テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
気付けば。
二人とも、そのまま少し眠っていたらしい。
窓の外は薄暗く、部屋には夕方の気配が落ちている。
日本が先に目を覚ました。
「……ん」
ぼんやりした頭で身動ぎすると、すぐ隣から低い声が落ちる。
「起きたか」
「兄さんも起きてたんですか」
「今だ」
日帝は壁へ背を預けたまま、日本を見下ろしていた。
寝癖が少し跳ねている。
珍しい。
日本はそれを見て、思わず吹き出した。
「……何だ」
「いえ、兄さんでも寝癖つくんだなって」
「放っておけ」
「写真撮りたい」
「やめろ」
即答だった。
日本はくすくす笑いながら布団へ潜り直す。
熱はかなり下がっていた。
身体も、朝より軽い。
「腹は減ってるか」
「少し」
「そうか」
日帝は立ち上がる。
だが、その瞬間。
ぐらり、と身体が揺れた。
「兄さん?」
「……問題ない」
「問題ある人の揺れ方でしたよ今」
「気のせいだ」
「座ってください」
「平気だ」
「禁止ワード」
「…………」
日帝は露骨に顔をしかめた。
日本は半ば呆れながら兄の腕を引く。
「ほら」
「子供扱いするな」
「兄さんが倒れたら困ります」
「倒れん」
「私もそう言いました」
「……」
完全に言い返せなくなり、日帝は黙り込む。
日本はその様子を見て、少し笑った。
「兄さん、昔からそうですよね」
「何がだ」
「自分のことになると雑」
日帝は答えない。
代わりに、小さく息を吐いて日本の額へ手を当てる。
「熱は下がったな」
「話逸らしました?」
「逸らしていない」
「絶対逸らしました」
日本が言うと、日帝はわずかに眉を寄せた。
それから。
「……お前が無茶をするからだ」
ぽつりと、そんな声が落ちる。
「え?」
「昔から、お前は限界まで我慢する」
低く静かな声。
「熱があっても笑う。倒れるまで言わん。だから目を離すと面倒になる」
日本は少し目を瞬いた。
兄がこうして、長く話すのは珍しい。
「……心配、してたんですか」
「当たり前だ」
即答だった。
あまりにも自然な返事に、日本は逆に固まる。
日帝は数秒後、自分の言葉へ気付いたらしい。
わずかに視線を逸らす。
「……いや」
「兄さん?」
「その顔をするな」
「どの顔です?」
「にやつくな」
日本は堪えきれず吹き出した。
「だって兄さん、今すごい素直でした」
「忘れろ」
「無理です」
「今すぐ忘れろ」
「録音したかったなぁ」
「日本」
低い声で名前を呼ばれ、日本は笑いながら布団へ逃げ込む。
日帝はそんな弟を見下ろし、深くため息を吐いた。
だが。
その手は自然に、日本の頭を軽く撫でていた。
撫でられた瞬間。
日本はぴたりと動きを止めた。
「……兄さん」
「何だ」
「今、無意識でした?」
日帝の手が止まる。
数秒の沈黙。
「……知らん」
「絶対無意識だ」
「うるさい」
日帝は手を引こうとした。
だが、日本はその袖を軽く掴む。
「もうちょっと」
「子供か、お前は」
「病人です」
「治りかけだ」
「でも病人です」
妙に真面目な顔で言われ、日帝は眉間を押さえた。
「……面倒な時だけ甘えるな」
「兄さんが甘やかすからですよ」
「甘やかしていない」
「じゃあ何です?」
「……放置すると悪化する」
「それ、昔から言ってますよね」
日本は布団へ頬を埋めながら笑う。
兄の愛情表現は、昔からずっと変わらない。
心配だとも、大事だとも、滅多に言わない。
ただ。
熱があれば看病して、無茶をすれば叱って、放っておかない。
それだけ。
でも日本には、それで充分分かってしまう。
「兄さん」
「何だ」
「私、昔ちょっと嬉しかったんですよ」
「何がだ」
「風邪ひいた時、兄さんがずっと隣にいてくれるの」
日帝は黙った。
「起きたら毎回いたじゃないですか」
「……放っておくと勝手に動くからな」
「それもあるでしょうけど」
日本は少しだけ笑みを深くする。
「兄さん、不安そうだった」
「…………」
「熱測る時、毎回眉間寄ってましたし」
「見ていたのか」
「見てました」
日帝は視線を逸らし、深く息を吐く。
「……お前は昔から妙な所ばかり見ている」
「兄さんの弟なので」
「便利な言葉だな、それは」
「便利ですよ」
日本はくすくす笑う。
その様子を見て、日帝は少しだけ肩の力を抜いた。
部屋には静かな夕暮れが落ちている。
遠くで、やかんの沸く音がした。
「……腹が減ったな」
ぼそりと日帝が呟く。
日本は目を瞬く。
「兄さんから言うの珍しいですね」
「お前に付き合っていたら、私まで食事の時間が狂った」
「それ絶対、私のせいだけじゃないですよね」
「……さてな」
日本は少し考えてから、兄の袖を引いた。
「兄さん」
「何だ」
「今日は一緒に食べません?」
「毎回食べているだろう」
「ちゃんと座って、です」
日帝は一瞬だけ目を細める。
それから、小さく息を吐いた。
「……分かった」
短い返事。
でも日本は、それだけで少し嬉しくなる。
兄は昔からそうだった。
大事なことほど、短く答えるのだ。
#カンヒュBL
おにぎり🍙
3,688
4,250