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・旧国
・神父と淫魔パロ(健全)
・ブラ普♀です
大丈夫という方はどうぞ〜
「寒いなぁ…」
冬の曇った寒空の下、街から少し外れたところにある教会の前で箒をはき、枯葉を集めながら、私は呟いた。
元々この辺りは夏でもそこまで暑くならない。冬ならば、尚更。
「お~い!ブラ〜ン!」
明るくて、無邪気なようで何処か凛々しい、芯の通った聞き覚えのある声が聞こえた。
どうやら彼女が帰ってきたようだ。声のした方を見てみると、彼女は手に、何か入っているのであろうそこそこ大きな籠を持っていた。
「お帰り、プロイセン。…それは?」
「む?んふふ…これか?これはだなぁ…」
はにかみながら、彼女はわざとらしく勿体ぶる。
「…意地悪せずに教えておくれよ。な?」
「えへへ…これ!お土産!捲ってみてくれ!」
ズイッと、籠が私の顔の近くに寄せられた。籠には布がかかっているようで、そのままでは中は見ることができない。
なので私は、彼女の言った通り、その布をそっと捲ってみることにした。
「これは…」
その籠の中には、沢山の野菜やパンが詰まっていた。
「貰ったんだ!ブランと一緒に食べてくれって!」
「そうか…ありがたい…だが、君は…」
「ブラン?」
言葉を濁らせてしまった私を心配したのか、ぽかんとした顔でプロイセンは私を見上げてきた。
「え?ああ、いや…何でもないよ」
「それよりとっとと中に入ろうぜ〜。外は寒いし、窮屈なんだよ…」
「あ、ああ。すまない」
大きな木製の扉を開け、中に入る。荘厳な雰囲気の礼拝堂が、私たちを迎えた。
「ん、ゔぅ〜〜〜……」
籠をベンチに置き、教会の扉を閉める私の背後で、プロイセンが思い切り伸びをした。
「あ~…疲れた。やっと解放される〜…」
「あはは、平気かい?疲れたろう」
「もうへとへとでさぁ…よーやく、解放されるぜ〜!」
振り向くとそこには、先ほどの姿とは変わった、彼女の姿があった。
大きな黒い、艶のある蝙蝠のような翼と角、細長い尾を生やした、「悪魔」と言うに相応しい外見をした彼女の姿が、其処にはあった。
…そう。彼女、プロイセンは悪魔。そして淫魔なのだ。
「淫魔」。それは、悪魔の一種で、女性ならば「サキュバス」と呼ばれることある存在。主に人間の精気を栄養源とし、異性を誑かして『食事』をするらしい。少なくとも私は、彼女以外の淫魔を知らないが。
彼女が淫魔であることは、私と彼女だけの秘密で、それ以外に知る者はいない。
もしも正体がバレてしまえば、彼女はこの教会に、この街に、いれなくなってしまうだろう。
そのため、普段は翼と角、尾を隠して人前に出てもらっている。そのため…
「すまないな…」
「…え?」
「いや、君に窮屈な思いをさせてしまっていることが、申し訳なく感じてしまってね。君のためなんて言っているが…」
「いや、まぁ…窮屈ではあるけどさ…でも、街の人たちすっげー親切だし…ブランとも離れたくない。オレが少し我慢するだけで皆と一緒にいられるんだ。そんな心配、必要ねーよ!」
「そ、うか…」
特徴的な鋭い歯を見せながら、ニカッと、太陽のように笑う彼女。どうやら、いらぬ心配だったようだ。
「(離れたくない…か…)」
私のことをそう思ってくれている。そのことに喜びを感じる。
思えば、もう1年も前だっただろうか。忘れもしない。
その日は丁度、私が買い出しに街へ行く日だった。しかし、買い物を済ませた後、帰る道中で酷い雨に襲われたのだ。
出かけたときは、よく晴れた青空だったものだから、そんなこと予想できるわけもなく。
荷物を抱え、びしょ濡れになりながら走っていると、視界の端に、白いローブを着た何者かが立っていて。
なぜだか、通りすがる気も起きなくて。
「失礼、…大丈夫ですか?」
「あ…」
声をかけてようやく気づいたらしい。しかも、驚いた拍子に出た声は、女性、それも年ごろの少女のような声だった。
「何か困ったことでも?」
「いや…その…あぅ…」
言葉を濁す少女。何か、深い事情でもあるのかと思って。
「大丈夫。私は、この街のはずれの教会で、神父をやっているものです。よろしければ、そこで休んで行きませんか?」
