「未回答の部屋」
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※この話はnmmnです。界隈のマナーやルールに則った閲覧をお願いいたします。
※ありとあらゆるものを捏造しているのでヤバいと思ったら逃げてください。薄目で見ていただけると幸いです。
4:約束
俺は燃料を補給したストーブに火をつけた。しばらくすると上に乗せたヤカンの口からまたしゅんしゅんと湯気が上がり始める。
ストーブがなければ室内でも息が白くなるほど冷え込んだ昨夜、初雪が降った。
雪はみるみるうちに天窓を覆い、俺から見える外の世界は白一色に染まった。きっと外もまばゆいほどの白なのだろう。俺の住んでた国ではほとんど雪が降らないから、積もったら喜んで遊びに行ったことなどをぼんやり思い出した。
俺は次の本を選ぼうと棚に向かった。本を差し置いて先日らっだぁが拾ってきたバカでかい松ぼっくりに目が行った。その横には俺が色を塗った普通サイズの松ぼっくりがいくつか置いてある。松ぼっくりツリーにしようと思ったのに緑のペンがなかったんだ。でも青やピンクでもなかなか可愛い見た目になった。
しかしこのでかい松ぼっくりが邪魔だ。次なにかもってきてくれたら置く場所がなくなってしまう。ずいぶん前に読んだ本を片付けてもいいけど、それよりはせっかく持ってきてくれたこの松ぼっくりでなにか飾りでも作れないだろうか。
俺が松ぼっくり片手にインスピレーションを得ようと唸っていると、雪を踏むザクザクという音が近づいてきた。錠前がガチャリと回り、ドアが開いた。
「昨日の雪、ちょっと積もってたね」
らっだぁが靴についた雪をトントン払いながら入ってきた。肩越しに見えた世界は思ったとおり白かった。木に積もっていたであろう雪は昼間のうちに溶けたようで、日が傾きかけた空を背景に黒々とその枝を伸ばしている。
らっだぁが鍵を閉めるのに手間取っているのに気づいた。買い物袋だけでなく、掲げた左手になにか持っている。
「なに持ってんだ?」
「みてみて、雪のお裾分けだよ」
「なにそれ、雪だるま?」
「可愛いでしょ」
差し出してきた左手にはなにかの形に作られた雪の塊が乗っていた。ずっと持ってたんだろう、らっだぁの手はいつも以上に青白い。だけど雪だるまにしては球体が一個しかない。これじゃただの雪玉だ。
「もしかしてこれ雪だるまじゃなくて、雪うさぎ作ろうとして失敗したのか?」
「は〜ぁ?大成功なんだが?」
「なるほどね、らっだぁの地元だとこういう感じなのか」
「え、バカにした?俺の力作」
「してないしてない、独創的だなーって」
「ふーん、じゃあぐちつぼのところはどんなの作るの?」
その質問に答える前に、溶けても大丈夫なように深皿を出してきてらっだぁ力作の雪だるま(?)をその上に置いた。テーブルに置いてよく見たら足がちょこんと2つついてた。だとしても手のない謎の丸い生き物なんだよな……。
「俺のところっていうか普通の作り方だと思うけど、雪玉二個を重ねるんだよ」
「なにそれ?簡単じゃん」
「それに目や口を石なんかでつけたり、帽子とかマフラーつけたり、人っぽく飾り付けるんだよ」
「へぇ~、美味しそうだね」
「食うなよ、雪だるまだぞ?」
俺は呆れながら買ってきてくれた食材をしまった。マフラーの話題が出て俺はらっだぁの首にふと目が行った。上着や中に着ている服はたまに違うことがあったけど、あの格子模様の赤いマフラーだけは常に同じだ。寝るときだって巻いてるし、あれを取っているところはほとんど見たことがない。
「ねぇ今日のご飯は~?」
「ッわ!?いきなりひっつくなよ!」
考え事をしていたららっだぁに後ろから抱きつかれて俺は飛び上がった。耳元でごめんねぇとか言ってるけど肩に顎を乗せたりしてくる。悪びれている様子は1ミリもない。
