テラーノベル
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ふと、意識の底から引きずり上げられるような感覚があった。
深い眠りに落ちていたはずの脳が、肌を刺すような異常な「熱」を感知して、けたたましく警鐘を鳴らしている。
(……なんだ、この熱。暖房、つけっぱなしだったか?)
朦朧とした意識の中で、俺は重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。
部屋の明かりは消えたままだ。だが、カーテンの隙間から差し込む冷たい月光が、俺のベッドの上にある「ありえない光景」を、残酷なほど鮮やかに照らし出していた。
最初に目に飛び込んできたのは、眩いほどのプラチナブロンドの髪だった。
俺の胸元に、一人の少女が顔を埋めている。
昨日拾った白猫を思わせるその髪の間からは、ぴんと立った白い獣の耳が覗き、彼女が身をよじるたびに、毛先が俺の肌をチリチリと刺激する。
「ん……あ、ご主人様、起きちゃった? おはよ」
少女が少し声を潜め、俺の頬に自分の頬をゆっくりと擦り付けてきた。
驚愕で、心臓が跳ね上がった。
彼女は一糸まとわぬ姿だった。
健康的な小麦色の肌、しなやかな肢体。そしてその肌からは、昨日浴びさせたシャンプーの香りと、それ以上に強烈な「女」の甘い香気が立ち上っている。
「ちょ、お前、だれ……っ!? なんで俺のベッドに……」
混乱する俺が視線を落とすと、左腕にもう一人の少女がいた。
闇を溶かし込んだような漆黒の長髪。その頭上には、夜の静寂を象徴するような黒い耳。
彼女は俺の左腕を抱き枕のようにして、しがみつくように深く眠っていた。
「ま、待て。白と、黒……。耳……?」
俺は、ベッドの脇に置いたはずのクッションに目をやった。そこには、ついさっきまで丸まっていたはずの二匹の姿はない。
俺は目の前の、プラチナブロンドの少女の顔を凝視した。その勝ち気そうな目尻、ヘーゼルの瞳。そして、俺の喉元で喉を鳴らすような、独特の甘え方。
「もしかして……お前、あの白猫か……?」
「あはっ、やっと気づいてくれた? そうだよご主人様! びっくりさせちゃってごめんね。でもさ、ご主人様が助けてくれたのが嬉しくて、どうしても隣にいたかったんだ」
白猫の化身は、そう言って嬉しそうに目を細めた。その屈託のない笑顔は、さっきまでクッションの上で「ふみふみ」をしていたあの猫そのものだった。
だとしたら、俺の腕に絡みついているこの黒髪の少女は。
「じゃあ、こっちは……あの、黒猫……?」
「⋯⋯うるさい。⋯⋯静かにして。⋯⋯ご主人様」
黒猫がようやく、重たい瞼をわずかに持ち上げた。
彼女は俺の腕に顔を埋めたまま、濁った漆黒の瞳で俺をじろりと見上げる。その、世界のすべてを面倒くさがるようなダウナーな視線。俺を「勝手にすれば」とでも言いたげに見つめていた、あの時の瞳だ。
「⋯⋯気づくの、遅い。⋯⋯せっかく、静かに寝てたのに。⋯⋯ご主人様の腕、あったかいから⋯⋯離したくないのに」
間違いなかった。
目の前にいる全裸の美少女たちは、俺が死にかけていたところを拾ってきた、あの二匹だった。
信じられない。だが、俺の手首を甘噛みしてくる黒猫のザラついた舌の感触も、俺の胸に押し付けられる白猫の熱い体温も、すべてが圧倒的な現実として俺を支配していく。
「お前ら、本当に……なんで、こんな姿に……」
「そんなのどうでもいいじゃん。ねえ、ご主人様」
白猫が、俺の反応を伺うように少しだけ大人しく、けれど熱っぽい吐息を耳元に吹きかける。
「アタシ、もう我慢できないかも。……拾ってくれたお礼、アタシなりに精一杯させてほしいな」
隠しきれない情熱を瞳に宿した白猫。
そして、厭世的な表情のまま執拗に俺の腕に絡みつく黒猫。
左右から押し寄せる、異なる種類の「独占欲」に挟まれ、俺の理性は一瞬で崩壊した。
猫を拾ったはずの夜は、いつの間にか、俺のすべてを喰らい尽くすための甘い地獄へと変貌を遂げていた。
「ご主人様。……アタシのこと、食べていいよ?」
白猫が俺のシャツのボタンを一つ、ゆっくりと外す。
黒猫が俺の首筋に深く、深く顔を寄せた。
「⋯⋯ご主人様。⋯⋯アタシのことも、忘れないで。⋯⋯いっぱい、撫でてくれるよね⋯⋯?」
深夜の静寂の中、狂おしいほどの愛撫が今、始まる。
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