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あの地獄のような日の翌日。
中也はまるで何も無かったかのように出勤した。
出勤してすぐに、中也の部屋に一人の女が訪ねてきた。
訪ねてきた、と言うよりかは乗り込んできた、の方が正しいのかもしれない。
遊女の様な雰囲気を纏った其の女は、顔を真っ青にしながら震える声で中也にこう尋ねた。
「体を売った、と言うのは嘘じゃろう?」
一瞬の沈黙の後、淡々とした声で「本当ですよ」と中也が答えた。
其の声には嘘も、恐怖も、羞恥心も、悲しみも、何も籠っていない。
いつもと変わらぬ笑顔、何時もと同じ声音で答える中也に、女は声を荒らげて怒った。
何故そんな事をしたのだ、と。
然し、中也は何もありませんと言うだけで、それ以上答える気はないようだ。
女が何か言おうとして口を開いたが、中也がそれを遮った。
「ところで姐さん。何故この話を知っているんですか?」
姐さんと呼ばれた女は決まりが悪そうに中也から顔を背ける。
「この話は首領以外の人は知らない筈なのですが…」
そう続ける中也に、女は申し訳なさそうに白状した。
どうやら中也と首領が話しているのが聞こえてしまったらしい。
悪気はなかったようで、女は素直に謝罪をした。
中也は許す代わりに、この話は他の誰にもしない事、これ以上何も聞かない事、この二つを約束した。
女は渋々頷き、去り際に「もし、何かあったら直ぐに言うのじゃぞ」とだけ言い残して行った。
約束通り、其の話は誰にも伝えられず、二度とされる事はなかった。
勿論、太宰治にも伝わることは無かった。
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それから中也は、太宰治と会う度に色仕事をするようになった。
そして帰宅後に溺れる様に酒を飲み、眠りにつく。
其れが一種の習慣のようにもなっていた。
でも俺は、それを内側から見ることしか出来ない。
慰めてやる事も一緒に泣いてやることも、何も出来ない。
嗚呼、憎い。
太宰治が憎くて堪らない。
彼奴のせいで中也はこんなに苦しんでいるのに、泣いているのに。
彼奴は何時もヘラヘラ笑いやがって。
意味がわからない。
憎い。
何も出来ない自分も、中也を苦しめる太宰治も、全部嫌い。
大嫌い。
でも、壊すことは出来ない。
俺は中也の異能で、
太宰治は中也の愛する人で。
嗚呼、壊すことは出来なくても中也を抱きしめることが出来れば、どんなに嬉しいことか。
なんてな。
だって俺は異能だ。
出来るわけが無い。
そんな事は分かってンだ。
でも、夢くらいみたっていいだろ?
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あれから月日は経って、中也は泣かなくなった。
太宰治と喧嘩しても、約束を忘れられても、他の男に抱かれても…。
眩しいくらいに輝いていた瞳も、どんよりと濁ってしまった。
まだ泣けていたあの頃の方がマシだったのかもな。
それでも他の奴らが介入してこないのは、中也が助けを求めないから。
中也はいつも同じ笑顔と声音で笑うだけ。
助けを求めることなんて一切しない。
肝心の本人が助けを求めないのであれば、助けようにも無理がある。
だから、誰にも助けられない。
そうやって、何度も何度も同じことを繰り返していると、いつの間にかまた月日は経って、遂に其の日が来た。
太宰治が離反した。
中也はその知らせを聞いても、特に驚かなかった。
泣きもせず、怒りもせず、悲しみもせず。
只、「糞野郎が居なくなって清々する」と。
そう言ってカラカラと何時もと同じ様に笑うだけだった。
中也はその日の晩に、ペトリュスという高い酒を開けた。
俺は酒とかよくわかんねェんだけどな。
でも、虚ろな目をして酒を飲む中也を見て、何となく寂しいと思った。
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1度終了です!!
急いで書いたので誤字とかおかしいとこ多いかも…
見直しは一応してるんですけど、もし多かったらすみません。
太宰さん酷めになってしまってて申し訳ない…
一応太宰さん全部無自覚でやってます。
太宰さん視点でかるーく経緯を説明するお話もどこかで挟みます。
荒覇吐視点メインですが、ちょこちょこ他の視点も入る…かも…?
一応中也愛されなのでこれからちょっとづつカプ要素増えていきます。
(※最初に注意書きします)
次回も楽しみに待っていただけると嬉しいです。
ご視聴ありがとうございました!
さよなら〜