それでももう棘は出ない。この程度じゃもう、出ないんだ。
*
鶏肉を買ってきてくれたので、今日の夕飯はちょっと頑張って唐揚げを作ってみることにした。揚げ物は怖かったから敬遠してたんだけど思ったより簡単で、いい感じにできた、はずだった。
「ごめんね、本当に美味しかったんだってー」
卵焼きと白米を貪る俺の前でらっだぁが何度目かの謝罪をしている。
テーブルの真ん中、たくさんの唐揚げが乗っていたはずの大皿は空っぽだった。そう、俺が粉の入ったボウルとかを片付けて席についたときにらっだぁが最後の一個を食べやがった!他に材料もないので俺は残っていた卵で自分用に卵焼きを作るしかなかった。
「一個だけでも残しておいてくれよ……」
「自分でもびっくりした、気付いたらカラだった」
らっだぁはいつも気持ちがいいくらいに残さず食べてくれる。何度となくご飯を作ってきたけれど、食べ尽くされたのは初めてだ。俺は驚きと怒りだけでなく、実はちょっとだけ嬉しかった。
「……いいぜ、らっだぁが喜んでくれたんなら」
気づいたら全部食べちゃった、なんて料理人に対して最高の賛辞だろう。ハンバーグ1つ怪訝そうに食べてた頃と比べたら大違いだ。
「うん、すごい美味しかったよ」
「でも!俺も味見したかった!!そんな傑作なら!」
「本当にごめんね、じゃあ次は俺が頑張るよ、ぐちつぼのために」
「絶対無理だからやめてくれ、揚げ物とか俺でもハードル高かったのに」
申し訳無さそうな申し出を俺は丁寧に断った。やる前から結末が見える。
まあ油はまだ使えるし、明日も唐揚げにすればいい。明日も作るよ、と言ったららっだぁは手を叩いて大喜びしていた。鶏肉、何枚買ってきてもらうか悩むところだな。
*
夕食も終わって風呂にも入ったあと。能力制御の訓練の時間だ。
「おいで」
らっだぁが手を広げて俺を呼んだ。俺はソファーに座っているらっだぁの上に正面から乗って抱きついた。背中をトントン叩かれてマフラーに顔をぎゅっとうずめる。
抱きしめられていると胸が苦しい。鼓動がどんどん速くなる。こうして抱きしめられている間は世界の全てから守られているようで、俺は目を閉じて体重を預けた。
外では木枯らしが通り過ぎる悲鳴のような音がする。でもこの部屋は世界のどこよりも平和だった。命を削って魔物を狩っていた頃のことがもはやおぼろげだ。
死の色が濃いほど生の実感は得られるけど、ただこうして自分のすべてを無防備に預けられることでも命のかたちを実感できる。俺の命はきっとらっだぁの形にへこんでて、抱きしめられてはじめてそのすべてが満たされる。そんな気がした。
らっだぁの唇が耳に触れた。呼吸が耳元をくすぐる。
「やぁ……っ、それくすぐったいから」
「でも棘出ないね」
揶揄されて顔が赤くなる。ちょっと前まで目があっただけでも棘が飛んでたのに、嫌だって言ってるのに出ないのが肯定してるみたいでマジで恥ずかしい。
首に唇が押し付けられる。そのまま首筋をなぞるように動かされて俺は唇を噛んで堪えた。
ぞわぞわ駆け上がる感覚で身体が苦しい。でもこれは訓練だから、と自分に言い聞かせようとしたときにらっだぁが俺の耳たぶを噛んだ。俺が背中をのけぞらせても腰にぐっと手を回して逃げさせてくれない。
「あれ、噛むの大丈夫になったの?」
「へ……?あれ、嘘だろ」
そう言われて俺も驚いた。昨日まで噛まれるとちょっとだけでもトゲが出てたのに。
「本当かな、本当に出なくなった?」
確認するように首筋を何度も噛まれる。この程度のことでちょっと涙が浮かんでとても恥ずかしい。体が熱いし、こんなにくっついてたらきっと俺の鼓動は丸聞こえだ。
「ッあ……!!」
身体を押し返そうとした手首を捕まれやんわりと噛みつかれる。首筋に腕、肩に手首に、身体の色んな場所に噛み跡がついているんだろう。
