テラーノベル
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ジェストの言葉で、ナーシャの思考が停止した。
(何?ジェスト様、今なんと仰った?)
ちゃんと聞こえてはいた。聞こえてはいたけれど、それをのみ込むのに脳が拒否をしているようで考えが纏まらない。いや考える必要もないのだけれど、その事実はナーシャにとってあまりにも受け入れ難かった。
ちゃんと頭が回れば、その事実があったとしても、|オリジエル《家》を出て戸籍が変わったナーシャには既に関係の無いこととして捉えられるのに、ナーシャが思っていた以上に、ナーシャの本心は、セシルとの繋がりを諦めきれてなかったのかもしれない。
「お兄様と私は異母兄妹だったの?」
部屋の中の沈黙がどれ位続いたのか、ナーシャの中では一瞬だったが、実際はもう少し長かった。ナーシャの心を慮り、部屋にいた皆がナーシャが口を開くのを待っていたのだ。
「そうだね、元々この事実はナーシャと俺が婚姻する時に話す予定だったんだ」
「セリナも知っていたの?」
ナーシャは向かいに座るセリナにも問いかけたが、セリナの顔を見れば知らなかったのだと理解できた。彼女は真っ青だったからだ。
「し、知りませんでした。まさかセシル様が⋯」
セリナも何とか言葉を絞り出すように、そう言って青ざめる顔を俯かせた。
ただ、ナーシャはセリナのショックを受けた様子で、不思議と冷静になれた。冷静になると疑問が湧く。ジェストは元々婚姻したら、事実を話す予定だったと先程言った。だが、婚姻したらオリジエル侯爵家を離れるナーシャに、それを知る事が必要だろうか?今回の、ジェストとの結婚はナーシャにとっては、考えていなかった思いがけない幸運だった。
だから聞かされる事になったのかもしれないけれど⋯。
何となく何かが納得できなくて、ナーシャはジェストを見つめる。
そんなナーシャをジェストは、昔よくしていたように頭を優しく撫でてくれる。だがそうするジェストの顔は、目尻が下がって少し情けない顔で困っていると物語っていた。
「ナーシャ、実はね。この話はナーシャがショックを受けても、受け入れてもらわないとならないんだ。俺達の婚約が解消されることなく、そのまま結婚していたとしてもね。少し早くなってしまったけれど、元からナーシャがデリス子爵領に行く前に、聞かなければならない事だったんだ」
「それは、どうして?」
「オリジエル侯爵は知らないが、セシル様の実母であるレミィ様は、僕らの親戚になっている」
「えっ!それは⋯それはどういうこと?」
セシルが異母兄だった事にも、ショックを受けたナーシャだが、それ以上に親戚とはどういう事なのだろう。ナーシャはずっとセシルとは実母も同じ兄妹と思って生きてきた。オリジエル侯爵家の系図にはそう書かれているから、貴族名鑑にも現オリジエル侯爵には結婚歴は一度しか載っていない。それがナーシャの母である。
だから、何も知らなかったのに、兄のセシルが元平民の母を持つだなんて、そしてその人が子爵家と親戚だなんて、ナーシャはもうこれ以上考えるのを止めたかった。だがそんなナーシャにジェストは、はっきりと受け入れろと告げている。
それが、ナーシャには尚の事ショックなのだ。いつもナーシャを気遣ってくれていたジェストと、今寄り添うようにナーシャの肩を抱くジェストが違う人の様に思えて、その事もナーシャには2重の|衝撃《ショック》だった。
「君の父親であるオリジエル侯爵は、少しいやかなり優柔不断な方でね。それでもレミィ様の事だけは一途に思っていたはずだった。それなのに彼はナーシャの母に流されたんだ」
「流された?」
「そうだね、二人の間に何があったか、よくわからないけれど。始めは出来心なのか計略に掛かってしまったのか。ただ事実だけ言えば、ナーシャの母は生娘だったのをオリジエル侯爵は安易に手折ってしまった。そしてそれを訴えるとナーシャの母の生家が言い出したんだよ。当然ミゼラ様もレミィ様も侯爵にどういう事かと詰め寄るよね?」
「そ、そうね」
ナーシャは、自分の実母のソフィアが社交界であまり評判の良くない人物だという事を、元から噂で聞かされていたが、改めて大好きなジェストに、評判の良くない母の事を聞かされるのは辛かった。だが今は辛さよりも戸惑いのほうが先にたった。
「責められた侯爵は、その時既に投げやりで、そんな態度の侯爵をレミィ様は見限ったんだ。それでセシル様を連れて離縁するつもりだったけれど、侯爵は離縁は認めたけどセシル様を連れて行くのは認めなかった」
「そんな勝手な⋯」
思わず言葉が出たのはセリナだった。それまで口を挟まずにいた彼女は、レミィの境遇に同調したのかもしれない。そんなセリナを、ジェストは微笑んで黙らせた。
「侯爵がどういうつもりか知らないけど、セシル様は嫡男になるからね。手放せなかったのだろう。ミゼラ様は領地の事や家政には口を出せても、侯爵はあくまでもスティーブ様だし、夫婦の事には口を出せなかった。だけどね、息子の責任は自分が取ると仰って、レミィ様の行く末を案じて手を差し伸べてくださったんだ」
「お祖母様が?」
「そうだよ、ミゼラ様の推薦で、レミィ様は離縁してから我が子爵領で働く事になって尽力してくれた。レミィ様は優秀でとても良く働いてくれて、それがきっかけで俺の叔父上、父の弟のカーゼルと再婚して今子爵領で生活してるんだ。二人の結婚をミゼラ様がとても喜んでくれた。叔父上は本来ならオリジエル侯爵家を継ぐ予定だったからね。もう一人の息子のように思ってくれていたみたいだ」
ナーシャは、あまりにも沢山の知らなかった真実を聞かされて、情報過多で愈々思考を手放したくなった。
コメント
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うわあ、一気に核心に迫ってきましたね…。セシルが異母兄だったっていう衝撃もさることながら、ソフィア夫人の過去や祖母ミゼラの尽力など、伏線が一気に回収される感じで引き込まれました。ジェストの優しいけど揺るがない口調も、逆に事の重みを感じさせますね。次が気になりすぎます!