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数日後。直哉は廊下を歩きながら、無意識に玄関の方へ視線をやって、すぐに舌打ちした。
直「……やっぱ来いひんな」
誰に聞かせるでもなく呟いて、襖にもたれる。
来る理由がないのは分かってる。
分かってるのに、間が悪い。
そのとき。
縁側の方から、畳がわずかに鳴った。
直哉が顔を上げるより先に、低く落ち着いた声がする。
甚「おー、やっぱりいた。直哉」
直「……」
一瞬、言葉が詰まる。
次の瞬間、口元が勝手に緩んだのを、直哉は自覚してしまって、むかついた。
直「なんや、急に」
声だけは平然を装う。
直「しばらく顔見ぃひんかったやん」
甚爾は縁側に腰を下ろしながら言う。
甚「ちょっと用事があっただけだ」
直「ふーん?“ちょっと”ねぇ」
直哉は腕を組んで、じっと甚爾を見る。
直「連絡もなしって、愛想悪すぎへん?」
甚「そんな約束してねぇだろ」
淡々と返されて、直哉は一瞬むっとする。
直「……ほんま、可愛げないわ」
甚「今さらだ」
甚爾がちらっと視線を向ける。
その目が合った瞬間、直哉の胸が変にざわつく。
直「戻ってくるとは思っとったけど」
直哉が少しだけ声を落とす。
直「ほんまに来るんは、遅いわ」
甚「悪かったな」
短い一言。
でも、いつもより少しだけ柔らかい。
直哉はそれを聞いて、ふいっと顔を逸らした。
直「……別に、責めてへんし」
甚「顔がそう言ってねぇ」
直「やかましい」
沈黙が落ちる。
でも嫌じゃない沈黙。
直「しばらくはいるん?」
直哉がそう聞く。
甚「さぁ?」
甚爾は肩をすくめて、にやっと笑う。
甚「お前次第じゃねえか?」
直哉は小さく息を吐いて、
直「相変わらずやな」
そう言いながらも、立ち上がらなかった。