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#憑依
成瀬りん
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#主人公最強
かませ犬S
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コメント
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ああ、もう、レクトったら……! 麻痺薬を自分で作って自分で飲んじゃうなんて、思わず声出して笑っちゃいましたよ(笑)ディアナ先輩の「あはははっ♪」にめちゃくちゃ共感しました。憑依中の高揚感や、作業に没頭する楽しさがすごく伝わってきて、読んでるこっちまでワクワクしました。それにしても、最後のディアナ先輩の「たくさん憑依してね♪」には思わず「ええ〜!」ってツッコみたくなりました。レクトの反応、めっちゃわかります。
――ディアナに憑依したレクトは、彼女の研究室で過ごしていた。
どうやら彼女は、ここを生活の中心としているようだ。
「……うーん」
あまりの生活感の無さに、レクトは怯んでしまう。
女子寮の部屋はガランとしており、最低限のものしか置かれていなかった。
……ただ、衣類だけは多かった。
一般的なものから高級なものまで。そこだけは、世界が違うように見えた。
「そういえば、ディアナ先輩は……伯爵家の令嬢なんだよな」
学院では自発的に家名を名乗ることを禁じているが、それでもディアナについては知られていた。
オールストン伯爵家――様々な魔導具を扱う事業を展開しており、かなりの資産家でもある。
……ただ、レクトは特に興味が無かった。
ディアナはディアナであり、レクトにとっては扱いづらい先輩なだけなのだ。
「……あ、そうだ。
ディアナ先輩の身体なら、錬金術も使えるんじゃないか?」
ふと思い立ち、レクトは隣の作業室に向かった。
様々な素材や道具が並べられていて、研究室の方とはまるで雰囲気が違う。
……研究室は雑然としており、作業室は整然としている。
研究室から持ってきたノートを見ながら、素材と道具を準備していく。
使い方が分からないものも多くあったが、それはディアナの記憶から探して――
……憑依スキルを手にして以来、ここまで堂々としているのも初めてだった。
何せ、ディアナ自身が全ての記憶を見ることを許しているのだ。
作るべきものは、レクトが欲しかった魂律鋼だ。
それ自体はディアナに作成を依頼しているが、自分で作れるならそれに越したことは無い。
……自分の武器に使うからこそ、レクトは素材から作ってみたくなっていた。
ノートに従って、記憶に従って、手を順々に動かしていく。
そしてその結果、1時間後には――
……無事、失敗した。
「あ、あれ……?」
想定外の結果に、レクトは考えた。
原因として思い当たるのは……細かい魔力制御の段階で、手ごたえをまるで感じなかった。
憑依をすれば身体は動かせるが、繊細な魔力までは上手く扱えないのだ。
「うーん……。リゼのときを考えると、深化すれば上手くいきそうだけど……」
憑依スキルがダメなわけではない。
上手く扱えるほど、憑依しきれていないのが問題なのだ。
ただ、こんなことで深化するわけにもいかない。
「他のものを作ってみるか……」
レクトはノートを見ながら、他のアイテムを探してみることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼休みの時間、作業室にエステルがやってきた。
彼女は昼食を持参しており、レクトと一緒に食べるつもりでいた。
「レクト、いる?」
「こんにちは♪」
「……ディアナさんみたいに、挨拶しないでよ」
「あ、すまん。気を抜くと、身体の方に釣られて……」
レクトは作業室の空いているスペースを指差して、エステルに座るように促した。
「お昼、食べたの?」
「ううん。ちょっと今、いいところで……」
「え? 何してるの? ……錬金術?」
「そうそう。やってみたら、本当に楽しくてさ。
ほらほら、これが強力な麻痺薬。ついでに、あっちがその治療薬」
「何のために作ってるの!?」
「……さぁ? 楽しかったから、適当に……」
レクトの言葉に、エステルは妙な気分を覚えた。
「もしかして……深化、してないでしょうね?」
「ああ、それはしてないんだけどさ。でも……何ていうのかな」
手を動かしながら、レクトは考えをまとめていく。
「――エステルに最後に憑依したときさ。許可をもらって、修練場で剣を振っただろ?
