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お昼休み。購買でパンを買って教室に戻ろうとすると、後ろから制服の首根っこを軽く引っ張られた。
「……うわっ、びっくりした。遥?」
「おい。ちょっと来い」
振り返ると、遥が不機嫌さを隠そうともしない顔で立っていた。彼は私の返事も待たず、階段の方へと歩き出す。連れて行かれたのは、普段は鍵がかかっているはずの屋上へと続く踊り場だった。
「……何? 急に。お昼、食べようと思ってたのに」
「これ、食え。お前の好きなやつだろ」
遥が差し出してきたのは、購買でいつも真っ先に売り切れるはずの人気メニュー、いちごミルクとチョココロネだった。
「え、これ……わざわざ買ってくれたの?」
「……別に。ついでだよ、ついで」
遥は壁に背を預け、気まずそうに視線を泳がせた。朝、あんなに刺々しかった彼が、今はなんだか私と目を合わせるのを怖がっているように見える。
「……さっき、成瀬先輩と話してたろ」
「あ、見てたんだ」
「あの人の言うこと、真に受けんなよ。……あの人も兄貴も、お前をからかって楽しんでるだけなんだから」
遥の声は、少しだけ震えていた。
それは朝の部室で見せた苛立ちよりも、ずっと幼くて、切実な響き。
「私は……、誰に何を言われても変わらないよ。遥のマネージャーなんだから」
私がコロネの袋を開けながら笑うと、遥は一瞬だけ呆然としたように私を見た。それからすぐに、乱暴に自分の前髪をかき上げる。
「……ふん。分かってんならいいよ。さっさと食って戻るぞ」
遥の耳が少しだけ赤くなっている。
凌先輩が漂わせる洗練された雰囲気とは違う、この不器用な優しさに、私は少しだけホッとしていた。