太宰じゃないけど新しくストーリー作るのがめんどくさいので此処であつぴのリス書くね。
白銀の雪が舞い落ちる12月。横浜の街はイルミネーションで綺羅びやかに装飾されていた。テレビでは寒波がやってくると、、、窓の外を覗くと、空にはどんよりと重い雲が広がり今にも雪が降り出しそうだ。
「敦。報告書の進み具合はどうだ。」
国木田さんが僕の手が止まっているのを見かねて声を掛けてくれた。僕は目線を下にさげる。
パソコンの画面は空白に近い。左上に「連続幼女誘拐事件」右下に「報告書製作者・中島敦」真ん中あたりに資料の画像が貼られているだけ。
肝の文は全くと云っていい程無い。というか、幼女を一番誘拐してそうで、捕まったら大手柄な人物は一人しか思いつかない。
冗談のつもりで「森鴎外」と打ち込んだ。
「おや。面白いことを考えるね、敦くん」
「だっ太宰さん、、、」
体をずぶ濡れにした長身の彼が僕に話しかける。おそらく近所の川で入水未遂。することがなく、国木田さんをからかうために帰社したのだろうか。
「個人的にはこういう下らない事で捕まってほしい気持ちもあるけど、森さんは非合理的なことはしないからね。誘拐するとしても海外からじゃない?」
ある意味真面目な考察だ。何の役にも立たない。
「太宰。敦に話しかけるな。今奴が手を付けている書類は締め切りが近い。静かにやらせてやれ」
すると太宰さんはひらひらと社の何処かに消えて行った。
変わり者、あぶれ者の集まり。僕は此処が心地よい。此処が大好きだ。だからできるだけ皆に迷惑は掛けないようにしないと。
「ん〜、はぁ」
手を上に上げて思いっきり背伸びをする。報告書の出来具合は9割と云ったところか。
残業回避だ。数時間飲まず食わずで作業していたからか口が乾いてしょうがない。潤いを求めて僕は給湯室に向かう。
頭の上にある棚からコップを出すために手を伸ばした。
すると袖が下がって、痛々しい傷がちらりと顔を出した。
僕は咄嗟に空いている右手で袖を引き上げコップを取り出す。周囲に人が居ないかを確認しホッとしたあと、蛇口をひねった。
「敦。丸見えだぞ」
後ろから軽やかな声が聞こえた。その言葉に反応し口に含んでいた水を思わず全部吹き出してしまった。
「けほっけほ、何がですか?乱歩さん」
「僕は駄菓子を取りに来ただけだ。ついでに後輩の精神状態のチェック」
「はあ、、、?」
僕は頭の上にはてなを浮かべた。乱歩さんならわからなくもないが別にわざわざ云わなくたっていいじゃないか。すこし、否、可なりモヤッとした。
「全く、どいつもこいつも。隠し事をするなら徹底してよね。まぁッ僕には通用しないけど〜」
「恨むなら太宰と社長をうらんでねぇ〜」
乱歩さんは両腕に駄菓子を抱え嵐のように去っていった。社のメンバーにそんな事を云われては社での居心地がその日は悪かった。だから書きかけの報告書をさっさと書き上げ僕は鏡花ちゃんを置いて定時で寮に戻ることにした。
寮への帰り道、鏡花ちゃんの大好きな豆腐の在庫(冷蔵庫の三分の1は豆腐なんです)が切れていたことを思い出し、スーパーに足を運んだ。
灰色のかごに絹豆腐を10個ほど入れ、他にもほうれん草、豚肉、たくあん、最後に甘いスイーツ。
豆腐のおかげで随分重くなったカゴをレジに持っていきお会計。店員さんがせっせとバーコードを読み取っているのをぼーっとしながら眺めていると、なぜかレジ横に置かれていた剃刀とカッタァナイフが眼に入る。
何を思ったのか僕は2つをそっとカゴに入れた。
「ただいま」
返事が来ないとわかっていても云ってしまうのは日本人の癖だろうか。電気を付けて、荷物を置き、手を洗う。ついでにカッタァと剃刀を腕に当てる。
右手に剃刀の刃を握り手前に素早く引く。僕は久しぶりの痛みに顔をしかめた。
細い傷口に血がたまり表面張力が失われた瞬間、生暖かい血が腕をなぞる。その時僕はえも云えぬ多幸感に溺れた。
数年前に止めた行為。流石に痛覚は正常だから痛いには痛いけど、その痛みの向こうにある幸せと救いを大いに感じた。切る理由なんて今更判らない。
でも自分の体に傷が一つ、つく度心が羽毛のように軽くなるんだ。楽しいんだ。
刃を滑らせる度にチクリと刺さるような痛みとは裏腹に手が止まらない。
「うっかり沢山切ってしまった」
なんてことを云うつもりはないが、長い間我慢していたから反動でまあまあな量を切っていた。握っていた剃刀を洗面台の端に置いて、ポケットから携帯を取り出し時間を確認するディスプレイには6:30と。
もうすぐ鏡花ちゃんの帰宅時間なので僕は片付けをし、夕飯の準備に取り掛かった。
