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どうして舞台が隣国に!?

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どうして舞台が隣国に!?

66 - 第66話 黄色い令嬢の動揺(パトリシア視点)

2023年07月11日

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「ルカ!」


パトリシアはルカに駆け寄り、剣を向けてくるエリスを見据えた。


ルカとのやり取りを見聞きしても、気の強そうな子だと思った。私よりも身長は低く、幼い顔立ちをしている。


けれど、ルカと対等に戦えている姿に、少し嫉妬のようなものを覚えた。いや、さっきマーカスから聞いたやり取りの後だったから、尚更なのかもしれない。


『帰って来ない』『世話してやった』


その言葉だけで分かる。あの子と私は、同じだ。同じように気に入って、同じように接して、同じように……好きになったのだと。


だけど、ルカは私を選んでくれた。傍にいてくれる。まだあの子のように、『迷惑』に思っていないのなら、取られたくなかった。私には、ルカしかいないから。


「パトリシア!」


一度振り返ると、パトリシアをエリスから守るような態勢を取った。護衛騎士なのだから、当然の対応だったが、普段とは違う呼び方に、パトリシアは自然と手が、ルカの方へと伸びた。


それをエリスが察したのか、突然ルカに、いやその背後にいるパトリシアに向けて、剣を向けた。明らかな敵意に怯んだ途端、ルカがパトリシアの傍を離れた。


「っ!」


伸ばした手が、さらにルカを追おうとした。その瞬間、ルカが足を上げて、エリスを蹴った。


「ぐっ……」


一つも躊躇いがないルカの行動に、パトリシアは体を強張らせた。ルカが護衛騎士となってから、このような場面を見たのが初めてだったからかもしれない。


「危ないから、下がっていてくれ」


口ではそう言いながらも、宙に浮いたパトリシアの手を、ルカは優しく握った。そこでようやく、手が震えていたのだと気がついた。


「ううん。ここにいさせて」


体も、まだ震えているような気がする。でも、ここから離れたくはなかった。相手も逃げずにいるのだから。


「そんな女のどこがいいんだ。自分の身も守れない、叩けばすぐに泣いちまいそうな女なんか」


確かに弱いし、泣いてしまうかもしれない。


「あたしなら、あんたをもっといい立場の人間にしてやれる」

「それが迷惑なんだよ。お前のせいで、俺がどんな目に合っていたか……」


そこでなんとなく察した。彼女の『いい立場』というもののせいで、あの日ルカは、あの場所で倒れていたのだと。


「貴方のところにいた時のルカは、怪我を負っていたわ。けれど、今は――……」

「怪我することも、いじめられることもない」


侯爵家でのルカの立場は、護衛兼執事でもあったが、周りの認識は、私の玩具兼監視だった。そんな者をいじめることなど、するはずもなかった。出しゃばった行為をしなければ、両親はルカを解雇することもない。


衣食住と安全、さらにお金までもらえる場所を、そうやすやすと手放すだろうか。けれど、強く言えたのは、ここまでだった。


パトリシアは、今度こそルカの腕に触れ、顔を見た。さきほどの言葉のように、ルカも合わせてくれた。


「そんなのあたしのせいじゃないし。あんたを親父の跡継ぎに決めれば、もう誰もそんな真似しなくなるんだから」


ふらふらしながら、エリスは剣を構え直して、突進してきた。ルカと見つめ合うパトリシアにではなく、ルカ本人に向かって。


あたしは何も悪くないのに、何でダメなんだ、と言わんばかりに。


「継いだって、誰も俺にはついて来ない。それにあの場所は、元々合わなかったんだよ、俺には」


それでもルカは、容赦なくエリスを切り捨てた。言葉通り、腹から胸にかけて、エリスを剣で切ったのだ。パトリシアの目には入らないよう、背で隠すことも忘れなかった。


だからパトリシアには、ただドサッという音のみが、聞こえただけだった。それでも何が起こったのかは、理解できた。彼女の声が聞こえなかったから。


「パトリシア……お嬢様」

「あっ。……大丈夫。私は大丈夫だから……」


胸に手を当てて、青ざめた顔をしているパトリシアの言葉は、何一つ説得力がなかった。だから、ルカはパトリシアを抱えて、荷馬車まで運んで行った。



***



荷馬車は、何事もなかったかのように、再び走り始めた。パトリシアの状態を心配されたが、盗賊団を捕まえた場所で、野営するわけにはいかなかったのだ。


だから、宿泊地として予定されていた、小さな村まで行くことにした。そこならば、安全に過ごせるし、何より、パトリシアの心にも良いと判断されたからだ。


ルカとも、ちゃんと話したい。


御者の席に座るルカの後ろ姿を、パトリシアはじっと見つめた。そうしている内に、カザルド山脈近くの小さな村に着いた。


「ゆっくり休んでちょうだい。特にパトリシア嬢は、私たちのことなど、気にする必要はないからね」

「ありがとうございます。ポーラさん」


ジャネットの言葉に甘えることにしたパトリシアは、早々に宿屋で宛がわれた部屋へと向かった。


「お嬢様……」


階段の途中で、ルカに呼びかけられた。いつもなら、声など掛けず、当然のように後をついてくるのに、今は躊躇っているように感じた。さきほどのことを、気にしているのだ。


「少し、私のお喋りに付き合ってくれない?」

「……はい」


口調が戻ったルカと共に、部屋に入った。


「さきほどは、見苦しい場面を……」

「ううん。ルカの過去については、聞かないでいたから。ある意味、後回しにしてきたことが、今になってきたのかなって思ったわ」

「申し訳ありません」


部屋に入ってから、頭を下げたままのルカに近づいた。両頬に触れて、顔を上げさせる。眉を八の字にさせたルカの顔と、同じ表情をしたパトリシアが見つめ合った。


「今日はもう、謝罪の言葉は聞きたくないわ」

「しかし、本来ならあのような場面を、お嬢様の目に入れてはいけなかったものですから」

「私の意思で、あの場に立ち会ったのよ。ルカのせいじゃないわ。相手の子だって、そう。ルカを取り戻しに来たのよね」


はい、という返事と共に、ルカは態勢を直した。パトリシアの両手も、自然とルカの胸に移動する。


「後悔はない?」

「どうして、そう思われるんですか?後悔していたら、戦っていませんし、ここにもいません」

「だって、侯爵家はあなたにとって、働きやすい環境ではあるけれど……」


その先の言葉が上手く言い出せなくて、両手に顔を近づけた。身を寄せ合うような格好になったが、ルカから体を引き離されることはなかった。逆に、パトリシアの背中に暖かいものが触れた。


「それだけで、ここにいるわけではないことは、ご存じでしょう」

「っ!」

「お嬢様よりも、世間の荒波にいたんですよ。それくらい分からないとでも思いましたか?」


目を瞑り、顔を見せたくなくて、ルカの胸に押し付けた。すると、背中にあったルカの手が、パトリシアの髪を撫でた。


「お嬢様を好きになった俺は、護衛失格ですか?」

「……さっきみたいに呼んでくれれば、合格よ」


それは暗に、私もルカが好きだと言っているのと同じだった。伝わったのか心配になって、パトリシアは顔を上げた。


「パトリシア」


待っていたかのようにルカは呼び、パトリシアの頬に触れた。顔が近づき、パトリシアは目を閉じて、それを受け入れた。


ようやく、私だけのルカになったように感じて、ルカの首に腕を回した。


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