テラーノベル
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翌朝
透は酷い隈を作って起きてきた。
一晩中、金策を練っていたのか、それとも「リカ」への言い訳を考えていたのか。
「……おい、美咲。親父さんには連絡したんだろうな」
「ええ、昨日の夜に。でも、父は『自分で選んだ夫なら、二人でなんとかしなさい』って。当然よね。透さんはいつも、私の実家の助けなんていらないって豪語してたんだから」
「あのクソジジイ……!俺らが家を追い出されるっていうのに、薄情な奴だ!」
自分の不甲斐なさを棚に上げ、父を罵倒する。
その言葉、すべてお父さんに筒抜けなのよ、透さん。
私は黙って、透が脱ぎ捨てたスラックスを手に取った。
「クリーニングに出しておくわね」と告げると
彼は「ああ、勝手にしろ」と力なく手を振って、リビングを後にした。
彼がシャワー室に入ったのを確認し、私はスラックスのポケットを探る。
出てきたのは、都内の最高級ホテルのバーの領収書と……小さな鍵。
「これね……」
確信していた「もう一つの秘密」。
透は、自分のステータスを守るために、別の場所に『秘密の倉庫』を借りている。
中身は、私には見せられないような贅沢品の数々か
あるいは、私に見せていた以上の「借金の証拠」か。
私はすぐにその鍵を自分のスマホで撮影し、印影を型に取るように記録した。
そして、昨日から仕掛けていた「罠」の成果を確認する。
透が寝静まった深夜、彼のスマホの通知設定をこっそり変更し
画面に表示されるメッセージが私の端末にも転送されるように設定しておいたのだ。
タイミングよく、私のスマホが震える。
『透、今日の夜は空いてる?この前のバッグのお礼、まだしてなかったよね♡19時にいつもの場所で待ってるね!』
送り主は、リカ。
「いつもの場所」───
それは、透が「自分の持ち家」だと嘘をついて、リカを連れ込もうとしているこのマンションのことだろう。
私は冷ややかな微笑を浮かべ、返信を偽装して透のスマホからリカに送った。
『今日は最高のおもてなしをするよ。美咲は実家に帰らせてあるから、ゆっくりしよう。』
透がシャワーから出てくると、私は殊勝な顔をして彼に言った。
「透さん。今日、父の具合が悪いみたいで、一晩実家に帰ってもいいかしら?」
「あ? ……ああ、そうか。勝手にしろ。明日の朝飯までには戻ってこいよ」
透の目が、あからさまに輝いた。
邪魔な妻がいなくなり、浮気相手と自分の「城」で豪遊できる。
そう確信している顔だ。
「ええ、ゆっくり休んでね」
私はバッグを手に取り、玄関を出た。
でも、向かう先は実家ではない。
マンションの管理室。
そこには、オーナー代理として父から派遣された、私の従兄が待っている。
「美咲、準備はできてるよ。隠しカメラの設置と、警察への事前通報……それから、例の『差押え』の準備もね」
「ありがとう、お兄ちゃん…」
私は、手に持っていたマンションの『スペアキー』をぎゅっと握りしめた。
この鍵が、今夜、夫を地獄へ叩き落とすトリガーになる。
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設楽理沙
#仕事