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Irregular Casino

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Irregular Casino

3 - 第3話

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2025年05月18日

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カジノの喧騒の奥。ステージ裏近くの廊下。夜のラッシュがひと段落し、初兎は控室へ向かおうとしていた。


「ねぇキミ、さっきステージで踊ってたね。バニーガールなのに、男なんだ?……面白いじゃん」


不意に腕を掴まれ、初兎の背筋が凍る。

悪びれもせず近づいてくるのは、どこか目の座った酔客。スーツの下に隠しきれない乱れた雰囲気。


「僕、もう休憩時間なんで――離してください」


「逃げなくていいよ。男でも……キレイな顔してる子、俺、好きなんだよね」


その瞬間、初兎の心に警報が鳴った。だが身体は硬直し、声も出せない。


(誰か、助け――)


バンッ!


「その手、今すぐ離せ」


低く響く声と共に、廊下の奥から現れたのはIf。

黒のジャケットを翻し、いつになく鋭い目をしている。


「なんだよ……オーナーだっけ? こいつ、スタッフでしょ? 客にサービスするのが仕事――」


「お前みたいなのは、客じゃない。今すぐ出ていけ。次に触れたら、指の一本じゃ済まさない」


一歩、また一歩とIfが近づくたびに、相手は怯えたように後退りし、やがて逃げるように去っていった。


静寂が戻る。


初兎はまだ固まったまま。

そんな彼に、Ifはゆっくりと近づき、そっと肩に触れた。


「大丈夫、初兎。もう、誰にも触らせない」


「……まろちゃん……」


その呼び名に、Ifの表情が少しだけ緩む。


「ごめん、僕……また守られてばっかだ」


「いいんだよ。守りたいって、思ってるんだから」


「でも、怖かったのは……僕が弱いからで……」


「違う。初兎は優しいから、ちゃんと怖がれる。だから俺が、守る理由があるんだ」


Ifはゆっくりと、初兎の頬に触れた。

その手の温度が、凍った心をじんわりと溶かしていく。


「俺はさ、お前が男でも、バニーでも、関係ない。初兎が“初兎”だから、好きなんだ」


「……それ、今……告白?」


「そう取ってくれるなら、答えが欲しい」


初兎は小さく笑って、そっとIfの胸に額を預ける。


「……まろちゃんのこと、ちゃんと好きだよ。ずっと前から」


その瞬間、世界が音を立てて静かになった。


バニーの仮面を脱いだ“僕”と、冷静を捨てたオーナーが、ようやく“恋人”として向き合った夜だった。

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