合宿所に到着した途端、山の洗礼のような冷たい空気に包まれた。けれど、バスを降りた部員たちの間には、それとは対照的な熱気が渦巻いている。
「全員、荷物を置いたら5分以内にコートに集合だ! 遅れたやつは外周から始めるぞ!」
小谷先生の厳しい号令が響き、部員たちが一斉に動き出す。
私はマネージャーとして、重いジャグ(水筒)を両手に抱えて、急いでコートへ向かおうとした。
「紗南ちゃん、重いよね。……半分持つよ」
横からスッと手が伸びてきて、凌先輩が重い方のジャグを軽々と持ち上げた。バスでの出来事を感じさせない、副部長らしい爽やかな振る舞い。
「あ、ありがとうございます、凌先輩」
「いいんだよ。……さっきのカフェオレは残念だったけど、紗南ちゃんの手元に僕の気持ちが少しでも残ったなら、それでいいしね」
先輩はそう言って、私にだけ見えるように小さく微笑んだ。
……その様子を、少し離れたところで準備運動をしていた遥が、不機嫌そうに睨みつけている。
「……おい、紗南! チンタラしてねーでさっさと来い。水がねーと練習始められねーだろ」
遥のわざとらしい怒鳴り声。
凌先輩は苦笑しながらジャグを置くと、「じゃあ、後でね」と私の肩を軽く叩いてコートへ向かった。
「……もう、紗南ちゃん。あなたがモテるおかげで、うちの部の『二大巨頭』が練習前からバチバチじゃないの」
いつの間にか隣に来た部長の成瀬先輩が、呆れたように、でもどこか楽しそうに呟いた。
「でも、本当の地獄はこれからよ。見てなさい、先生が笛を吹いた瞬間に、あの二人の『アピール合戦』が始まるんだから」






