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リリアンに首を絞められ、死にそうになったところをマリーンに助けられてから、二か月が経った。
それまでの間、教室ではマリーンとグレン、二人と一緒にいることが多くなった。
この二人は親同士が仲が良いようで、幼馴染のような関係らしい。グレンはカルスーン王国の出身で、マリーンと同様に魔法が使えるとか。
現在、マジル王国とカルスーン王国、両国の仲は悪く、国境近くで小競り合いが起こっている。その争いが”戦争”と呼ばれるのも時間の問題だ。
チャールズがグレンに殺意を抱いていたのも、互いの出身国が理由みたいだ。
「……はあ」
午前の授業が始まる直前、クラスメイトの誰かがため息をついた。
「おい、ため息ついたの誰だよ。気が滅入るじゃねえか」
「だってよ―ー」
ため息をついたのは、私より前の席に座っている男子生徒のようだ。
そうしたくなる気持ちも分からなくはない。
だって今日はーー。
「授業を始める前に、話しておきたいことがある」
ガラガラと教室のドアが開き、先生が入ってきた。
私や他のクラスメイトが憂鬱な気持ちになっているのは、午前の授業が始まるからではない。
「リリアン、入れ」
先生の合図と共に、教室にリリアンが入ってきた。
二か月の停学期間が終わり、リリアンがトルメン大学校へ戻ってきたのだ。
「今日から、リリアン・タッカードが授業に戻る」
「皆さま、お久しぶりですわ!」
耳を塞ぎたくなるような高笑いと共に、リリアンは自身の停学期間が終わったことを高々と宣言した。教壇から降り、ぽっかりと空いている席へ向かう。
私の席を横切る際、リリアンはギロリと私を一瞥していった。
二か月、自宅で反省していたとしても、憎悪の感情は消えないようだ。
「では、授業を始める!!」
リリアンが戻ってきたことにより、クラスの空気が重くなったのは言うまでもない。
☆
午前の授業が終わり、昼食の時間になる。
「ロザリー、いこう」
「うん」
「あ、俺もいく」
マリーンに誘われ、それにグレンがついてくる。
チャールズに昼食へ誘われなくなった今、それが私の日常になりつつあった。
三人で食堂へ向かおうとしていたのに。
「お待ちなさい!」
リリアンが私たちを引き留める。彼女の隣には、取り巻きの女生徒が立っている。
「実家で反省して、マリアンヌに謝罪する気になった?」
「はあ? なんで、人の婚約者に色目使ってる田舎令嬢に謝らないといけないわけ?」
マリーンがリリアンを挑発すると、彼女は毅然とした態度で言い返した。
私が買ったものを壊したこと、首を絞めたことに対しては自業自得と言い張るつもりだ。
「あなたはまだチャールズさまの婚約者と名乗るおつもりですの?」
「ええ! わたくしは―ー」
「チャールズさまとの婚約は破談になったのではないのですか?」
「なっ!?」
私は、停学していた二か月間でリリアンの取り巻く環境は大きく変わったのではないかと指摘する。
今、どの段階にいるか分からないが、少なくともチャールズはリリアンとの婚約を破棄しようとしている。私の見立てでは、婚約破棄されたか、もしくは婚約を破棄しないでくれとメヘロディ側、タッカード公爵がチャールズにごねているかだ。
私の発言で、リリアンの表情が曇った。彼女の隣にいる女生徒も「ほ、本当なのですか?」と狼狽えている。どちらにしても、タッカード公爵家としては、危機的状況であることは確かだ。
「以前も申しましたように、貴方がチャールズさまを国内の一貴族だと勘違いしていたから、こうなったのですよ」
「違う! チャールズさまはあなたに騙されているだけ!! あんたが全部悪いの!」
「リリアンさま、耳を貸してはいけません! マリアンヌの思うつぼですわ」
「……」
女生徒にたしなめられ、リリアンは黙った。
「二か月、実家に籠って、分かったことがあるの」
そして、リリアンは口を開く。
「婚約者を奪ったあなたをどん底に落とすには、別の手段が必要だってことにね」
「……さぞ、面白い考えが浮かんだのでしょうね」
「フフフ」
リリアンは不敵に笑う。彼女は唐突に髪をかき上げた。
(っ!?)
私はリリアンの耳に付いている飾りに目を疑った。
あれはーー。
「あなたじゃなくて、あなたのご実家に圧力をかければいいのよ」
「えっ?」
「クラッセル子爵、あの人、何のお仕事をされているのでしたっけ?」
赤い薔薇の耳飾り。
無くしたと聞いていたマリアンヌの母親の形見がリリアンの耳元で輝いていた。