「へ…?」
まずい。言葉選びをしくじった。明らかに初対面の女性に掛ける声ではない。
そう、ついさっきの自分を責めていたら
「い、いい…のか?」
恐る恐る、しかし少し嬉しそうな声で、彼女はそう言った。
…正直、内心ホッとした。
「はい。構いませんよ」
そうして彼女を教会まで案内したのだ。もう帰ってきたときにはすっかりずぶ濡れで、肌寒さも感じてきていた。
「すみません、私はこれから、お茶を淹れてきますので、よければこれ、使ってください」
そう言って、私と同じくずぶ濡れになってしまっていた彼女にタオルを手渡した。
「お茶、できました…よ…」
「あ……」
戻ってきた私が目にしたのは、フードを外し、顔を拭いていたらしい彼女…までは良いのだが、彼女の頭には、明らかに人のものとは思えない、立派な角が生えていた。
きっと見られたくなかったんだろう、彼女も、この世の終わりを目の当たりにしたような顔をしていた。
「…成る程。あなたは悪魔…いえ、淫魔で、落ちこぼれとして魔界から追い出され、その上悪魔祓いに殺されそうになり、途方に暮れてあそこにいた…と」
「はい…間違いないデス…」
目を若干潤ませ、俯きながら彼女は頷いた。よく見れば身体も少し震えている。警戒されているのだろう。
「あの…」
「はい?」
「お、オレは…その…こ、殺されちゃうんですか…?」
震えた声で、恐る恐る尋ねられる。しかも上目遣いで。
「うーん…それは…」
彼女、聞けば人を襲ったことはないらしく、それが落ちこぼれの烙印の原因なのだそうだ。
…それはそれで、今までどう日々を凌いできたのかが気になるが。
「…まぁ、問題はないんじゃないかな…君は危険ではないだろうし…様子見…かなぁ…」
「様子見…」
「しばらくはここで過ごすこと。一応ここのシスターってことで、私の手伝いをして欲しい。後、決して人は襲わないこと。いいね?」
「もし、襲ったら…?」
「その時は悪魔祓いに突き出すよ」
「ヒッ…」
そんなことするつもりは毛頭ないのだが。きっと彼女は純粋なのだろう。
それにまぁ、こう少し厳しく言っておいたほうが、万が一にも起きないだろう。
「私はブランデンブルク。この教会で神父をやっているものだ。これからよろしくね。君は?」
「あ、えぇっと…オレはプロイセン…見ての通り淫魔…です…ブランデンブルク…さん?」
「…君の話しやすい話し方で良いよ。プロイセン。後私のことはブランでいい。長いからね。街の人からもそう言われているし」
「え、じゃ、じゃあ…ブラン?」
「よし、改めてよろしく。プロイセン」
「よ、よろしく…な?ブラン」
戸惑いながらも、私の差し出した手をプロイセンは握り、私はそれを握り返した。
これが、私とプロイセンが出会った経緯だ。
「…?お~い、ブーラーン?」
「えっ!?あっプロイセン?どうしたんだい?」
「む〜…また上の空になってたぜ〜…何か考えてたんだろ!教えろよ〜!」
「い、いやぁ…別に…」
君との出会いを思い出していた。なんて言ったら、彼女はどんな反応を返すだろう。恥ずかしがるのか、はたまた。
「…だーめ」
「はぁ~?なんでだよ!ブランのケチ!」
そう言いながら、そっぽを向いた彼女の顔は少し笑っていた。
「それより飯にしようぜ!オレ腹減った〜」
「そうだね。…あぁ、君は…」
「先に食べていいぜ。そのかわり…後でいっぱい、”ちゅー”してもらうからな!」
淫魔は人間の食べるものを食べることはできない。
そして、彼女は他の、普通の淫魔がする食事方法は行わない。そういう約束だから。
だが、淫魔の主食はあくまで人間の精気。それさえ摂れれば方法は問わないらしく、彼女の場合は私との”キス”によって精気を摂取している。
「ああ、構わない。約束を守ってくれているんだからな」
今までの…彼女が来る前の生活は、少し退屈だったような気がする。別に、街の人達と付き合うのがつまらないという訳では無いが、なんだかんだ、こういう話し相手が欲しかったのかもしれない。
「(この日常が、ずっと続けばいいのだけれど)」
その数年後、この二人は家庭を築くことになるのだが、それはまた別の話である。