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名前を呼ばれた気がした。そこから五感が研ぎ澄まされていく。
「!?」
謳華は目を見開いた。乱れた呼吸を整えながら周囲をみる。
「病院…。」
点滴に繋がれた手を天井にかざし、下ろしたその指で唇をなぞる。
「(キスされた…なんで!?)」
それだけじゃない。
「好きって言っちゃった…。」
顔を覆い深いため息をつく。どんな顔して爆豪に会えばいいか分からない。とりあえずナースコールを押すことにした。
寮の就寝時間が迫る頃、相澤先生がやって来て。
「北条が目を覚ましたそうだ。」
その言葉に、その場にいる切島や上鳴、麗日や芦戸は手を取り合うなどして喜ぶ。
それはエレベーターに向かう爆豪にも届いた。
「(やっと起きたかよ、眠り姫。)」
あの戦いから3日後、謳華は目を覚ましたのだった。
翌日の放課後、皆でお見舞いに行く。
「皆久しぶり。」
女子は一斉にベッドの周りに駆け寄って言葉をかける。
「爆豪、いい加減入ってこいよ。」
切島の言葉に、皆海が割れるが如く病室の両側に寄った。
「余計なことしやがって。」
謳華の側にきて目線を合わせるためしゃがむ。
「久しぶり、あだっ!?」
「かっちゃん!?病み上がりの北条さんになにデコピンしてんのさ!!」
「心配かけやがって…!!」
慌てふためく緑谷をよそに、爆豪は前髪を掴みうつ向いている。
「心配かけてごめんね。先生から聞いたよ。爆豪君のキスがなかったら、」
「その話はもういい!!」
「あのあとさんざんニュースになって、2人とも絶賛時の人だよ。」
すかさず瀬呂がフォローする。
「うちら有名人じゃん。ウケる。」
「ウケてんじゃねぇよ。」
「見たものをアニメ動画にできるジャーナリストがあの時いてね、」
緑谷が説明しながら動画を見せてくれる。
「盛り過ぎじゃない??」
「ほんとにこの動画の通りだったよ!!」
「ケロッ。何回観ても飽きないわ。」
「うっとりいたしますわ。」
「これつまみにお酒飲める。飲めないけど。」
「てめぇらマジでいい加減に!!」
「大声出さない。」
「火気厳禁。」
緑谷のスマホを奪わんとするところを瀬呂と切島に押さえられる。
「退院はいつなん??」
「明日のお昼よ。」
「じゃあ夜はパーティーな!!」
「諸君、早速買い出しにいこうではないか!!」
飯田の言葉に賛成一致で、謳華に言葉をかけ皆病室を出る。
「なんか食いたいもんは。」
「辛いもの以外なら何でも。」
「おう、まかしとけ。」
久しぶりに見る笑顔に安心して爆豪も病室を出た。
そして、夜にパーティーは盛大に行われた。
皆それぞれ就寝の準備をしている頃。
「謳華ちゃんまだ寝ないの??」
「うん。溜まった汚れ物洗濯したくて。」
葉隠達におやすみと言って洗濯部屋に行くと。
「謀ったように毎回いるね。」
「謀ったのはてめえだろ。」
しれっと鼻歌を歌いながら謳華は洗濯機のボタンを押す。
「歌の稽古、これからどうすんだ。」
「今先生探してもらってる。名乗り出てる人全員の身辺調査も加わって、決まるの時間かかるって。」
「秘密結社出身は二度とごめんだぜ。お前もそうじゃないかって一瞬アイツら焦ってた。」
「私の身の潔白は証明されてるのでご安心を。歌以外のお稽古は今まで通り…付き合ってくれたりするのかな…。」
「なに口籠ってるんだよ。」
「だって…。」
うつ向いて顔を赤くしている謳華を見て理解した。
「俺もお前が好きだ。だからいつも通り付き合う。」
あの時と同じ、頬を包み込んで顔を上げさせる。
「覚えてたんだ。あの時好きって言ったの。」
「忘れるわけねぇだろ。不謹慎だけど、アヴェマリア歌ってる謳華、綺麗だった。」
「名前呼ばれるの、これが初めてじゃない気がするけど。いつだっけ??」
「さあな。」
「もっと呼んでよ。」
「呼んでやんねぇ。」
「じゃあ洗濯終わるまで踊ろ。」
と手を取り謳華は歌を口ずさむ。
「“恋とはどんなものか”だろ。」
「正解。」
今はここがお互いの気持ちを確かめるには良い舞台だけど。
「(No.1ヒーローになった暁には、それにふさわしい舞台で謳華と…。)」
華やかな舞踏会、白いドレスを着た謳華と踊る姿を見守るクラスメイトや他の観客達が、既に爆豪の目には映っているようだ。