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ぽん
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とうめい
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黒い二本の角の間から覗く水色の髪が、ふわりと揺れる。
「ごめんね。どうしても人が多くてさ」
ルシアンさんはベッドの上で長い脚を引き寄せ、片膝を抱え込むようにして座り直した。
教室の前で見た冷たい空気感とも、取り巻きに向けられていた顔とも違う。シャワーブースで話した時と同じ、飾り気のない優しい声だった。
「あそこじゃ、お互い話しにくいでしょ。……そんなに身構えないで」
「あ……は、はい……」
金属扉が背後で重く閉まる。密室の静けさに心臓が跳ね上がり、私は息を呑んだ。
私のためにわざわざこんな場所を用意してくれたんだ、早く言わなきゃ。ちゃんと言葉にしなきゃ――そう焦るほど、喉の奥が引き攣ってしまう。
「あの……ルシアンさん。今日は、本当にありがとうございました。足を引っ張っちゃったのに、最後まで優しくしてくれて……」
ルシアンさんは小さく頷いて、私の言葉をただ受け止めてくれる。
――そこから先が、どうしても口から出てこなかった。
本当に、私なんかが頼っていいんだろうか。迷惑じゃないだろうか。
喉の奥に言葉がつっかえて、俯いたまま立ち尽くしてしまう。
「……リルティ。この後、時間ある?」
「え……?」
思わず身を固くして息を呑む私を見て、ルシアンさんはふっと口元を緩めた。
抱えていた膝から腕をほどき、ベッドの上にトンと手のひらを置く。
「そんなに怯えないで。簡単なやつだから」
「簡単な……やつ……?」
「うん。……ちょっとだけ、練習してこっか」
ルシアンさんはベッドの上で体勢を崩し、空いているスペースを指先でトントンと軽く叩いた。
その仕草には気負ったところがまるでない。放課後に友達とお喋りでもするような、どこか気まぐれな軽やかさがあった。
「ほら、こっち来て」
「は、はい……」
言われるがまま、私はベッドの端に恐る恐る腰を下ろす。
「手、貸して?」
「えっ……あ、はい」
ルシアンさんに促されるまま右手を差し出すと、私の震える指先を、彼女の両手が優しく包み込んだ。
ぎゅっと握るわけでもなく、ただ何かを確かめるように、滑らかな指が私の手首から腕、肩へとなぞるようにゆっくりと滑っていく。
「……っ」
鎖骨のあたりに指が触れた瞬間、ビクッと肩が跳ね、肋骨の裏で心臓が早鐘のように鳴り始めた。
痛くもなんともない。ただ肌を撫でられているだけなのに、条件反射で身体の芯が強張ってしまう。
「……硬くなってるね。怖い?」
「こ、怖くは……ない、です。ただ、その……」
言い訳を探して口ごもる私を見て、ルシアンさんは責めることもなく、すっと手を離してくれた。
「そっか。じゃあ、一回深呼吸して。無理に抱きついたりしないから、リラックスして」
言われた通りに目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込む。
実習室のような抑制剤のない空間。ルシアンさんの身体から放たれる、甘いバニラのような極上のフェロモンが肺の奥へと流れ込んでくる。
ほんの数回深呼吸をしただけで、頭の芯がぼわーっと痺れ、手足の感覚がふんわりと溶けていくような錯覚に襲われた。下腹部の奥が、勝手にじわじわと熱を帯びていく。
「……っ、ふぁ……ぁ」
「うん、大丈夫」
熱い吐息を漏らしかけたところで、ルシアンさんの淡々とした声が響いた。
ハッとして目を開けると、彼女は私の反応を静かに見つめてから、一つ頷いていた。
「あ、あの……これが、練習、ですか……?」
「んー? いや、君の身体がどう反応するか見て、何しよっかなーって考えてただけ」
ルシアンさんは気だるげに首を傾げると、ベッドの上で少し体勢を変え、自分の前のスペースをポンポンと叩いた。
「よし。こっち来て、ボクの前に座って?」
「あ、はい……」
言われるまま少し位置をずらし、ルシアンさんに背中を向ける形で腰を下ろす。
すると、背後からするりと両腕が伸びてきて、私のお腹を抱え込むように回された。
「ひゃっ……」
「力抜いてー。背中、もたれかかっていいよ」
背中越しに、ルシアンさんの柔らかな胸の感触と体温がぴったりと密着する。
逃げ場のないバックハグの体勢。私の肩口にルシアンさんの顔が近づき、吐息が直接首筋に吹きかかった。先ほどよりもずっと濃密で、むわっとした甘い熱気と香りが私を包み込む。
「……ねえ、リルティ。いつも実習ってどんな感じなの?」
「どんな、って……」
「ん。どうしていつも失敗しちゃうのかなって。どうなっちゃうの?」
耳元で囁かれる声は、低くて優しい。
自分の不出来を口にするのは恥ずかしかったけれど、ルシアンさんの静かな体温に促されるように、私はポツポツと正直に話し始めた。
「……いつも、相手のフェロモンにあてられると、すぐ身体が反応しちゃって。頭が真っ白になって……すぐ、イッちゃって。我慢しようとすると余計にパニックになって、たまに、気を失っちゃったりとかも、あって……」
「そっか」
呆れられるかと思ったけれど、ルシアンさんは私のお腹に回した手を優しくポンポンと叩くだけだった。
「じゃあ今日は、ボクのフェロモンを吸うことだけ意識して? ちょっとずつ慣れてこっか」
「吸うこと、だけ……」
「そう。我慢しなくていいよ」
お腹に添えられていた手が、実習着の上からゆっくりと私の胸元へと移動してくる。
「楽なイキ方、教えてあげるから」
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