あのときみたいに、どこか……高揚しちゃって」
「う、うん……? あのときは、ね……?」
エステルが憑依を許したのは、そのときの1回だけだった。
だからこそ彼女にとっては特別なことであり、未だに恥ずかしさの方が勝っている。
「――やりたいことを一緒にやると、そうなる……のかな?」
「うん。多分、そうだと思う。
……そう考えたら、俺も修練場に行きたくなった気がするなぁ」
「気がする……って、何よ」
エステルは仕方の無さそうに笑った。
「今は、ディアナ先輩の作業欲に囚われてるから……」
「ほどほどにしなさいよ? その間に、私は修練を続けてるからね?」
「ああ……、俺もこんなことをしてる場合じゃないんだけどなぁ……。
ディアナ先輩、どれくらい憑依したら満足してくれるんだろ……」
「ディアナさんの考えてることは、分からないからね……」
記憶と感情は別物ではあるが、ディアナの身体には感情の記憶も残っている。
それを読んでみれば――まぁ、いろいろとやらされそうではあった。
しばらくエステルと話をしていると、昼休みを終える鐘が聞こえてきた。
「それじゃ、午後の授業もがんばれよ」
「あー……。ディアナさんはもう、単位を取り終わってるんだっけ?
堂々と授業をサボれて、良いわねぇ……」
「俺の身体がちゃんと授業を受けてくれれば、その通りなんだけどな……」
「あはは。今日もずっと、眠ってたわよ?」
「……はぁ。また今度、ノートを写させてくれ……」
「はいはい。それじゃ、またね」
エステルはそう言うと、作業室から出ていった。
レクトは窓の外を眺めながら、手元の瓶に手を伸ばす。
さて、このあとは何をするか――
……そう思いながら瓶に口を付け、喉の渇きを潤していく。
幸いなことに、時間ならたくさんある。
今のうちに、できることをやってみるのも面白いかもしれない――
そんなことを考えていると、突然足から……力が抜けていった。
それは次第に全身へ広がり、ピリピリとした感覚が現れてくる。
「あ、あれ……? これって……?」
手も痺れ、持っていた瓶がゆっくりと、床に落ちて音を立てる。
……そこでレクトはようやく気付いた。
ディアナからはいつも、飲み水を薬瓶で渡されていた。
だから今回も、何気なく薬瓶を口に付けてしまったが、そこに入っていたのは――
……強力な、麻痺薬。
「――ふふふっ。この効果、即効性。
ディアナ先輩の錬金術は、本当にすごいなぁ……」
こんな状況でもどこか面白く、レクトは床に倒れたまま、天井を見上げることにした。
……こうなってしまったからには仕方がない。
授業が終われば、きっと誰かが様子を見に来るだろう。
それまでは、まぁ――……何か別のことを、考えていることにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――あははははっ♪」
放課後の研究室に、ディアナの笑い声が響いた。
彼女の前には、憑依を解いたレクトとエステルが座っている。
「まさか、麻痺薬を作って、自分で飲むだなんて……っ!!」
ディアナは腹を押さえながら笑っており、エステルは呆れた表情を浮かべている。
レクトは……気まずい顔で、ディアナに抗議した。
「ディアナ先輩がいつも、薬瓶で水を出すせいですよ……!!」
「はい、はい♪ 今後は善処するよ……あはははっ」
「まったく……。私が様子を見にきたからよかったものの……」
授業が終わったあと、エステルはレクトの身体を連れて、様子を見に来ていた。
そこで麻痺したレクトを発見して、治療薬を飲ませてから、憑依を解除して――今に至る。
レクトとエステルが話している中、ディアナは椅子にもたれて、ゆっくりとそのときの様子を思い浮かべていた。
自分ではない人物が起こした、間抜けな事故ではあるが――
……こうして振り返ると、確かに自分の記憶として残っている。
「――うん、確かに不思議な体験だね。
まぁ、あたしはこんなことはしないけど……ふふふっ♪」
「ディアナさんの身体に入ったからって、中身までディアナさんになるわけでは……ないですからね」
「そうなんだよ、えっちゃん! 人間の意思は、あくまでも魂に属するものだからね。
だから魂が違うのであれば、まったく同じにはならないわけで――」
そう言いながら、ディアナはレクトの方を見た。
レクトは……嫌な気がして堪らない。
「ねぇねぇ、レクト君。
次はさ、憑依したあと……深化まで進めてみない?」
「はぁ!? ……あの、レクトにあんまり無理なことを言わないでもらえますか!?」
「そ、そうですよ……。リゼのときに、みんなに心配を掛けてしまったので、それはさすがに……」
「何日もやるとダメなんでしょ? 1日くらいなら、どう?」
ディアナにしては珍しく、可愛い素振りを見せながら迫ってくる。
しかし、これは明確に拒否すべきところだ。
「すいません、理由がないときは勘弁してください……」
「――ふむ。
……わかったよ、無理を言ってごめんね」
「あれ……? 案外あっさりと、引きましたね?」
「みんなとは、上手くやっていきたいからね♪」
ディアナはそう言いながら、ふたりに笑顔を向けた。
しばらくすると、レクトとエステルを連れて作業室に移動する。
「――レクト君が憑依していたときにさ、いろいろと作っていたでしょ?