「痛ッ……!」
「ごめん、強すぎたね」
襟に手をかけ、むき出した肩を強く噛まれて声が出た。横目で見た肩には赤黒い歯型がはっきりとついていた。その横に薄れつつある昨日の噛み跡があった。それでもトゲは一度も出なかった。
らっだぁは俺のことをしっかり抱きしめて、なかなか離してくれない。肩の噛み跡を癒やすかのように唇を押し付けてくる。体がふわふわと熱くなって眠くなってきた。
俺がらっだぁの肩に顎を乗せてうとうとし始めたとき、らっだぁの手が服の中に滑り込んだ。体温の低い手が腹から胸までをぞわりと撫でる。
「ちょっ、なにしてんだよッ!?」
「だってもう噛んでもトゲ出ないじゃない。他の場所は?こことかどうなの?」
逃げようとしたけど腰に腕を回されて身動きが取れない。俺が動けないのをいいことに身体をさわさわ撫でられ続ける。手が動くたびに体が震え、喘ぐような不規則な呼吸が止まらない。
「んぁッ……?!」
らっだぁの指先が胸をゆっくりと這い、乳首に触れた。俺が背筋を反らすのと同時に太めの棘がらっだぁの腕に刺さった。でもそれを抜きもしないで手を離してくれない。
「ごめんね、触るのやだよね」
「や、だ、なにそれ……ッ!?」
胸を揉まれてうわずった声が出た。知らない知らない、わからない感覚に俺は翻弄される。
らっだぁは俺を傷つけるつもりじゃない、そんなことは絶対しない、そう自分に言い聞かせる。でも胸を強く捏ねられ、聞いたことないような甲高い声が喉から出た瞬間、太いトゲがらっだぁの頭に突き刺さった。
「ごめんね、わかんないよね、ごめんね」
らっだぁはやっと服の中から手を抜いてくれた。そのまま俺を抱きしめて、腕の中で息も絶え絶えな俺に何度も謝ってきた。なんでそんなに謝るのか俺にはわからなかった。まだ頭にトゲ刺さってるからおかしくなったのか?
「謝るくらいならすんなよ」
「ごめんね、ここ駄目なんだねぇ」
「そ、そんなとこ普通に駄目だろ?!らっだぁがへんなとこ触るからだぞっ!」
服の上からまた胸をつつかれて俺は腕の中で飛び上がった。俺がふてくされてるのを見てらっだぁは笑いながらやっと自分の頭のトゲを引っこ抜いた。きっとよくないところに刺さったせいだ、これでちょっとはまともになってくれ。
「ずいぶん慣れたよね、ぐちつぼも」
「そうだな、おかげさまで大分自信がついたぜ」
「でも、ぐちつぼにもまだ駄目なところあるんだね」
「ッ、だから、そこはズルいだろって!!」
「そこってどこが?」
「む……胸だよ、言わせんな!」
らっだぁは腕の中に収まったままふてくされる俺のことをじっと見つめてきた。海よりも深い青い目に、それとは真逆の夕日みたいに赤い目をした俺の顔が映っている。誰かの瞳に映る自分を見るなんて、その人の腕の中にいるときくらいだろう。らっだぁの瞳に映る俺はなんだかんだ幸せそうな顔をしていた。
不意にその俺の顔が揺れた。らっだぁが困ったように目を細めた。
「ずっと手も触れなかったのにね」
らっだぁは俺の右手をとり、指を絡ませて握ると顔の横にかざしてみせた。面と向かって言われて顔に熱が集まるのを感じた。恥ずかしい。トゲでこいつの得意げなニヤつく顔を薙ぎ払ってしまいたい。
でも残念ながらもう出ない。こんなことじゃ出ないんだ。
しばらくの間、俺たちは無言で抱き合っていた。ただすぅすぅと響く、2人分の呼吸音が心地良い。
俺はさっきなにをされたんだろう?もうなんの訓練かわからない。手を触れることにとっくに慣れて、こいつに噛まれても棘が出なくなって、これから身体触られるのも平気になって、それで……その先俺はどうなるんだろう。
いや、その先なんてどうでもいい。だってもし俺が全部できるようになったら、それでもらっだぁは一緒にいてくれるんだろうか?
