テラーノベル
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夜。
城は静かだった。
ストリガの言葉が頭から離れない。
――永遠に一緒にいられる。
Pizza guyは厨房の椅子へ座り、
冷めたスープをぼんやり見つめていた。
湯気はもうない。
窓の外では、
灰色の月が雲に隠れている。
「……永遠、ね」
自嘲みたいに呟く。
吸血鬼になれば、
老いない。
死なない。
ノスフェラトゥと、
何百年でも一緒にいられる。
ふと、
ストリガの顔が浮かんだ。
あいつは知っている。
自分の知らないノスフェラトゥを。
人間だった頃に近い時代も、
反乱を起こした夜も、
血塗れだった頃も。
何百年も前から。
「…………」
胸の奥が、
少しだけざらつく。
嫉妬だった。
自分でも笑える。
相手は古代の吸血鬼だ。
生きてきた時間が違いすぎる。
自分なんて、
あいつの永遠から見れば一瞬だ。
それでも。
知らない時間があることが、
妙に悔しかった。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
その時。
背後で、
静かに扉が開いた。
振り返らなくても分かる。
足音。
気配。
夜みたいな匂い。
ノスフェラトゥだった。
「起きていたのか」
低い声。
Pizza guyは椅子にもたれたまま答える。
「眠れねぇ」
ノスフェラトゥは少し黙る。
それから、
ゆっくり近づいた。
赤い目がこちらを見る。
「……何を言われた」
やはり、
気にしていたらしい。
Pizza guyは少し迷った。
だが隠す気にもなれなかった。
「吸血鬼になれるってさ」
空気が止まる。
ノスフェラトゥの目が、
僅かに揺れた。
「……そうか」
声が低い。
感情を押し殺している声。
Pizza guyはじっとその顔を見る。
怖がってる。
答えを。
自分が、
「なりたい」と言うことを。
その事実が、
妙に胸へ刺さった。
「なぁ」
「……なんだ」
「お前、ストリガと長いんだろ」
ノスフェラトゥが僅かに目を細める。
「長い、というより……腐れ縁だ」
「俺の知らないお前、いっぱい知ってんだろうな」
沈黙。
ノスフェラトゥは否定しなかった。
それが余計に、
胸をざわつかせる。
「……嫉妬しているのか」
「悪いかよ」
即答だった。
ノスフェラトゥが少しだけ目を見開く。
Pizza guyは視線を逸らした。
「お前の昔とか、知らねぇし」
「何百年も前から一緒とか、反則だろ」
「……」
「吸血鬼になれば、俺もそうなれるんだろうけど」
その言葉に、
ノスフェラトゥの指先が僅かに動く。
緊張している。
分かりやすいくらい。
Pizza guyは目を細めた。
「でも、嫌だね」
「……」
「最後に、“人間のまま死ぬ”のが一番効くだろ」
静寂。
ノスフェラトゥは動かない。
「だから」
Pizza guyはゆっくり立ち上がる。
そして。
自分の首元を隠していた布を外した。
肌。
噛み痕。
熱を持つ傷。
「今のうちに、俺の味覚えとけよ」
そう言って、
自分から首を晒す。
ノスフェラトゥの喉が小さく鳴った。
赤い目が、
獲物を見るみたいに細くなる。
だがその奥にあるのは、
飢えだけじゃなかった。
苦しさ。
愛情。
執着。
全部混ざっている。
「……もう、とっくに覚えている」
低く掠れた声。
次の瞬間。
ノスフェラトゥが強く腕を引いた。
「っ」
身体が引き寄せられる。
冷たい指が腰を掴む。
逃がさないように。
そのまま、
首筋へ顔が埋まった。
匂いを吸い込み、
呼吸を混ぜる。
ぞく、と背筋が震える。
「ぁ……」
唇が傷跡へ触れる。
優しく。
確かめるみたいに。
だが次第に、
その口づけは深くなっていく。
ちゅ、と湿った音。
舌先が傷をなぞる。
身体が跳ねた。
「っ、ぁ……」
冷たいのに。
熱い。
頭が痺れる。
ノスフェラトゥの指が、
服越しに背中を撫でた。
爪先が布へ食い込む。
抑えている。
本能を。
壊したい衝動を。
それでも。
牙がゆっくり肌へ沈んだ。
「……っ!」
鋭い痛み。
だがすぐ、
甘い痺れが広がる。
吸われる。
血が。
命が。
こく、こく、と飲み込む音。
首筋へ伝わる。
ノスフェラトゥはまるで、
刻み込むみたいに吸っていた。
忘れないように。
失わないように。
何度も。
何度も。
「ぁ、……は……っ」
Pizza guyの指が、
ノスフェラトゥの髪へ絡む。
結んだ黒髪。
さらりと冷たい。
呼吸が乱れる。
頭がぼやける。
それでも、
怖くはなかった。
むしろ。
“生きてる”と思った。
ノスフェラトゥがゆっくり牙を抜く。
急にそこが冷えて、体が震える。
「……っ」
血が一筋流れる。
赤い舌がそれを舐め取った。
その姿が、
どうしようもなく吸血鬼で。
綺麗だった。
ノスフェラトゥは荒い呼吸のまま、
Pizza guyを見つめる。
赤い目が揺れていた。
「……お前は残酷だ」
掠れた声。
「人間のまま死ぬなどと、簡単に言う」
Pizza guyは笑う。
少し苦しそうに。
「だってさ」
指先で、
ノスフェラトゥの口元についた血を拭う。
「お前、絶対忘れられなくなるだろ」
その瞬間。
ノスフェラトゥの理性が、
少し切れた。
ぐ、と後頭部を掴まれる。
そのまま、
深く口づけられた。
「ん……っ」
逃げ場を塞ぐみたいなキス。
冷たい舌が入り込む。
血の味。
唾液。
呼吸まで奪われる。
ノスフェラトゥの感情が、
全部流れ込んでくるみたいだった。
離れた時、
細い銀糸が切れる。
Pizza guyは息を乱しながら笑った。
「……重」
「今さらだ」
低い声。
ノスフェラトゥは額を寄せる。
赤い目が、
ひどく苦しそうだった。
「……忘れられるわけがない」
その囁きだけが、
静かな厨房へ落ちた。
終わった世界の片隅で。
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