本当に、楽しかったね。……記憶の上での、感情なんだけど」
「ははは……。とっても楽しかったですよ。ディアナ先輩も、いつもあんな感じなんですか?」
「あそこまで、ではないかな? でも、昔の気持ちはあんな感じだったと思う。
初心……みたいな感じ、なのかなぁ」
その言葉に、レクトは思い当たるものがあった。
程度は少し違うが、1年ぶりに剣術を始めたときの……あの感覚に近いのかもしれない。
「さて。ところでレクト君の記憶の中に、興味深いものがあったんだけど……」
「え? 何の話ですか?」
「麻痺薬で転がっていた時間――
……黒い海、のことを考えていたでしょう? あとは、守護者のことも」
「あ……」
長い時間、ずっと考えていたため……ディアナの記憶として残ってしまった。
レクトにとって、これは誤算だった。
「……何ですか、それ? レクト、また厄介なことに首を突っ込んでるの?」
「いや、そういうことじゃないんだけど――この情報の入手経路が、憑依した関係でな……」
「あはは。他人に憑依する分、視野が広くなるからね。
……ただこれは、西方のラヴィニア学院でもあった話だし、秘匿しなくても良いんじゃない?」
「あ、そうか……。言われてみれば、そうですね」
レクトはエステルに身体を向けて、大筋のところを話した。
黒い海と呼ばれる場所に、守護者と呼ばれるものがいる。
西方で見つけられたそれは、ラヴィニア学院の生徒たちが討伐した。
しかし東方でも、同様のものが発見されていて――
「――で、レクト君はそれを倒したい……と」
「はい。でも、今のままでは難しいはずです。
剣気も発現させなければいけないし、強い武器も手に入れなくてはいけない……。それに、右足のことだって――」
「やることは、盛りだくさんだね?」
ディアナはエステルの方を見た。
……その意図は分かる。レクトだけでは、土台無理な話だからだ。
「私も……詳しくは分かりませんが、レクトが倒したいと言うなら……一緒に、行きたいです」
「うん、うん。若いって素晴らしいねぇ」
「ディアナ先輩……。俺たちとは、1歳しか違わないでしょ?」
「ふふふ。若いうちはね、その1歳が大きいんだよ。多分、来年には分かると思うよ?」
「はぁ……」
レクトの気の無い返事に、ディアナは怪しげに笑う。
「――そうだね。楽しそうだし、あたしも手伝うよ!」
「え?……ディアナ先輩が、やる気を!?」
「驚くの、そこぉ!?」
ディアナの言葉に、レクトとエステルは笑った。
エステルにとっては突然出てきた目標だったが、剣聖の道を歩む中で、中間目標としては申し分なく感じられた。
「私も頑張るし……セシリアさんにも、相談してみる?」
「リゼたんも、忘れたらダメだよ!」
「危険なことには違いないから、まずは話すところからだな。
……それではディアナ先輩。一緒に戦いましょう!!」
「おっけー! それで、その報酬なんだけど……」
レクトは次の言葉に想像が付いた。
エステルも、同様だった。
「レクト君、あたしにたくさん憑依してね♪」
「何で、そうなるんですか……」
レクトはひとり、頭を抱えてしまった。