冬を迎えた街角には冷たい雨が小さな音を立てて降っていた。
すっかり通い慣れたこの場所へ来ることはもうないのだと思うと、嬉しさというよりもわずかな不安が頭をもたげたのを感じ、焦ってしまった。
あいつをこうやって待っているのも夢なのかもしれない、そう思ってしまう程、何度も何度も悪夢を見ていたから。
見上げる灰白色の空は夢に出てきていた空と全く同じ色で、今ここにいることの現実感も奪われていく。
何か別のリアリティを探すように視線を下に落とした時だった。
「おまたせ、tt!」
病院のエントランスから出てきたjpは、満面の笑顔でttに手をあげた。
安静により体力も筋力も落ちたjpは、入院中の荷物が詰め込まれたボストンバッグを重たそうに持っている。
ttはそれをjpから受け取ると、自分の肩にかけた。
「ありがとう!」
笑うjpを見て、白昼夢から引き戻されたttはほっと一息吐く。
ユウの事件から約2か月。
一時意識不明に陥り、内臓を損傷して緊急手術を受けたjpは今日、退院の日を迎えた。
「スタッフさん達にお礼してきたよ」
「ほんま世話になったなあ」
「てか最後の最後に看護師さん達にすごい勢いで聞かれたよ!いつもお見舞いに来てた金髪の人はお友達ですかって!」
「狙われてたんだよtt、まじ気づかんかったあぶねー」
「そうなん?ちゃんとした格好で見舞い行けば良かったなあ笑」
「俺の彼女!て言っといたから大丈夫!」
「彼女?お前な〜…」
「てかyaくん達は?」
「誘ったんやけど、明日三人で会いにくるって。今日は気ぃ遣ってくれたみたいや」
「そっか!じゃ、行こ!」
二人はタクシーに乗り込んだ。
久しぶりに見る街並みはすっかりクリスマス模様に変わっている。
はしゃぐjpを見ながら、ttは2か月前を思い返していた。
救急病院のオペ室に到着すると同時に一時心臓が止まったじゃぱぱ。
救命措置を受け、再び心臓は動き出した。
医師の許可を得てjpに面会できたのはしばらく日が経ってからだった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、、、、
バイタルサインは危機を脱したものの、未だたくさんの管に繋がれたjpの意識は戻っていなかった。
「jp、俺より寝過ぎじゃね?…早く起きろよな」
「そうだよjpさん、あのyaくんが起きてんだぞ」
「…起きないと約束のカニ、僕ひとりで行きますよ」
ya、ur、noはできる限りの笑顔で声をかけたものの、全く反応のないjpには聞こえている様子がなかった。
隠しきれない不安を抱えたままひと通り話しかけた三人は、隅で黙ったままのttをベッドサイドに促した。
酸素カニューレをつけたjpは自分の力で呼吸している。
心臓に手を当てる。
生きている。
「jp…」
ttの声にも反応はなく、機械音だけが部屋に響く。
ttは目を閉じて息を吸い込み、背筋を伸ばした。
そしてまっすぐjpを見ると、はっきりとした声を出した。
「jp、聞こえとるよな? 俺やで、わかるな?」
冷たいjpの左手を握りしめる。
「一緒に家に帰ろう」
「戻ってこい、jp」
ピク
「「「!」」」
左手がわずかに動いたかと思うと、ベッドに横たわるjpはうっすらと目を開けた。
天井からゆっくり視線をうつしこちらを見つめる。
「…jp」
「……… t……」
「…おはよう、jp」
「ぉ、、、はよ…、t、、t…」
jpはかすれる声でttの名を呼ぶと小さく笑った。
ttがjpに抱きついたのに続き、ya、ur、noも歓声をあげて二人を強く抱きしめた。
たった2か月だったけど、とても長く濃かった離れ離れの日々。
ようやく日常に帰れそうだ。
タクシーに揺られ、白い賃貸マンションに着いた。
雨はあがり、薄い雲の向こうに青空が見え始めている。
マンションを見上げるjpは目も口もまんまると開けていて、まるで子どものように目を輝かせていた。
「久しぶりだなぁ…」
「せやな、俺も2か月ぶりや」
「ttは先に帰ってて良かったんだよ?」
10月末で単身マンションを退去したttは、約2か月をyaとurの家で過ごしていた。
jpがいない部屋に帰るのは心が持たなそうだったし、1人で帰らないもう一つの理由があった。
「お前と帰りたかったんだよ、言わせんな!」
照れ隠しに怒ってみせるttを見て、jpは嬉しそうに目を細めた。
ttに手を差し出す。
「帰ろっか」
「俺とttの家に」
「…ん」
同じように目を細めたttは相変わらず冷たいその手を握った。
二人揃って階段を登る。
鍵を捻りドアを開ければ、懐かしいにおいが鼻をくすぐった。
神奈川の家族が時々掃除に入っていたので綺麗に保たれていたその部屋は、jpが家を出てそのまま、まるであの2か月はなかったかのようだった。
(家族には、並ぶ枕と歯ブラシを指摘された。)
部屋に入り荷を下ろすと、jpはttの前に立った。
「tt、 渡したかったものがあるんだ」
jpはコートのポケットから小さな箱を取り出すと、開いて差し出した。
中には銀色のペアリングが揃って輝いている。
ttはjpを見上げた。
「これ…」
「ttの誕生日に渡すつもりだったんだ。隠す場所ないからyaくん達に預かっててもらったんだけど…俺の誕生日になっちゃった。遅くなってごめんね」
「…」
jpはttの左手を取ると、小指にリングを通した。
はじめての経験だから、手に変な力が入ってしまった気がする。
それでもリングはぴったりとttの指にはまってくれた。
「誕生日おめでとう、tt。 ずっと一緒だよ、約束する」
ttは予期せぬサプライズに喜びを隠せない。
潤んだ瞳と赤く染まる頬で、指輪を見つめた。
「…ありがとうjp…。嬉しい…」
「俺も、いい?」
ttも、慣れない手つきでjpの左手の小指にリングを通した。
jpもttと同じように、嬉しそうに指輪を見つめた。
生まれてから今まで、こうして約束を形にして身につけたことがなくて、何とも言えない幸福なむず痒さに頬が緩む。
約束をした、愛する人。
ttの頬を優しく撫でて言った。
「…ただいま、tt」
「…おかえり、jp」
くちびるを合わせ、見つめ合う二人。
ttの黄金色の瞳から、暖かい涙が溢れていた。
「ずっと一緒…約束やで?」
二人はゆびきりをした。
end.
コメント
17件
おぅまいがぁ………、泣いちゃいました…、ほんと最高ですね、!約束を形にするって素敵ですね、その発想は何処から来てるんでしょうか、私も見習いたいです、!、、感動しました、!!
泣いたよ、🥲感激 よかった本当によかった🥺 おそらく男性用お揃いの枕と歯ブラシをみた家族の気持ちと毎日お見舞いにくる渓谷の美貌の青年を知る看護師さんたちの気持ちを深堀したいレベルに元気出たよ ありがとう💚💛
あーーーー尊い尊い尊い🤦♀️何回泣かせれば気が済むんですかほんとに!!!!もうそろそろ私の目枯れてくる頃です🙄やっぱりバッドがあってこそのハッピーですよね😇💓もっとそこでちゅっちゅしといて欲しい😘