丸く濃く輝く月が今宵の真っ暗な空に浮かぶらしい
 
 ______10月31日
 
 
 街には、血塗れた警察官に汚れたジョーカー、そしてツインになっている天使と悪魔…
 他には、小さな子供たちが"Trick or Treat"と呪文を唱えて大人たちからお菓子をもらって楽しそうな笑顔を見せている。
 対して俺は180を越える大きな男の脚を膝に乗せて、今まさに今日が何の日かをスマホで認識したところ
 
 『脚、乗せんな、重い。』
 
 「んぁあ〜??」
 
 『はぁぁあ…』
 
 27歳にもなるお坊ちゃんは大きな欠伸とともにわざとらしく脚に力を入れた。
 こんなことは日常茶飯事であり、はたまた俺の眉間に皺が寄るのも日常茶飯事なのである。
 
 「そぉんな怖い顔しなぁいのぉ!」
 
 『誰のせいだと?』
 
 「お口ぷくーなんてしちゃって可愛いねぇ」
 
 『あ゛あ゛??』
 
 「ごめごめん笑笑あ、そういや今日ハロウィンじゃん!」
 
 『らしいね。特に今夜は満月らしいし…っていってももう随分ハロウィンらしいことしてないけど…』
 
 今日がハロウィンだと気づいた勇斗は、ソファーに横に伸びていた体を起き上がらせて、満面の笑みで両手を俺の前に差し出した。
 
 「とりっくおわとりーと♡」
 
 『家にお菓子なんてありません。』
 
 「えー?じゃあイタズ…」
 
 『イタズラしたら知らないからな?』
 
 あんなに大きな男が子犬のようにしょげて、こちらをじっと見つめた。
 
 俺がその顔に弱いの知ってるくせに…!
 
 『…はいはい、わかりましたよ。買いに行こうお菓子。それでいい?』
 
 「さんせーい!っしゃいくぞー!」
 
 『…笑』
 
 そこらの子供と大差ないほどにはしゃぐ勇斗は上機嫌のまま出かける準備をした。
 車に乗って着いた先は、BGMがクセになる某ディスカウントストア。
 店に入り、カゴを手に持つと、後ろからひょいっと持っていたカゴを奪われた。
 
 二人で買い物するうえで、カゴもカートも持ったことないし、ドアも勇斗の両手が塞がっていない限り開けたことない。
 無自覚なのかしらないけど、ほんとこういうことをさらーっとこなすから、そういうところは素直にかっこいいと思うよね。
 そういうところは。
 
 「いっぱい買ったろ!」
 
 『程々にしときなよ笑』
 
 目に止まったものは次々とカゴの中へ入っていった。
 有名なお菓子から、対象年齢が5歳くらいに向けられて作られたお菓子など、ありとあらゆるものに手が伸びていった。
 
 「やっぱハロウィンって言ったら、、、キャンディー?」
 
 『まぁ…でもあんま食べないでしょ。』
 
 「じゃあひと袋だけ買うか」
 
 時折二手に分かれて、それぞれ欲しいものを入れ、30分程してやっと会計に進んだ。
 
 『いいの?俺出すよ?』
 
 「いーのいーの」
 
 今も尚上機嫌な勇斗は、どうやら財布の口がゆるい
 もうちょっと入れとけばなぁ…なんて思いながら、家へと車を走らせた。
 『ついたぁー』
 
 「ただいまー」
 
 『…買いすぎたな』
 
 「今日くらいいいだろ笑てか、これもう開けていい?」
 
 『ん?あぁいいよ』
 
 買ってきたひとつのボトルを開けた。
 いつもより少し高めの度数とそれに合うつまみを並べ、グラスを鳴らした。
 1本であれど、高めの度数と薄暗い雰囲気にあてられて、いつも以上に酔いがどんどん回っていった。
 
