「ついに目的地へと着きました」
ミランが少し疲れた声で告げる。
この国は生活こそそこにあるが、街に活気がなくおやつは少ない。
少なからずはあるが、少量の甘味が入ったクッキーでさえバカみたいな金額で売っていた。
作った人には悪いが、大して美味くもないのに。
ミランが疲れているのはそれもあるが、変わり映えしない街にも兵士にも飽きていたからだ。
斯くいう俺も大分前から飽きている。
「そうだな…結局最高評議会がある街へ来てしまったな……」
他の街で証拠や黒幕に会える予定だったのに…
まさかここから動いていないとは……
「自分は賢いと思っている人って動かないよね。雑用をしないというか。
何だか、バブルが弾けて潰れた会社の社長みたいなイメージだよ」
「そうだな…本当に賢い人は本人が一番動くもんな。悪く言えば人に任せれないっていうか、聖奈だな」
聖奈は自分で出来る仕事だと、俺には決して頼まない。
もちろん側にいれば頼る時もあるんだけど、ごく稀だな。
「私は賢くないよ?賢い人ならセイくんを傀儡にしてるもん」
「……じゃあ、聖奈だな」
「なんでよっ!?」
冗談はこれくらいにしておこう。
これ以上黒幕のいないところで文句を言っても仕方ないしな。
「ここには忍び込むでいいんだよな?」
そう。
本丸には一切証拠を残さない。
俺達はプロのエージェントだからなっ!!
夜になり、ライルと共に街を守る壁を越えて、侵入することに成功した。
人気のない路地へと入り、ライルに見張りを任せると、俺は他の仲間を転移で迎えに行く。
はい。連れてきました。
「ここも廃れていますね…夜といえど、巡回の兵以外街を歩いていないのは……牢獄でしょうか?」
「似たようなモノだな。様子を確認したし、予定通り明日の明け方にもう一度来ようか」
みんなが頷いたため、転移魔法を発動した。
そして明け方。
まだ薄暗い連邦首都に俺達の姿はあった。
朝は早いがすでに活動している街の人が多かったので、情報を集めるために別れることに。
女性陣はトラブルになる為、顔に布のようなものを巻いてもらった。
ここはかなり赤道に近そうだ。
その為かなり日差しがきつい。
街の人達も男女関係なく日焼け防止用の布を顔に巻いていて、肌の露出は少ない。
「俺たちもか?」
「うん。顔を見られなくて済むし一石二鳥でしょ?」
そういうことなら仕方ない……
俺は身体強化を使っているから、暑さも日差しの強さもあまり感じないんだがな。
「わかったよ!家も所在も確かだから、夜まで城に戻ろう?」
昼過ぎには聖奈達が合流してきて、俺達の下準備は終わった。
後は怒りをぶつけるだけだ。
転移して戻った俺達は兵士の声を聞く為に、演習場へと顔を出していた。
「そうか。すでにこの国に住みたいと言っていたか」
「はっ!奴等も陛下の威光の前ではなす術もなく。流石陛下です!」
半分…いや8割はおべっかの報告を聞いた。
恥ずかしいからホントにやめて……
見てみろよ?
聖奈とライルがこれ見よがしに笑いを堪えているだろ!?
ミラン…そんな憐れむように見るのはやめて……
一番堪えるから……
辺りは夜の帳が下りかけていた。
「準備はいいか?」
ここからはあまり喋れない。
最後の確認のつもりで、みんなへと声を掛けた。
「いこう。天罰の時間だ」
「月に変わってお仕置きよ!」
「聖奈。確かにそうかもしれないが…やめよ?」
俺は色んな所に気がつかえる男なんだ!
月の神の使徒だから、あながち間違いじゃないところがタチが悪い。
『テレポート』
その言葉を残し、俺達は城から消えた。
俺の視線の先には豪邸がある。
この国では珍しくガラス窓が使ってある立派な屋敷だ。
水都にある俺達の屋敷の何倍もありそうな屋敷には、私兵と思わしき兵が屋敷を守るように巡回しているのが見える。
俺は無言で指を指して合図を送った。
俺の合図に頷いたライルが消えるように音もなく加速した。
俺も身体強化を少し強めに掛けて、ライルが向かったのとは反対の兵に向かう。
兵は街中のためか、単純に重たくてか、うるさくてかはわからないが、金属鎧ではなく革の鎧を装備している。
音を立てたくない俺達の為に着ている装備みたいだな。
俺は自分の日頃の行いのお陰だとほくそ笑みながら、接近した兵の後頭部を拳で殴打した。
「ぐっ」
倒れる兵士を抱えて音を最小限に留める。
ふとライルの方を見ると……
首を後ろから締めて兵を落としていた。
音を出さないのはあの方法がベストだな……
見張りを排除した俺は、聖奈達をハンドサインで呼び、先を急いだ。
屋敷に音もなく忍び込んだ後は、一階をこれまた音もなく制圧した。
「 やっぱりセイくんはチートだよ。ズルい」
「待て待て。ライルも同じだけ倒したぞ?」
「俺のはちげーよ。セイが相手の居場所を教えてくれたから、バレずに行動出来たんだ」
「…流石セイさんです」
ミラン。褒めづらいなら言わなくていいよ?
