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猫は死ぬ間際、大切な人の前から姿を消すと聞いたことがある。
最初はどうでも良かった、てか今もそう。だって猫なんて飼う予定無いし、身内もレオか幼い頃に数回会った親戚か親くらいしかいないけど….猫のいるやつなんて居ないから。
それにレオに誘われたサッカーの長くて、疲れる面倒くさい練習を重ねていけばどんどん頭の片隅に追いやられて、いずれ忘れていく。例えると、帰り道にそこら辺に落ちている小石を蹴って帰ったけど、その石の色は思い出せないのと同じだ。
つまりどうでもいいってことだ。思い出すだけ面倒くさい。
寝る間際、寝付けなくてそんなことを考えて寝た。
そんなある日、レオが死んだ。行方不明になった数日後遺体で発見されたのだ。
あの御影コーポレーションの御曹司が遺体で発見されたとなれば世間は大騒ぎで、学校に行っても、テレビを付けてもその話題で持ちきりだった。
レオと仲良くしていたからってレオのお父さんには葬式に呼んでもらえたし、サッカーに反対していたと聞いてきたのに、それに協力?してた俺を嫌な顔せず迎えてくれた。それか、一人だけの息子を亡くしたのだ、やつれて無駄な争いごとを産みたくないのだろう。
葬式の日は雨だった。梅雨真っ只中だったから、地面はぐちゃぐちゃで湿気でジメジメした陰鬱な景色だ。
レオの葬式だと言うのに涙は流れなかった。雨で誤魔化されていたのかも。けど特段なんの感情も湧かずに、心にはレオが死んだという事実のみが映し出されていた。
今日もそんな雨の日だ。梅雨はもう時期空けるころだろうか。その月の終盤だった。
テレビではもうレオの話題は少なくなっていて、学校でも皆、慌ただしくもいつもの日常を取り戻していた。
ただ俺だけが、一人ぽつんとあの日レオと会った階段で時の止まったまま座り込んでいた。
サッカー部の人達だって、レオの目標を継ごうと練習に駆り出しているのに、俺だけがいつも隣で練習をしていたレオの幻影を追って一人ボールを蹴っていた。
相変わらず俺の心は葬式の日から変わらず、レオの死だけを淡々と映し出すだけだった。けどそれを追うのすら少し面倒くささと諦めがあるのは俺の短所であると再認識する。
放課後、トボトボと傘をさしながら帰ると、レオによく似た猫を見つけた。
レオは性格も、容姿も何処か猫を連想させるものがあったのだ。 レオによく俺は大型犬に似てると言われる度、心の中でレオはなんか高級な猫っぽいって言い返していた。
あの猫は毛は紫じゃないものの、目が大きくて、瞳はレオのような綺麗な紫色で、野良猫ぽいのに毛は綺麗そうで、上品さのある猫だった。
「もしかして捨て猫かな。」
レオの葬式以降、先生に当てられても、チョキにだって口を開いたことはなかったのに、無意識でそんなことを呟いた。
その猫に駆け寄ると、猫は警戒心もなく、すりすりと俺の手に頬を擦り寄せて来た。
猫は死に際、大切な人の前から姿を消す。
なら、レオもそうなっちゃったのかもしれない。猫になったから、大切な人の前から姿を消して、体だけを置いて猫になったのかも。
その大切な人が誰かわからないし、サッカーのことはって聞きたくなるけど、それでも葬式から空いていた俺の心はそう思うと少し、レオと居た時の感情をもう一度組み立てれた気がした。
「そっか。ねぇ、猫さんもしレオが猫さんに会ったらその時はよろしくね。レオは俺の大切な人だから。」
そう言って、猫が濡れないよう傘をその場に残し、またいつもの帰り道を歩いて行った。髪や服は濡れていたけど、心は晴れやかで、それでも雨と一緒に流れた涙はしょっぱかった。