時は師走。
うちのグループが二番目に忙しい季節である。
(ちなみに一番忙しいのは夏)
「カニしゃぶにしようと思って」
「豪華じゃん」
「じゃぱぱさんがふるさと納税でもらったカニ使おうと思ってます」
冷凍庫に詰まってるカニどうにかして欲しいんですよね、と怒っているのはのあさんだ。
今話してるのは12月25日に開かれる誕生日会でのご馳走様のこと。
うちのグループでは、主役の食べたいものがテーブルに並ぶ決まりになっている。
会の取りまとめ役は主にのあさんだ。だが毎度、俺も巻き込まれる形でのあさんと一緒に料理担当にされている。
今回は主役だから、自分で自分のものを作ることになるんだけど…
「んー…」
「思い浮かばない?」
「これと言ってピンとこなくて…」
食べたいものは大抵自分で作ってしまからか、すぐに浮かばない。自分で作るものは自分の味になってしまうから飽きるんだよね。
そうだなぁ…最近美味しいと感じて、また食べたいと思ったものはなんだったか。
「だし巻き…」
「だし巻きたまごがいいの?」
ぼやいて口から出てきたのは”だし巻きたまご”
そう、この間るなさんに作ってもらったものだ。
美味かった、俺が作るより甘めだった。口に入れたらおかしみたいな甘さの後ろにわずかな醤油の味がしてさ。
ちょっと焦げちゃったんです、なんて泣きそうになっていたるなさんの顔とフルセットでよかったなぁ。
はぁーほんと可愛か「しーばーさーん」
思いを馳せていると、ジト目ののあさんとかち合う。あ、ごめん。強制的に現実世界へ戻されてスン、と表情筋が締まった。
「どうします?」
「うーん、俺特にない…」
「もう、それじゃあ困る」
だってないんだよ。強いて言えばばるなさんの手料理がまた食べたいナ。
「なぁにしてんのー?あ、誕生日のご飯決めてんの!?」
「じゃぱぱさんカニしゃぶにするから」
「きゃぁぁ!」
カニの単語でこんなハイテンションになるんだ。低い地声にオンナノコみたいな声出しててバグってる。それだけ嬉しいんだろう。
俺もるなさんの手料理ーっつったら…じゃぱぱさんみたいな声は出したかねぇが、泣いて喜ぶと思う。
エプロン可愛かったなー。マジよかったなー。俺の貸しちゃったけど、るなさん用のやつ用意しとこうかなぁ。
いや、”俺のエプロンをつけるるなさん”っつーのもまた男心がそそられ甲乙つけがた「しーばーさぁーん??」
また妄想世界へ旅立っていると、ジト目ののあさんと変な顔したじゃぱぱさんに現実世界へ引き戻される。
「なんだよ、俺はなんでもいいって」
「シヴァさん何考えてたの?顔デレデレしてんだけど…」
「最近ぼんやりしてるかと思えば、大抵こんな顔してますよ?ね?」
デレデレなんてしてねえよ、と言いたかったが表情筋が緩みっぱなしだったことに気づいた。
おかしいな、さっきちゃんと締め上げたのに。
わざとらしい咳払いをして、手元にあったお茶を一口飲んだ。
「そうだシヴァさん。この間るなさんがシヴァさんのお家にお泊まりしたんでしょう?」
「ぶっは!!」
「はぁぁ!?何それ!!俺聞いてねぇよ!?」
のあさんの爆弾発言にお茶を吹きこぼした。
急いでテーブルの上をキッチンペーパーで拭く。ちなみにじゃぱぱさんの断末魔は聞かなかったことにする。
なんつーことをよりによってじゃぱぱさんの前で言うんだよ。
という意味を込めて、のあさんっ、と名を叫んだ。
「ごめんねシヴァさん。でもそれは二人が付き合ってる上で自然なことだから全然いいの。---問題はじゃぱぱさんでね」
「ねぇ!?俺知らない!?お泊まりってなに!?」
「”シヴァさんとるなって最近どーなの…”しか言わないからさっさと現実見てもらおうと思って」
「のあさんソレ荒すぎるよやり方」
「俺を無視して会話進めないでよぉ!!」
シヴァさんなんなの!お泊まりって!腰のあたりに巻きついてきたじゃぱぱさんは見なかったことにする。
「最近デレデレしてるのはるなさんのこと思い出してるからなんだ♪」
「べ、べつにそーゆーわけでは…つかなんで泊まりに来たこと知ってんの?」
「ねぇっ!!質問聞いて!!」
「だし巻きたまご教えてくださいって言われたのー、シヴァさん食べたいって駄々こねたんだって?」
「何それどーゆう状況っ!?」
「駄々なんてこねてねぇよ。るなさんのたまご焼きあれはあれで美味かったし…」
「俺るなのたまご焼きなんて食べたことないぃぃ!!!ずりぃ!!」
ずっと俺の下半身にへばりついてギャースカ文句言ってるリーダーをとうとう視界から外した。
「ちょおっっとぉ!シヴァさんなんなのさっきから!なんで俺の質問答えねーんだよ!!」
「嫌だからに決まってんだろが!!」
ギャーッ!!