豆腐を骰子ほどの大きさに切り分け、鍋にそっと入れる。お湯が湧いたら火を止め味噌をとかし沸騰しない程度の火加減で再び熱する。味噌汁ができたら豚肉をフライパンに載せた。今日は豚の生姜焼き。
完成間近、僕はふと忘れ物を思い出した。
パソコンを持ち帰っていない。報告書は完成したけれど誤字脱字等の最終チェックをまだしていないのだ。
火を止め僕は全力疾走で探偵社に向かった。
「はぁはぁ」
探偵社の寮は決して探偵社から近いと言えない距離だが、走れば5分ぐらいでつく距離だ。
ドアを開けると太宰さんが入口付近で宙吊りにされていた。
恐らく国木田さんがやったものだろう。
「敦くんどうしたのかね?今日はもう帰ったのかと」
「少し、忘れ物を…」
自分のデスクに置かれたパソコンを持ち上げ脇に抱えるように持った。すると向かいの国木田さんが眼を皿のように丸くした。
「どうした敦。袖から血が滲んでいるぞ。」
僕は恐る恐る目線を下げた。僕の視界に映ったのは袖が赤く染まっている様子。探偵社で怪我は日常茶飯事だが、寮に帰って忘れ物を取りに来ただけで此処までの怪我は「普通」しない。
「あっ…これは」と言い訳を考えていると太宰さんが軟体動物のようにぬるっと縄から抜けて強引に僕を医務室に連れ込んだ。
「敦くん。袖を捲くって。」
太宰さんが鋭い目で僕を見つめる。僕は厭だと答えた。太宰さんははぁとため息を一つ付いて与謝野さんの特等席に座る。
「乱歩さんから話は聞いていたが此処まで酷いとは。」
「別に私は君を叱りたいわけじゃない。傷の様子を見させてほしい。」
太宰さんの言葉は何時も人の心の隙間に入り込んで内側から解すような話し方だ。正直こういう人は嫌いじゃない。
相手にうまい具合にチューニングして、話してるととても安心する。
だけど今は違う。
太宰さんが優しい声色に変えても僕は彼が僕の心の隙間入るのを拒否する。例え話題を変えても今は太宰さんが何をしようときっと心を開かない。
というか!リストカッターが傷を見せろと言って先ず見せるわけがない。でも太宰さんもきっとそれは判りきっているんだろう。
多分僕が切っている理由を炙り出そうとしている。
そういう人間の目は何時も不器用だ。僕にはわかる。幾ら心配しているのを装っても探っている目は隠せない。
僕が暫く太宰さんを凝視していると彼は自慢の長い睫毛を揺らして目を閉じかわりに口を開いた。
「悪いけど、この件は私達だけの秘密にはできない。少なくとも社長には報告する。」
「嫌がることは判っているんだ。でも社長は社長で社員を守る義務がある。判ってくれたまえ」
僕は此処で初めて恩人という人間を恨んだ。この腕は、この傷は僕自身の問題だ。社長とか、社員とか、義務とか関係ない。僕が勝手に初めて、勝手に切ってるんだ。
心底思う。「放っといてくれ」と
太宰さんは僕の叫びに気付いたのか机の横の棚を漁り始めた。
「お茶を頂こう。医務室のお茶は美味しいんだ知ってたかい?」
太宰さんは砂色のコートをなびかせながら立ち上がり、薬やら、医療器具が入った棚の隣の棚からティーポットと、カップそれと電気ケトルを取り出した。
水道水をケトルに入れてカチッと音を鳴らす。
「落ち着き給え。敦くんの気持ちは判らなくはない。私も同じ目に遭ったからね」
「正義感あふれる目、探るような目、心配しかしていない目。まるでこちらの気持ちを考えて居ない。凄く気持ち悪い。」
「その時大人の立場なんて考えたくもないし、知りたくもない。だけどこうして敦くんの上司になって気付いたよ。厭でも思い知らされた」
「私は事実しか言わない。大人はねみんな責任を負いたくないんだ。増やしたくないんだ。
だから聞くし、見ようとするし、問う。
社長はきっと敦くんを苦しめるようなことをしたくはない。きっと責任なんて考えてない。組織を纒める者として単純に心配なんだ。大人って気持ち悪い。私だって思う。だけど大人は大人で事情がある。」
太宰さんはそう云って僕にお茶をだした。ダージリンの香りが鼻腔をくすぐる。僕は右手にカップを持ち紅茶を啜った。
「敦くん。今から15分間医務室に鍵を締めていい。私は出るから、自分で腕の手当はできるね?」
その時彼の眼は慈愛に溢れ、とても優しく、天使のような眼差しをしていた。
僕は太宰さんに言われたとおりに手当をして医務室を出たあとは社長室に向かった。
コメント
15件
社長の反応気になる!!
まじで好きフォロー失礼します!
おいおいおい普通にマジで神作じゃねぇか天才 多分あれじゃない?あーの、普段太宰さん受け書いてるから太宰さん受けが好きな人が多いじゃん?だからかなぁって