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その後の授業も無事に終えた。
寮は遊摺部が同室なのでさすがに泊まれないとの事で、アルトは無人の家へ泊まることになった。
白い綺麗なデザインの家。ドアを開けて入れば無駄がなく、とても整頓された部屋が広がる。
有人「へえ、すげー綺麗だな」
無人「……お前はどうなんだ?」
有人「へっ!?!?俺??!」
目を泳がす。アルトは基本基地で生活しており、その部屋は言わずもがな悲惨な状態である。たまに報告書を出し忘れたアルトを説教するために真澄が部屋を訪れることがあるのだが、その時はまず整理整頓から始まるほどだ。ちなみに真澄はめちゃくちゃ怖い。
有人「そ、それなりに綺麗だぜ〜…」
右上に傾く目線。アルトの昔からの癖だ。嘘をつく時は右上に目線が行く。アルトのことを知り尽くしている無人には、手に取るようにわかった。
無人「ウソだろう」
有人「え、なんでわかっ…」
ハッとして口を抑える。少しかまをかければゲロってしまうところもアルトの特徴であった。こんなので偵察ができるのだろうか。
無人「はあ……飯を作る。適当に座っとけ」
有人「え?いやそんくらい俺がするって」
無人は頭を抱えた。
まさかコイツ自覚がないのか?
料理はそれなりに美味いが、使われたキッチンは無惨な姿になる。逆になぜあれほどまでになるのか疑問だ。
とにかく、アルトにキッチンを貸すのは自殺行為であった。
無人「いいから座ってろ」
強引にアルトの体を押す。
アルトの体が傾き、ソファに沈む。ソファが気持ちよくて、先程のキッチン論争などどうでも良くなったようだ。単純で扱いやすい。
数分後、キッチンから食欲をそそる香りが漂う。その香りを辿り、アルトがキッチンへ到達する。無人は内心困ったが顔には出さずに料理を作り続けている。
そうすると無人にアルトが近づいてきた。
無人(何をするつもりだ…)
正直それなりのことは覚悟していたが、起きたことは想像を裏切るものだった。
有人「袖、落ちそう。」
無人の後ろに立って、落ちそうになった袖を捲っている。それはそれは丁寧に捲るので無人が目を見開くほどだった。
コイツはいつもそうだ。いつも馬鹿だし人の話は聞かない上に少しズレている。なのにこういう所で優しさを感じる。だから無人もコイツを嫌いになれないのだろう。
無人「……邪魔だ」
有人「え”、ごめん……」
無人の言葉にしゅんとする。
アルトに背を向けた無人の口角が少し上がっていることは誰も知らない。
数分後、暖かい料理が食卓に運ばれてくる。
どれも美味しそうだ。アルトが目を輝かせている。
アルト「美味そっ…!!いただきます」
無人「いただきます」
2人揃って掌を合わせる。
作られた料理はあまりにも美味でどこかの高級店へ行った気分だった。そうしているうちに、酒もあけて二人で飲みながら談笑することになった。
カラン、と氷とガラスのぶつかる涼しい音。
キラキラ輝く酒の水面に酔ったアルトの顔が写る。
無人「仕事は最近どうだ」
有人「おう、バッチリ〜…」
少し酒が回ってきているのか、いつもに増してアホ面だ。顔が赤く瞳が蕩けている。ペースを考えず飲むところも本当に馬鹿である。あるいは、自分の体調に興味がないせいなのかもしれない。
無人「水を飲め」
水を受け取り、飲みながらふと何かを思い出したように話す。
有人「あ、そういえば俺新しい仕事来ててさあ…」
無人「ほう?」
有人「偵察なんだけど、なんとこの俺がスパイだよ、やばくね?笑っちゃうよなあ」
酔いも相まっていつもよりも長く肩を震わせる。笑った拍子に涙が滲んでいる。その涙を笑いながら拭う。
無人「何人で?」
