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練習が始まった途端、コートの空気は一変した。
標高の高い山の中、澄んだ空気をつんざくような打球音が響き渡る。
「……ねえ、紗南ちゃん。見てなさいって言ったでしょ」
隣でスコアボードを準備していた成瀬先輩が、呆れたようにコートを指差した。
そこには、普段の冷静さをどこかに置き忘れたような凌先輩と遥の姿があった。
副部長の凌先輩は、正確無比なコントロールで四隅を突き、後輩たちを翻弄している。一方の遥は、まるで獲物を追う獣のようなスピードでボールに食らいつき、強烈なトップスピンを叩き込んでいた。
「二人とも、今日は一段とエグいわね……。これじゃ他の部員が引いちゃうわよ」
部長である成瀬先輩の言葉通り、二人の周囲には近寄りがたいほどの気迫が満ちている。
その時、審判台の上で腕を組んでいた小谷先生が、鋭く笛を鳴らした。
「そこまでだ。……凌、遥。お前ら、動きは悪くないが、視線が散っている。……朝倉」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれ、私は背筋を伸ばした。
「お前が審判台に登れ。この二人の一本勝負をジャッジしろ。マネージャーなら、ボールの行方くらい正確に追えるはずだ」
「えっ……!? 私が、ですか?」
「そうだ。部長は記録をつけろ。朝倉、登れ」
有無を言わさぬ先生の指示に、私はおそるおそる高い審判台へと足をかけた。
見下ろすと、ネットを挟んで対峙する二人と目が合う。
「……いいぜ。紗南がジャッジするなら、文句はねーよ」
遥が不敵に笑い、ラケットを構える。
「ふふ、責任重大だね、紗南ちゃん。僕が勝ったら、ご褒美をもらおうかな」
凌先輩も、爽やかな笑顔の奥に挑戦的な光を宿していた。