179センチと185センチが胸ぐら掴み合ってその場に立った。
のあさんがワァ…とか言いながらスカイツリー見上げるみたいに俺たちを見てる。
「じゃぱぱさん親離れできないみたいなの」
のあさんは頰に手を当てため息をついた。
るなさんも結成時は15歳くらいだったもんな…。じゃぱぱさんが一番見守っていた人だろうし、大事な妹をとられた感覚なんだろう。
「ほらぁ、じゃぱぱさん色々聞きたいことあったんでしょう?今聞いたらいいんじゃないですか?私いい加減ぐずぐず泣いてるじゃぱぱさんに付き合えない」
「泣いてたのかよ」
「…」
「んで、何が聞きたいワケ…?」
じゃぱぱさんの背後から、ずもも、と空気が吸い込まれていくような音が聞こえる。
何を聞きたいんだ、ナニを言われるんだ。
俺は思わず息を呑んだ。
「し、シヴァさんさぁ…あのぅ、最近どーなんすか…」
「敬語?」
視界の端で、ガクリとずっこけるのあさんが見えた。
「てなことがあって」
「じゃぱぱさん何が心配なんですかね?るなとシヴァさん喧嘩とかしませんよね?」
「しないね」
うんまぁ聞きたいことはそこじゃない。
しかしるなさんの疑問に否定する気もない。ただうんうん、と頷くのみ。
「眠くない?」
「大丈夫ですよー」
寝る前の電話が日課になってしばらく経つ。
最近はお互い布団の上でゴロゴロしながら喋っている。
「あー…そうだ、るなさんクリスマスプレゼントなんだけど…」
「プレゼント?」
「何か欲しいものある?」
「それをいうなら、シヴァさんお誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント。何がいいか考えてくれました?」
「ぐっ」
「”なんでもいい”はだめですよ?その答え、一番困っちゃうんですから」
そう、数日前から誕生日とクリスマスのプレゼント何がいいのか教えて欲しいと言われたんだが…
特にピンとこなくて。なんでもいいよって言ったら怒られてしまった。
「あ、じゃあ…なんかあったかい部屋着」
「あったかいやつ?ですか?」
「るなさんこの間うちに泊まった時、もこもこしてたの着てたじゃん?あったかそうだなって」
「…!わかりました!まかせてください!かわいーやつるなプレゼントしますね!」
「いや、かわいいじゃなくていーよ…?」
かわいーもこもこの185センチなんざエスキモーにしかならない。
また二人で寝ることがあるのなら、俺があったかいの着てたらるなさんもあったかくなるかなぁ…なんてことを考えての結果なのだけど。
「じゃあクリスマスはどうします?」
「るなさんの手料理」
「ぇぇ!?」
「食べたいなー…これはうちに来てくれた時とかでもいいからさ」
「それがクリスマスプレゼントなんですか…?」
明らかな不満の声。でも俺にとっては最高のプレゼントになるんだよ。
「うん。料理はなんでもいい。るなさんが作ってくれるならなんでも」
「うぅーん…シヴァさんの好きな食べ物…って麻婆豆腐でしたよね?」
「そーだね」
「麻婆なんて素かって混ぜるのしか作ったことないなぁ」
それでも全然いい、と話すと味気ないのでダメですと怒られる。
「っ、いたた…」
「??るなさんどした?」
そろそろ終わりにしようかと考えていると、
スマホ越しから痛そうな声が聞こえた。
「すみません、寒いからかな…最近頭ツキツキして痛いんです」
「えっ、ダメじゃんそんな。寝なくちゃ」
「もう少しお話ししたいデス」
「ダメだって。薬は?」
体調不良となると話は別だ。
とにかく薬飲んであったかくして寝て、クリスマスに会えなくなると伝えた。
「クリスマスに風邪引いたらイヤだろ?」
「うーん、でも…」
「るなさん寝ようよ、また元気な時にたくさん話せばいいから」
「…ハイ」
この場で無理をしても仕方ないのだから、まだ渋るるなさんをなんとか説得して今日の電話は終わった。
「寒いもんなぁ、大丈夫かな」
秋が一瞬で過ぎ去り冬の寒さになかなか慣れない。自分も身震いして布団の中へと潜った。
この前はここで一緒に寝ていたのに、遠い昔のことみたいだな。
クリスマスはシェアハウスで過ごすことになる、だからあんまり恋人らしいことはできないだろう。声と姿だけみて納得しないと。