有人「1人だよ〜めっちゃ緊張!笑」
無人の眉がピクリと動いた。
今まで偵察部隊ではスパイを3人程は忍ばせる。その方が効率がいい上にいざと言う時に助け合えるからだ。
無人「その仕事は真澄が?」
有人「ん〜?違う違う」
無人「本部か?」
有人「そー!よくわかったね」
その時、無人は全てを理解した。
学生の頃からアルトの評価は芳しくなかった。血蝕解放もアルト本人は気付いていなかったが、相当コンプレックスに思っていたようだった。なぜならアルトの能力は、必ず一度接触をし、印象を残した相手にしか使えないものだからだ。敵地は一度も接触などしたことのない人間の方が遥かに多い。
だから本部は、このままアルトを雇うよりも、スパイとして忍ばせて情報と引替えにおさらばした方が効率的だと考えたのだろう。
無人「この件、真澄は知ってるか?」
有人「さあ?本部から直接連絡が来たから」
無人「黒だな。」
有人「くろ?」
無人「そのことを今すぐ真澄に報告しろ。あとその仕事は絶対に受けるな」
有人「え?わかった…」
無人「真澄には今ここで連絡しろ。」
有人「わかった…」
アルトがぎこちなく携帯電話を引っ張り出す。そして間もなくプルルル、と軽い電子音が聞こえてくる。
真澄「こんな時間になんだ」
有人「あ、ますみん?あのねえ〜…」
真澄「おい、テメェ酔ってんのか?」
有人「え?あー、そうかも」
真澄「…無陀野いるだろ。変われ」
有人「えー?わかった」
無人に携帯電話を押し付ける。受け取って耳に当てる。真澄の声が携帯越しに聞こえる。
無人「俺だ 」
真澄「なんでかけてきた?酔っ払った勢いとかだったらコロスぞ」
無人「違う。どうやらアルトに本部から仕事が来ているらしくてな」
真澄「…その情報はしらねェな」
無人「隊長を通さずに仕事を任すのはご法度だろう」
真澄「どんな内容なんだ、その仕事」
無人「スパイらしい。一人で」
真澄「一人でか?本部は頭沸いてんのか」
無人「アルトを情報と引替えに…とか思っているんだろう。とりあえず、真澄が動けばこの件はほぼ100%撤廃できる」
真澄「とりあえず本部と掛け合う」
無人「頼んだぞ」
そこで通話は切れた。
電話越しの真澄の声に、怒りがこもっていたのを無人は感じた。この様子では心配ないだろう。
無人「今日はもう寝ろ。」
有人「えー、もう?」
無人「口答えするな、寝ろ」
無人がいつもの調子でないのを悟ったのか、表情が柔らかくなる。
有人「なにかあった?」
無人「…は?」
有人「わかるよ、お兄ちゃんだもん」
他人事のように笑っているアルトを見て腹の奥が熱くなる。なぜ自分のことだと分からないのだろう。そう思うとどうしようもなく悔しさや苛立ちが溢れてくる。
コイツはいつもそうだ。自分のことや自分に向けられる感情に疎い。自分に向けられた悪意にさえ気付けない。そんなところが大嫌いだ。
背中を優しくさすって、あやす様に言葉を並べる。その手つきが優しくて、また腹が立ってくる。お前だよ、お前のせいで俺は──────
無人「酔ってるだろ、早く寝ろ」
無理やりアルトを引き剥がす。このままだと苛立ちで怒鳴ってしまいそうだったから。
そして無理やりベットに押し込む。寝ろ、と言わんばかりの圧だ。
有人「こ、こわいってえ…」
無人「うるさい」
無人は苛立ちや悔しさと共に、寝室をあとにした。
コメント
6件
初コメ失礼しますm(_ _)m 一気見させて頂きました😇 最高すぎます...!私の感情が面白いから感動に変わってますт.т続き楽しみです!!
めっちゃ書き方好きだぁー!
コメ失礼します!一気見させていただきました!!もう1話を見た時からこの作品大好きです、続き楽しみに待ってます!!!