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side仙道伊織
バニラ…
山野が震える声で叫ぶ。
「来ないでって言ったのに…
バニラ!」
「だってぇ…
山野、お腹すいたって言ったのにぃ…
ぜんぜん食べさせてくれない…」
その瞬間、白波が構えた。
「仙道さん、距離を」
「待て。
撃つな」
俺は白波の手を押さえた。
彼女の瞳…腹を空かせたただの少女の光を宿していた。
敵意は無い。
だが…
危険物である事実は変わらない。
「…バニラ。
こっちだ」
俺は厨房の扉を開け、会議室と厨房の間にある小さな休憩スペースへ少女を誘導する。
山野も不安げに続いた。
「ごめんね、バニラ…
少しだけ我慢して」
「むぅ…」
バニラはむくれて椅子に座る。
俺は白波に目配せし、すぐに残っていた料理を並べた。
ナポリタン、サンドイッチ、スープ。
いつもCOCOメンバーが訓練の後に食べる“胃に優しいメニュー”だ。
「好きなの食べていいぞ」
「食べていいの!?」
少女の顔がぱぁっと明るくなり、次の瞬間…
ぐわぁぁぁあああと音を立てながら、ナポリタンをフォークで掬い、まるで飲み込むように食べ始めた。
「えっ!?
速!」
白波が目を丸くする。
大人三人前のナポリタンが、五分もせず空になった。
次にサンドイッチ。
それもあっという間だ。
「…なるほど。大人三人分か…」
俺は冷静を装いつつ、胸の奥底では緊張が走っていた。
この食欲。
この代謝。
この存在感。
ただの人間では、絶対にない。
山野莉緒は、バニラが食べ終わるのを待ち、深く息を吸った。
「仙道さん…
白波さん…
話します。
私がここに来た理由を。
そして…バニラD12の正体を」
バニラは食べ終えて、満足そうに椅子に寄りかかっているが、内容を理解していないわけではなさそうで、ちらちらと山野を見ている。
「まず、バニラは…
人間ではありません。
いえ、人間“だけ”ではない、と言うべきでしょうか」
白波が息を呑んだ。
「混血…という事か?」
「はい。
バニラは、覚醒体の細胞と、人間の子どもの細胞を組み合わせて作った……
|D《・》|シ《・》|リ《・》|ー《・》|ズ《・》|唯《・》|一《・》|の《・》|成《・》|功《・》|体《・》です」
バニラの足がぶらぶら揺れる。
自分の話がされているのが気になるのか、指先をいじっている。
「…人間の子ども?」
俺が言うと、山野はうつむいた。
「厳密には…
“行方不明”として処理された子ども達の細胞サンプルです。
肉体は使用していませんが…
倫理的には、完全にアウトです」
白波が怒りで声を震わせる。
「そんなこと…!」
「分かっています…!
だから逃げたんです。
もう、これ以上手を汚すわけにはいかないと…!」
山野の目には涙が浮かんでいた。
バニラが食べかけのフォークを止め、ぽつりと言う。
「山野、泣いてるの?
どうして?」
「…バニラ、ごめん。
あなたを作ったのは、私だから」
「作った?
私…作られたの?」
少女は、自分の存在を受け止めきれずに戸惑う。
山野が頷く。
「でも…
あなたは、もう“実験体”じゃない。
だから連れて逃げたの。
あなたを、委員会の…
あの人たちの“兵器”にさせたくなかった」
沈黙。
COCO局の空気が重く沈む。
俺は、静かにだが確信を持って言った。
「山野莉緒。
つまり…
お前がここに来たのは、逃げるためじゃない。
“戦う覚悟を持って、告発に来た”という事で間違いないか?」
山野は震える唇で答えた。
「はい。
大和ダンジョン委員会の、実験覚醒体研究の全データ…
全部、持ってきました」
白波が目を見開く。
「データごと…
寝返ったってわけか」
「はい。
そして…
バニラを…
守ってほしいんです」
その言葉に、バニラはぽかんと山野を見た。
「山野…?」
仙道としての判断は、一つしかなかった。
「…よし。
山野莉緒、そしてバニラD12。
正式に、COCOダイバー局が保護する」
「せ、仙道さん!?」
白波が驚くが、俺は前を向いたままだ。
「もう逃げられねぇよ。委員会は本気で取りに来る。
だったら…
守るしかねぇだろ。
女と子どもの命を奪いに来る奴に、情けをかける必要は無い」
バニラは仙道をじっと見て、小さく微笑んだ。
「仙道…
いい人だね」
「いや、俺は別にいい人じゃない。
ただ…」
ドンッ!
局舎が揺れ、白波が警報に走る。
「仙道さん!
委員会の部隊が…
さっそく包囲を開始しました!」
俺は立ち上がった。
「よし…
COCOダイバー局、総力戦だ。
バニラ、腹は満たしたか?」
「うん!
元気いっぱい!」
「なら、派手に暴れてみるか?」
少女の笑みが、ほんのわずか狂気を帯びた。
それは、覚醒体の笑みだった。