「二人で過ごすとあんな感じなんだなぁ…」
楽しかった。
二人だけで過ごす空間は特別で、”幸せ”だけじゃ表せない。たった一日を過ごしただけなのに、あんな安心感は感じたことなかった。
「また来てくれっかな…」
目を瞑ると横にいた時のるなさんを思い出す。
細くて小さくて柔らかくて、俺が力を入れたら壊れてしまいそうだった。
枕ひとつ隔てはいたけれどて
あの温もりを一度知ってしまったから、常に求めてしまうのは仕方がないかなと思った。
「シヴァさん、オレら大事なことわすれてんぞ…」
「ぇえー?なんかあったぁ??」
たまたまシェアハウスに用がありいざ帰ろうとしたら、うりに袖を掴まれてキッチンへひきづりこまれた。
「なおきりさんとオレ、どっちが賭けに勝ったかはっきりしてねぇ!」
「しなくていーって。俺帰るうりくんおやすみー」
「シヴァさぁん!待って!!」
背を向けた瞬間パーカーを鷲掴みされた。力がすげーな。細いのに。
「した!してない!?どっち!?」
「黙秘します」
「なんでぇ!?」
当たり前だろ!中学生じゃあいるまいし!
いちいちしましたなんざ言いたかねぇわ!!はなせはなせとわいわいやってると
「何してんの?」
「なおきりさんきーてよ!!」
げ、揃っちゃったはげず。
なおきりさんがキッチンに顔を出した。
「シヴァさんがちゅーしたかどうか教えてくれない」
「うりりんまたそんな…繊細な大人の事情を」
とりあえず離れなよ、となおきりさんは俺からうりをペリペリと剥がしてくれた。
お、さすがなおきりさん。そうだよな、この人頭おかしいけどちゃんと大人だもんな。年長者だもんな。年の功よ。
ほっとしたのも束の間、なおきりさんは俺の顔をじっと見つめてきた。
整いすぎてる人に見られると、全てを見抜かれそうで嫌だ。
「な、なに…」
なおきりさんの口元がゆっくりと弧を描く。
堀の深い目の端がキュッと上がった。どこまでも完璧なイケメンにたじろいだ。
「るなさんとより仲良くなれたみたいで。幸せそうでなにより」
「な、どーゆー意味だよ!手は出してな「手はね?…他は?」
「…っ!」
全否定すればいいのに、馬鹿正直に言葉を詰まらせてしまった。
やべ、バレた。顔が赤くなってくのがわかる。
なおきりさんにかかえられたうりも意味がわかったのか、ポカンとしてた顔がみるみるゲスくなっていった。あらー?とかなんとか言いながらニヤニヤし出す。
最悪だ。
「なぁんだよーちゅーしてんじゃんなぁ!?」
「絶対みんなの前で変なこと言うなよ!!」
「聞かなくてもわかったけどね、シヴァさん雰囲気柔らかくなったもん」
聞かなくてもわかった?じゃー聞くなよ…。
未だ綺麗な笑顔を浮かべたなおきりさんを半ば恨めしげに見つめた。
うー、恥ずかしい…酒の力が欲しい…
居ても立っても居られなくて、俺からなんか飲まないと恥ずかしくて死ぬ、と提案した。
うりがうきうきして冷蔵庫から氷結三本取り出した。
「もうなんも言わないからな!?俺からは!」
「ちゅーでとめたんだ。えらいね。」
「そこは褒めて…」
「頑張ったなぁシヴァさん。るなど天然だから大変そうだよな」
「いやもう、うん」
部屋着はかわいいし一緒に寝るとか言うし。
無防備すぎて理性は死にかけたわけだけど。
「悶える姿想像できるわ。よし、なおきりさんどっちが勝ったか計算しようぜ。9ヶ月なんて半年と一年のちょうど真ん中」
「ゲスいなーうりりんは…えぇとこの間の11月3日だとして」
「日数計算!?!?そこまで!?」
一日単位で細かく計算し出した二人に、盛大に呆れた。
コメント
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おもしろかったですーー!!✨️ ちゅーしたことを知られちゃったの大変ですねぇ…笑 🐸さんはずっとかわいいかわいい言ってるイメージですね!✨️ 🐸❄とみんながメインほんとにありがたいです😭💕
クリスマス編は🐸❄️とみんなが中心のお話です☺️ 新しい話を書くにあたって、今までのを読み返してたんですが🐸さんかわいいしか言ってなかった。