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プロローグ 水平線の向こう側
omr side
潮風が吹くたび、胸の奥がざわつく。
視界の向こうには、ただ果てしない海が広がっているだけなのに、そこから何かを探そうとしてしまう自分がいる。
貴方がいなくなってから、世界の音が変わった気がした。
風の音も、波の音も、誰かの声も、全部遠く聞こえる。
そしてその中心には、ぽっかりと空いた穴のようなものがずっと残っている。
どうしてこんなにも苦しいんだろう。
海を見ていると、思い出ばかりが胸を満たして、息が詰まりそうになる。
貴方が笑ってくれたこと、隣にいてくれたこと、ただそれだけで僕は息をしていられたんだと、今になって思い知らされる。
それなのに、もうどこを探しても貴方はいない。
名前を呼んでも、潮風が耳元をかすめていくだけで、何も返ってこない。
振り返っても、そこにはもう誰もいない。
高校生のときに出会ってから、僕の世界はずっと貴方と一緒だった。
デビューのときも、嬉しいことも苦しいことも、全部を隣で分かち合ってきた。
それが当たり前で、ずっと続くんだと思ってた。
でも、その当たり前がこんなにも簡単に壊れてしまうなんて_僕は何も知らなかったんだ。
貴方がいない世界で、僕はどうすればいいんだろう。
ただ息をするだけで精一杯で、前を向くことなんてとてもできない。
音楽も、言葉も、すべてが灰色に見える。
海の向こうに何があるのかなんて、考えたこともなかった。
でも今は、あの水平線の先に貴方がいるんじゃないかって、そんなことばかりを考えてしまう。
もし声が届くなら、ただ「会いたい」と伝えたい。
それだけしか浮かばない。
波打ち際に立っていると、自分の存在さえも薄れていくような気がする。
貴方がいないなら、僕がここにいる意味なんてあるんだろうか。
何のために歌ってきたんだろう。
何を信じてきたんだろう。
答えはどこにもなくて、潮の香りだけが僕を包む。
「涼ちゃん…」
小さく呟いた声は、すぐに波の音にかき消されてしまった。
それでも呼ばずにはいられなかった。
もう笑えないかもしれない。
もう歌えないかもしれない。
でも、それでも_涼ちゃんが愛してくれた僕を、どこかで探している自分がいる。
海を見つめながら、ただひたすらに、悲しみの中で立ち尽くしていた。
新連載スタートです
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