コイツらも素直には褒めないよな…誰だよこんなにコイツらを歪めたのは!
ぼっちだったせいか……
「兎に角、後は二階だけだな。地下室とかあれば別だが、当主が理由もなくそんな所にいかないよな」
「そうだね。フィナーレだよ」
聖奈の言葉に俺達は頷き合い、二階を目指した。
二階でも同じように音もなく殲滅していった。
二階にいた使用人の男を気絶させる前に、当主の居場所を聞いていたから、その部屋以外の人達を無力化した。
「全員口を塞いで縛ったな?」
「うん。結束バンドで親指を縛ったから抜けれないよ」
結束バンドを態々持ってきたのは時間短縮の為だ。
これなら聖奈達女性陣でも間違いもなく、簡単に縛ることが出来るからな。
「じゃあ行くかっ!」
残すは一部屋のみ。
俺を先頭に一際重厚な造りの扉へと向かう。
「たのもぉーーっ!」
ドガーンッ
パラパラパラッ
俺が掛け声と共に蹴破った扉は、木っ端微塵に吹き飛んでいった。
「だ、誰だっ!?」
悪人って同じセリフばかりだね。
まぁバリエーションは求めてないけど。
「お前が喧嘩を売った相手だ」
「け、喧嘩…?…し、侵入者だっ!!誰か!!」
部屋にあった反応は三つ。
すでにライルが二つの反応を制圧している。
「起きているのはお前だけだ」
「なっ…何者なんだ!?…か、金か!?わかった!女でも金でもいくらでも用意しよう!!ひぃっ!?」
馬鹿な奴だな…聖奈とミランの前で他の女を俺にあてがうなんて言うから……
そういうのはこっそり言ってくれっ!!
聖奈とミランの不穏な気配を感じた黒幕は、えもしれぬ不安が襲ったようで、黙ってしまった。
「まだわからんのか?」
男は首を横に振る。
「バーランドの王と言えばわかるな?」
「っ!!…そ、そうか。ふははっ!!成功したようだな!!」
凄い……ここまで小者感があるセリフは中々言えないぞ?
俺が感心していると、男は言葉を続けた。
「お前の仲間は私の手の中にある!!私に指い『ボキッ』ひぎゃあ!?」
「うるさいな。指って言ったから指を折ってやったんだ。…だが、泣いて感謝までしなくてもいいぞ?」
鼻水飛ばすなよ…きたねーな。
「がぁぁ…き、ぎざまぁ…仲間が死んでもいいのかっ!?今なら許してやらんことも『私です』な…い…えっ?」
「貴方が誘拐したのは、私ですっ!」
エリー…そんな偉そうにいうことじゃないぞ?
ない胸を張るな!
聖奈は写真を撮るな!!気が抜けるだろうがっ!
「ば、ばかな…完璧な作戦だったはずだ…」
「仲間が暴いたからその話にも興味ねーな。とりあえずお前は終わりだ」
「ま、待ってく」ザシュッ
ゴトッゴロゴロ……
驚愕の表情を貼り付けたまま、名も知らない男はその生涯を終えた。
「そんなにアッサリと…良かったの?」
「構わない。拷問は趣味じゃないしな」
嘘だ。
本当はありとあらゆる苦痛を与えて、必ず『殺してください』と言わせてやるつもりだった。
だが、そんなことをすれば、また魔力に心が支配されそうだし、大切なモノは取り返せたからな。
「じゃあ、盛大に行こうか!」
聖奈のその言葉を聞いて、みんなを連れて転移した。
ドガーーーンッ
連邦首都の夜空に、屋敷の破片が散らばる。
黒幕の屋敷が一階を残して吹き飛んだのだ。
「ホントに見逃してよかったの?」
「条件の一つだったんだろ?なら仕方ない。約束は守らなきゃな」
「セイさん…」
俺が爆発を眺めながら聖奈と話していると、エリーが元気なく俺の名を呼んだ。
その声に振り向いて、俺は応える。
「怖い思いをさせたな。済まなかった。さあ、俺達の家に帰ろう」
「はいです…」
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