らっだぁの行為に反応して棘がまだ出ることが、今となっては嬉しい。できないことがあるうちはこの安寧の中に居続けられる。
俺はまだここにいたい。らっだぁと一緒にいたいんだ。
背中を撫でられ睡魔がトロンと押し寄せてきたころ、らっだぁは俺を抱き上げてベッドに運んでくれた。狭いベッドだけど二人で身を寄せ合って毛布をかぶる。冬の寒さも抱き合っていれば関係ない。
「ぐちつぼ、おやすみ。また明日ね」
「……ん、らっだぁも、おやすみ」
当たり前のように俺を腕の中に招き入れて、らっだぁは目を閉じた。俺もできるだけ胸にくっつく。らっだぁは体温が低いしいつも手は冷たいけど、これだけ密着して寝れば流石にあったかい。俺の熱を分けてるみたいで嬉しくなる。
外は寒風が吹き荒れている。葉もない枝がギシギシと揺れる音がする。
らっだぁの腕の中は世界で一番安心できる場所で、俺は何も考えずに目を閉じた。
*
翌日は快晴で、天窓の雪も溶けて吸い込まれそうな冬の青空が見えた。
昨日のらっだぁ力作の雪だるま(?)はとっくに跡形もなくなってしまった。俺はその水を手を合わせながら流しにバイバイした。
「滑りそうでやだなぁ」
外出の準備をしながららっだぁがため息をついている。
「なるべく上から足をまっすぐ下ろすといいらしいぞ」
「わかってるけどコケるときって一瞬やん」
「なんかわかる、らっだぁが雪で転んでる姿目に浮かぶわ」
「ぷっつーん、絶対コケないからね、賭けてもいいよ」
「頭から行きそう」
「行かないし!」
ちょっと言うだけですぐ張り合ってくるので本当にチョロい。今日の土産話は絶対コケなかった回数自慢だろう。
らっだぁはマフラーをほどいてもう一度ちゃんと巻き直している。それをしたら出ていく合図だ。
その後姿は何度も見送ったのに、俺は急に苦しくなって青い上着の袖を掴んだ。
「なぁらっだぁ、俺も……一緒についてっちゃ駄目か?」
振り向いたらっだぁは目を丸くしている。それはそうだろう。俺が一緒に行きたがったのはこれが初めてだ。
らっだぁがいない間、この部屋で一人で待ち続けるのにはとっくに慣れた。でも、どうしても寂しさが消えない。
力が制御できなかった頃は暴発するたびに眠くなって寝てたからよかった。だけど最近は、昼間がとても長い。らっだぁもだんだん早く帰ってくるようになったけど、それでも、そんなことをしなくても二人で一緒に行けばいいんだ。そうしたらずっと一緒にいられる。能力だってほとんど制御できてる。きっともう外に出ても大丈夫だ。
「だーめ、お留守番しててね」
らっだぁは悪ガキをあやすみたいに俺の頭に手を伸ばした。俺はその手を避けて一歩踏み出す。
「なんでだよ、俺だってそろそろ」
「外は危ないよ。もし本当に誰か殺しちゃったら大変なことになるから」
「それはずっとらっだぁと訓練しただろ?もう大丈夫だって!」
俺が威勢よく詰め寄ったららっだぁは少したじろいだように見えた。眉間にシワを寄せて俺のことを不安そうに見てくる。
「絶対大丈夫って言える?」
「言える、……と思う」
「絶対の絶対だよ?」
「それは……」
言い方がズルい。絶対なんて言われたら俺にだって不安はある、絶対大丈夫とは言えないじゃないか。
次にたじろいだのは俺の方だった。黙ってしまった俺の頭をらっだぁが優しく撫でた。
「……もうちょっと、もうちょっとね」
そう言われて頭を撫でられたらもう何も言えなかった。らっだぁが心配してくれていること、俺を思ってくれていること、それがわかるからもう無茶は言えない。
寂しさは抱えて待てばいい。らっだぁは絶対に帰ってきてくれる。
帰ってきたらお土産をもらって、ご飯を食べて、抱き合って寝て、そしてまた朝が来ればいい。それを繰り返せば、俺の寂しさなんて一瞬のことだ。
俺が無理矢理納得しようとしたら、急にらっだぁが俺の頬に手を添えた。
「わかった。じゃあ、俺とキスできるようになったらいいよ」
「は、はぁ!?」
とんでもなくデカい声が出た。らっだぁは悪そうに笑っている。
「な、に言って……」
「あ〜そういう反応になっちゃう?それくらい感情がびっくりしても暴発しなきゃ、ほかのこともだいたい大丈夫だよ」
内心を見透かされたようで恥ずかしい。頬に添えられた手が妙に熱く感じる。
らっだぁは俺の首とかにはキス……してきたけど、唇にしたことはない。だってもしそんなことをしたら……俺のファーストキスだ。
