テラーノベル
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教室の電気を消し、出入口の鍵を閉めたあと。 いるまは、らんの少し後ろを歩いて塾を出た。
夜風は湿っていて、生ぬるかった。
ビルの谷間を歩く二人。無言が、ずっと続く。
🎼📢「……送ってこうか?」
ようやく言葉をかけたのは、交差点に差しかかる直前だった。
🎼🌸「……大丈夫。近いから」
らんはそう言ったけど、その足取りはどこかおぼつかない。
足首でも捻ったのか?と一瞬思ったが、いるまの目に映ったのは――らんの手首に見えた、暗い色の痣だった。
🎼📢「……それ、ぶつけた?」
らんの手首。シャツの袖の隙間から覗いた紫色の腫れ。
その色は、転んだだけではつかない。もっと、深い怒りが叩きつけたような色だ。
🎼🌸「……うん。大丈夫」
また、それだ。
大丈夫。何度でも繰り返すその言葉は、まるで自分に言い聞かせてるみたいだった。
🎼📢「本当にそれだけ?……痛くないわけないだろ、あれ」
🎼🌸「痛いけど……これくらい、別に……」
笑ってる。
そう思った瞬間、いるまの中にじわっと熱が込み上げた。
🎼📢「“これくらい”って言うなよ」
らんがピタリと立ち止まった。
ふいに、誰かに怒鳴られるのを想像したのか、目を伏せて息を飲むように身体を縮める。
🎼📢「……ごめん。怒鳴ったわけじゃない」
声を落として言い直すと、らんはゆっくりと顔を上げた。
その目が濡れていた。
🎼🌸「……怒鳴ってないよ。いるまは、優しいから」
優しい――。
その言葉を言う顔が、あまりに静かで、逆に胸を刺した。
🎼🌸「本当はさ、いろんな人に言われるの。“逃げればいいのに”って。
でも、逃げたら弟たちが残るから。……あいつら、俺のこと好きだから。親に呆れてて……だから、俺がいないとバランス崩れるんだよ」
🎼📢「……」
いるまは言葉を失った。
なんで、この子がそんなに我慢してるんだよ。
兄としての役目?
家族だから?
――そんなもんで、毎晩傷をつけられていいはずがない。
🎼📢「……なあ、うち来いよ」
🎼🌸「え?」
🎼📢「今夜だけでいい。明日も授業あるし、朝に駅まで送ってく。
無理して帰って、また痛い思いするくらいなら、俺んとこ来い」
らんは、一瞬ポカンとしたような顔をして、すぐ目を伏せた。
🎼🌸「……ほんと、優しいな。ずるいよ」
そう言って、らんは初めて、自分からいるまのほうへ一歩近づいた。
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