 『てか、ハロウィンとかいっときながら、何も変わんないじゃん笑』
 
 「まあまあ、そう言うと思って、買ってきましたよ」
 
 『何を?』
 
 「はいこれ。プレゼント♡」
 
 待ってました、と言わんばかりの顔で差し出したのは、真っ白の白衣のあのコスチューム。
 
 『…は?』
 
 「せっかくのハロウィンだからさー。ほら、着てみてよ」
 
 目の奥に隠しきれてない欲望に笑みを浮かべる勇斗がまるで悪魔のように見える
 
 『いやいや。着ません。特にこれ、女性もんでしょ?尚更着ないわ。酔っ払っいすぎ』
 
 「えー?俺一生懸命選んだのに?可愛い仁人見たくて、人がいーっぱいいる中で恥ずかしながら買ったのに?」
 
 眉を八の字にして、またもなお必殺技の顔。
 ほんとずるいよなこういう時だけ良いように使いやがって。
 
 『あぁはいはい。わかりましたよ。いろいろ買ってもらっちゃったりしたんで。今日だけな』
 
 「よっしゃー!じゃあベッド先に行ってるね♡」
 
 『いや聞いてない聞いてない。』
 
 「言ってない言ってない。」
 
 『着てやるとは言ったけど、ベッドに行くとは言ってない』
 
 「いやいやいや!そこがミソだろ!いいからほら、着替えておいで」
 
 『はぁ…』
 
 飴玉をひとつ口に放り込んで、深いため息をつきながら洗面所へと向かった。
 袋から出して、衣装を広げてみると、みるみると目が丸くなった。
 
 『わぉ…みじか,,俺に似合うとか言ってたけど、どうせあいつが着せたいやつだろこんなの…』
 
 とりあえず、備わっているものを全て身につけ鏡の前に立ってみた。
 
 『ん〜…下どうすんだこれ…?』
 
 「仁人まだぁ?」
 
 『うるさい!今着てるから!』
 
 履いているままだと、ちらっとトランクスが見えて、それもそれでかっこ悪い…
 再びため息を吐いて、意を決して脱ぎ捨てた。
 
 「どうせ直ぐ脱ぐしな、うん、、そうだよ、直ぐ脱ぐから、、別に俺は乗り気じゃないけど。俺は。」
 
 衣装を下にぐーっと引っ張って、勇斗が待っている寝室に向かいドアをそっと開けた
 
 「…」
 
 『そんなに見ないで貰えます?』
 
 「…はぁ______」
 
 『見てんならなんか言えよ』
 
 「まぁじ可愛い♡そこに居ないでこっちおいで」
 
 ゆっくりと脚を勇斗の側まで運ぶと、腕をぐっと引っ張られ、ベッドに座る勇斗の膝に乗った。
 
 『うわっびっくりした』
 
 「え、まって…」
 
 『なに』
 
 「もしかして下…履いてない,,?」
 
 『…履いてないけど…///』
 
 「ほんとにお前…最っ高だわ♡」
 
 『履いてたらなんかちょっと見えてカッコ悪かったから!別に乗り気なわけじゃないから!』
 
 必死に弁明していると、勇斗の顔が近づいてきた。
 顔を見ると、どうやらもう既にスイッチは入っているっぽい
 
 『ちょちょ、ちょっと待って!飴!口に入ってる!』
 
 「あぁ?なんで食ってんだよ」
 
 『いいでしょ別に…,,///』
 
 一瞬眉をつり上げる勇斗はお構い無しに口を重ねた。
 そして器用に飴を探り、そのまま自分の口へと移したかと思えば、小さくなった飴を噛み砕いた。
 
 「あっま」
 
 『バカっ,,///』
 
 用意した障害物も勇斗にしてみれば全て道具で、再びエンジンのかかった勇斗はいつも以上に俺の身体を手で滑らせた。
 
 『変態,,///』
 
 「え…?」
 
 『だから、脚触りすぎ!』
 
 すると勇斗が俺の脚をぐいっと持ち上げ、そのまま後ろに倒れて仰向けになった。
 そのせいでコスチュームがめくり上がり、さっきよりも脚が露になってしまった。
 姿勢からか上手く抵抗もできなく、勇斗はそのまま太腿に優しく噛み付いた。
 
 「…で、なんだって?」
 
 『この…,,っ///』
 
 「仁人」
 
 『…なに,,///?』
 
 「Trick and Treat♡」
 
 
 end.
コメント
2件
待ってました!!今回もめっちゃ良かったです〜!