倭国では、特殊な武器のみならず、発達した特殊な発明でも有名で、むしろ、キルロンド王国やエルフ族が異邦人と交友関係にありたいのは、そこが主の理由だった。
数日間、キルロンドの生徒に、倭国都市部の学生、明地拓真と、稲作村の田舎出身、風間咲良が入った鍛錬期間が行われた後、暫く遠征に出ていた “統領” が帰還したとの通達が入り、シルフと山本大智先導の元、倭国の統領へと会いに来ていた。
生徒全員、緊張を胸に、整列して統領の入室を待つ。
「だ〜か〜ら〜、護衛は要らないよ〜。来ているのは学生さんだよ〜?」
「統領がそんなことではどうするんですか!! ほら、髪もしっかり整えてください!!」
すると、外からは力の抜けた男の声と共に、固い口調の女の声がドアの外から響き渡る。
バタリと開かれたドアからは、ボサボサ髪の男と、装備に身を固めた女性騎士が入室した。
「おお〜! みんな装備かっこいいね〜!」
統領と思わしき男の最初の一言に、緊張していた全員は呆然と、ニタニタ眺める男を見遣る。
「ほら! 皆さん呆然とされてるじゃないですか!」
「アハハハ! 酒井くんは硬すぎるんだよ〜!」
そんな中、シルフは前に出る。
「お久しぶりです、統領殿」
「ハハ、久しぶりだね、シルフくん。確かに統領になったけど、呼び方は前のままでいいのに〜」
そんな軽い挨拶を済ませると、男はキルロンドの生徒達の前に出る。
「初めまして。僕が倭国の統領、徳川勝利だ。統領って聞き慣れない言葉かと思うけど、キルロンド王国で言うところの、一応国王に当たるかな。そんな偉いわけじゃないんだけどね〜」
いや、国王なら偉いだろ……という想いを内面に潜ませながら、全員揃って一礼した。
「こっちの子は僕の右腕の酒井杏香くん。めちゃくちゃ強くてめちゃくちゃ怖いから、みんな気を付けてね」
そう言うと、酒井は溜息を吐きながら頭をボリボリと掻いていた。
「私の紹介はいいですから、そんなことよりも統領、今日はキルロンドの生徒様方に、魔族襲来の為の備品を提供するんですよね?」
「ああ、そうだった、そうだった! 外に待たせているんだ! すまない、入って来てくれ!」
そう言うと、ドタバタと音を鳴らせながらでんぐり返しで髪がボサボサの女が入室した。
最早、キルロンド生たちは空いた口が塞がらない。
「すみません……ギリギリまで作業してて……えへへ」
「アハハ、君はいつもドタバタだね。紹介しよう。彼女は倭国随一の科学班の班長、松永美保くんだ。この後、松永くんたちの研究施設に行って、君たちに贈り物があるから楽しみにしていてね」
統領である徳川、右腕の酒井、科学班長の松永に連れられて来たのは、科学班の地下発明所だった。
大きなビルの地下に点在しており、広大な地下施設が広がっていた。
「さあ、学生諸君。君たちへの贈り物はコレだ!」
そう言うと、徳川はスーツをガバッと開く。
「は…………?」
全員はポカンと口を開けるが、酒井が胸元のネックレスを掲げると、「こちらです」と顔を向けた。
「あ、え…………ネックレス…………?」
最初は徳川が突然スーツを脱いだことに驚いたが、次は贈り物がネックレスだと言うことに驚く一同。
「ふふふ、これは優れ物でね。なんと、胸から電波を促すことで、身体能力を測定し、それを数値化して脳に送ることができるのだ!」
ふふん、と徳川は自慢家に胸を晒し続けるが、学生諸君はポカンと意味が理解できていなかった。
「おわっ!!」
すると、突如、一番端にいた凪が声を上げる。
「ほうほう……180だねぇ……」
するりと、松永は凪にネックレスを装着させていた。
「な、何の数字なんですか…………?」
「君の攻撃力だよ。剣を振るった時のね」
そして、先程の統領の説明を思い返し、ハッとする。
「ああ! それが数値化!! え!? 剣を振るった時の力が分かったってことですか!?」
「そーそー! このネックレスはただの装飾品じゃない。れっきとした装備さ。全身の筋肉量や肺活量、血の流れなどを元に計算し、今の攻撃力という数値を出せる!」
「す、すげぇ…………!」
途端に盛り上がると、全員分用意されているネックレスを全員が途端に身に付けた。
「凪よ!! 先程、180と診断されていたな!! 俺様は430だぜ!!」
最初にニタリと声を上げたのは、キラ・ドラゴレオ。
次いで、キースも410と凪を大きく上回っていた。
「ああ、君たちはきっと大剣使いなんでしょ。君たちの年齢の大剣使いの平均は400くらいだから、まあちょっと強いかな〜くらいだよ」
説明を受けると、二人は少し恥ずかしそうに黙った。
「ちなみに……短剣使いの平均っていくつですか……?」
リゲルは、自分の数値を見たのか、静かに手を上げる。
「うーん、属性や職業に寄るけど、基本的な前衛の剣士くんなら200〜300くらいじゃないかな?」
すると、リゲルはホッとした顔を浮かべた。
「えぇっ!?」
次に声を上げたのは、ヒノトだった。
「俺……剣士なのに500越えてるんだけど…………」
「えぇ〜!! 凄いじゃん!! 成人した斧使いくらいの攻撃力だよそんなの!!」
その数値に、開発者の松永も目を輝かせる。
そこに、グラムは手を上げる。
「ヒノトは普段、魔力暴発という異端な攻撃スタイルだから、自然と全身の筋力が凄いんじゃないか……?」
「ああ、そう言うことか……。確かにそう考えると、まあ平均くらいなのかな…………」
更に、ネックレスには別のモードもあり、横のボタンを押すと、体内に流れる魔力なども知ることができる。
「凄いですね、こんな装備、魔力戦争の時代には考えられませんでしたよ。倭国の発明は素晴らしいですね」
シルフも、ネックレスを身に付けながら微笑んだ。
そして、この数値を一つの指標とし、これからの訓練に活かすということで、解散となった。
帰り道で、ヒノトは統領、徳川に引き止められた。
「すまないね、疲れているだろうに」
「い、いえ…………。今日は統領に会うからって、鍛錬は通常より少な目でしたので…………」
ボサボサで、フラフラした様子の徳川だが、対一で話すと、強い威圧感を感じた。
「ラス・グレイマンは元気かい?」
その名前に、ヒノトは目を見張る。
「と、父さんを知ってるんですか…………?」
「ああ、僕とラスは、同じ師匠の元で育ったからね。 “狐架” 。ラスから習わなかったかい?」
「習ったんですけど……俺、魔法使えなくて、一つか二つの型しか使いものにならなくて……」
ヒノトは半笑いで、頭を掻きながら答えるが、徳川は笑っているようで目は笑っていなかった。
「僕たちに “狐架” を教えてくれた師匠は、今も生きてこの倭国に居る」
その言葉に、ヒノトは再び笑みを制される。
「えっ…………それじゃあ…………」
「魔族軍がいつ来るのかは分からないが、倭国の科学力があれば遠方の群衆を捉えることができる。多少の猶予はあるだろう。時間がある時にでも、『真の技』を学んでくるといい。名を坂本達巳。槍の名手だ」
そう言うと、後ろから大きな声で怒った声を上げる酒井をニコリと微笑みながら、徳川は去って行った。
「父さんに……異邦剣術を教えた師匠…………」
ヒノトは一人でに、胸に手を当て、その鼓動が早くなっていることをグッと堪えた。