺の場合は事業倒産一直線の危機である。
いっその事、次はいきなりFランクに行くべきか?
反省のような自己嫌悪のような負のスパイラルに陥りながら夕食の時間を迎える。
「「「いただきます」」」
夕食はいつもより心持ち豪勢な感じだった。
「それで、今日はどんな感じだった?」
父よ、いきなりか……!
「……大変だった。結論から言うと最初に考えていたのと全然違った」
隠してもしょうがないので全て報告する。
午前の講義が事前に調べていた事とほぼ同じ内容だったこと、
食堂のクオリティが意外と高かった事、
ダンジョン内の初戦闘からボス討伐までの流れ、
そして今回の収支と赤字の原因、
最後に今後の方針について悩んでいる事も。
二人とも、笑いながら、呆れながらも真剣に聞いてくれた。
初戦闘の流れは話した後で母さんに、はたかれた。食事時に聞きたい話かと言うとたしかにアレですが。
父さんは顔を背けて震えていた。アレは爆笑を堪えていたはずだ。
「初心者の内は儲からないって分かっていたはずだけど…… ダンジョンでアイテム使わなかったし、皆怪我とかも無かったのにまさか最初から赤字になるとは思わなかった。八月は慣らしで最後にFランクに挑戦してみようかと思っていたんだけど、次にでもFランクに行かないと採算が取れないよ」
「そうか。まぁそうなるだろうとは思っていたが」
何ですと。
「父さん達だってお前とは別に冒険者について調べたさ。お前の今の身の回りで、どのくらい金が掛かるのかもな」
なら何で教えてくれなかったのだ、とは言えない。
それはさすがに恥知らずにも程がある。
「分かっているとは思うけどね。母さん達は今でも守が冒険者になる事…… なった事、続ける事を認めはしたけれど望んでいる訳じゃないのよ」
両親からすれば当然の意見だと思う。
逆の立場で考えれば自分だって止めるだろう。
「だから守、スポンサーとしての父さんから指示をだす。資金の不足分は追加で貸し付ける。お前が行けると思うまでFランクには行かず、しっかり訓練しろ。いのちだいじに、というヤツだ。何、百万くらいまでなら気にするな。たとえ冒険者を辞めたとしてもしっかりお前に返して貰うからな!」
「そうよ。生きていれば返せるんだから、お金で済む事は母さん達に相談しなさい」
にこやかに心の広い言葉を掛けてくれる両親に、ありがたさと申し訳無さで涙が出そうになる。
夕飯を速めに食べ、自室に戻る。
資金を借りるにしても甘える訳には行かない。
事業計画と返済計画を徹夜で練り直す。
「高校卒業までに借りたお金を返せない場合は冒険者を辞める事」
最初の資金借入時に付けられた条件を思い出し、両親の発言の優しさの成分が半分位だった事に思い当たるのは翌朝に計画の修正が終わった後の事だった。
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