「シン、電気消せ」食事が終わると湊は電気を消すようにシンに言った。
カーテンを開け、窓を全開にして縁側に腰掛ける。
見上げた夜空は少し雲がかかっていたが隙間から神々しく丸い月が顔を覗かせている。
湊の隣にシンが同じく腰掛けるとふたりで見上げる。
9月半ばなのに外はまだ蒸し暑く決して涼しいとは言えないが、庭のあちらこちらから虫の声が聞こえている。
中秋の名月。
秋の風情を目で、耳で感じていた。
「キレイだな……」
月を見上げながら、ふと湊が呟く。
「…はい。とてもキレイです」
その声が真横から聞こえたので湊はシンの方へ顔を向ける。
「おい…どこ見て言ってんだ……」
「湊さん……」
「ばかっ月を見ろ!月をっ」
月を指して見るように促す。
「月より湊さんを見ていたい…」
「お前には情緒ってもんはないのかっ」
「もちろん中秋の名月もキレイです。だけど隣にそれよりずっとキレイな湊さんの顔があるんです。見惚れないはずありません」
「俺の顔なんていつでも見れるだろっ」
「今夜の湊さんの顔は今しか見れません」
はっきり言い切るシンにこれ以上何を言ってもムダだ…そう悟ると
「勝手にしろ……」
再び月を見上げる。
月明かりに照らされた湊の横顔は神秘的だった。
「いつまで人の顔見てんだ…」
見上げたまま湊が言った。
「飽きるまで…?」
「いつ飽きるんだ?」
「わかりません…」
「うぜぇ…笑」
笑いながら、
「クビが疲れてきたな……」
そう言って寝そべる。
「こっちの方がラクだ」
足を投げ出して大の字になる湊の顔を覗き込む。
「まだ見てんのかよ……」
「もっと…近くで見たい」
そう言って顔を近づけてくる。
「おぃ……」
キスされるのかと思った湊は直前で止まったシンの顔をまじまじと見る。
「シン……?」
「やっぱりキレイですね…ふたつも月が見える」
湊の瞳を食い入るように見る。
「…は?」
今宵のお月見は湊の瞳に映る月で十分だとシンは思った。
「キス…されるかと思いました?」
湊の瞳を見ながら意地悪そうにシンが言った。
「うるせぇどけっ!見えないっ!!」
図星をつかれて赤くなる。
そんな湊が可愛いくて期待に応えるように湊の手に自分の手を重ねるとゆっくりと口づける。
「…!」
「やっぱり我慢できませんでした…」
「…………ばーか…」
見上げるシンの顔の横には待宵の月が煌やいていた。
【あとがき】
今宵の月があまりに綺麗で感動して書いちゃいました。
特にオチも何もありませんが……笑
コメント
3件
今回も最高です😊 期待しちゃう湊さんも可愛いしシンちゃんがずっと湊さんに見惚れてしまってる姿も想像できてしまう💕 また楽しみに待ってます💕💕