色恋沙汰を回避し続けてきた俺にはとんでもなく高い障壁だった。唇と唇が?くっつく?いや、触れ合う?わからねぇ、キスってどんな感じになるんだ?全然想像もできない。
「ふふ、やっぱりぐちつぼくんには無理そうかなー?」
頭も目もぐるぐる回転してる俺を見てらっだぁが小馬鹿にするように笑った。俺は頬から離れようとした手を追いかけて、掴んでその顔を見返す。
「キスできたら、一緒に外、行けるんだな?!」
そう、これは訓練だ。そういうのじゃない、これでどうもなかったら俺はらっだぁと一緒にどこにでも行ける。
そうだ、切符みたいなもんだ。キスさえできればこいつともっと一緒にいられるんだ。
「うん、そうしようね。キスできたらね」
「じゃ……じゃあ今、今やってやるぜ」
チャンスを逃すわけには行かない。俺はらっだぁの肩に両手を置いて、恐る恐る顔を近づけた。
青白い顔が近づく。心臓が口から出そうだ。長い睫毛も整った顔も、間近で見ると物騒なほど綺麗で目が眩みそうになる。
怖くなって俺は目を閉じた。人生でこんなに緊張したことはない。でも今自分がどれくらい近づいているのかわからなくて、ちょっとだけ目を開けてみた。
薄い唇が目の前にあった。
「ッは……!!」
うめき声で我に返った。らっだぁの左胸を大きな棘が貫いていた。
切っ先は背中から突き出している。らっだぁがその場に崩れ落ちた。膝をついたまま動かない。
俺は頭が真っ白になった。焦ってその肩に手を当てて揺さぶる。何を言ったのかは覚えていない、多分名前を叫んだんだろう。しばらくするとらっだぁは俺の腕を掴んでゆっくり立ち上がった。
「はいダメ〜」
勝ち誇ったような顔で言われて俺は一瞬でも心配したことを後悔した。
「残念でした、やっぱりぐちつぼには無理かぁ」
腹の立つことをいいながら棘を引っこ抜いている。気のせいかもしれないけど一瞬、傷口が青く見えたけどすぐに塞がった。こっちはヤバいかと思って心配したのに!
「くっそ、負けねぇからな!」
俺を見てらっだぁはゲラゲラ笑っている。本当に悔しいし腹が立つ。
でも、俺は唇に触れることさえ出来なかった。それどころか久しく見たことのないレベルのトゲが出た。
これはきっと、克服するのがとっても大変だ。昨日ふざけて胸を触られたのよりもっと大変だろう。本当に大変だ。
キスができない間は俺はここにいなきゃいけない。仕方ない、外に出たら危ないからな。
でもいつかできるようになったら一緒に外に出て、それで、俺たちは……
「……寂しいんだよね?」
遠い未来を夢想する俺にらっだぁが声をかけた。俺は黙ってうなづいた。
俯いたままの俺の首にふわりと何かが巻かれた。視界に入るのは赤の格子模様、らっだぁのマフラーだった。
「それ、貸してあげる。大事なものだからね、俺が帰ってきたら返してね」
「いいのか?」
呆気にとられて固まった俺の首に、解けないように丁寧に巻いてくれた。肌触りの良い生地にはぬくもりがまだ残っている。ふわりとらっだぁの匂いがして俺は思わず顔を埋めた。
「ありがとな、これなら……」
「俺の毛布よりはいいでしょ?」
「ッ~~~~!!!??」
バレてた!?俺の癖が!!?声にならない悲鳴を上げる俺をおいてらっだぁはニヤニヤしながらドアを開けた。
「じゃあ行ってくるね、ちゃんと返してよね」
「うるせぇさっさといけよ!あとお前マフラーしてないと全身青くて締まりが無いな」
「はぁ〜???そんなこと言うならいま返してもらっちゃおうかなぁ??」
「嫌だぜ、俺のだ!どうしても返してほしかったらせいぜい急いで帰ってこいよ!!」
玄関を挟んでバチバチと険悪な空気が流れる。ケンカの内容は実にくだらない。でも俺も引くに引けなくなってらっだぁを睨みつけた。
「じゃあね」
先に言ったのはらっだぁのほうだった。いつもなら頭を撫でたりしてくれるのに何もなくドアが閉められる。
「……どこにもいかなくてもいいんだぞ」
「ん?なんか言った?」
「なんでもない」
一瞬、ドアを閉じる手が止まった。でも俺がそっぽを向いたのでドアは俺の前でそのままガチャンと閉じた。
コメント
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gt最初は逃げようっていう気持ちから外に出ようとしてたのに、今はrdと離れたくないからに変わってるのが良き… これからどうなるのか…gtはキスできるのか… ワクワクしながら待ってます!