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泡沫深祈
海の底は、永遠に夜であった。
光は届かず、声は泡に溶け、願いは沈んで消えてゆく。 けれど、その暗き淵には七柱の神が眠ると、古くから語り継がれている。
彼らは祈りを喰らい、涙を贄とし、時に祝福を与え、時に容赦なき裁きを下す。
人はそれを恐れ、また縋る。
そして選ばれた巫女だけが、神々の深淵へと祈りを届ける役を担った。
――花波。
その名を持つ少女は、生まれながらにして“泡沫の祈祷巫女”と呼ばれた。
儚き声で祈れば、泡となって海へ沈み、七神へ届く。
だが、祈りには代償がある。
ひとつ願えば、ひとつ失う。
それが血であろうと、記憶であろうと、愛であろうと。
「それでも、わたしは……祈らずにはいられないの。」
欲望を抱えた人の心は、あまりにも脆く、醜く、そして美しい。
花波はそのすべてを胸に抱き、深海の神々へと祈りを捧げ続ける。
――やがて訪れる裁きの時を知らぬまま。