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◻︎見つけた!
「ん?あー、スマホ?」
「はい。すみませんでした。入院している親の状態がよくないので、緊急の連絡があった
かとうっかりスマホを開いてしまいました」
ラッキーと思ったということを悟られないように、少し俯き加減で答える。
「よかった、取りに来てくれて。取り上げたはいいけど、誰からだったか覚えてなかったから…」
「は?あの…」
「あはは、またですか!ホントにチーフは人の顔を覚えることが苦手なんですね。どうするつもりだったんですか」
「そこまで考えてなかった。まぁ、あんな場所でスマホを開く新入社員は、なんとかして取り返しにくるだろうなって思ってたし。それより、そんなに具合の悪い親がいるのに、入社式には出席できたの?そんな理由なら辞退してもよかったのに」
「え?あ、あの…」
意外な答えに、戸惑った。
「フフッ、嘘なんでしょ?もう少しまともな嘘をつくか、正直に社長の話が退屈だったんで、とか言ってくれたほうがいいけどね」
_____見透かされてる!
「あっ、はい、じつは社長の話がおもしろくなくて…」
「わかった、新入社員の、えっと…日下千尋がそう言っていたと社長に伝えておくわ」
「えーっ!そんなぁ!」
「あはははは!チーフその辺にしといてあげましょうよ。入社初日からこれはキツいと思いますよ」
_____あー、この人は見た目がいいだけじゃなくて、優しい人なんだ
会話をしながら、その男性の身分証を見る。
“結城宏哉”、よし、おぼえた。
「そこの新人さんは、私より結城君に用事があるみたいだから。私は行くわ」
森下チーフは、そう言うと席を立った。
「えっ!」
_____結城さんを見てたこと、バレてた?
「ちょっと、チーフ、せっかく一緒に休憩できたのに、もう少しいいじゃないですか!あ、ごめんね、もう用事は済んだよね?じゃ」
結城さんもそれだけ言うと、行ってしまった。
研修が終わったら、ここに配属希望を出すことに決めた。あの森下チーフは少し苦手だけど、結城さんがいる。
私はスマホをポケットに入れると、パーテーションのスペースから出た。サラッと周りを見る。
_____ライバルになりそうな女子は見当たらないな
今日から配属までの一か月で、とことん自分をメンテして、女としてのレベルも上げておこうと思った。
それからは少しずつ、研修の合間をぬって4階へ出かけ、それとなく結城さんの情報を集めた。女子トイレに入れば、たいていの情報は集まる。
結城宏哉、27歳、入社4年目、結婚してない、彼女いない。
高身長高学歴、高顔面(?)なので言い寄ってくる女は多そうだけど。
研修も終わりに近づいた日。
配属希望を提出し、運良く【新規事業開発室】に決まった。
_____私って、持ってるかも?
少し前までは、自分のことを不幸だと思ってた。いいことがない人生から脱却するために、今日まで勉強も女としてのスキルも上げてきたのだ。
_____さあ、いよいよだ!
絶対幸せになってやる、と意気込んだ。