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Über das glückliche Leben.

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Über das glückliche Leben.

204 - 第204話 Glück des Lebens -Heavenly Blue-3-2 ※暴力表現あり

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2024年04月12日

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リオンが思いがけない人との再会を職場で果たしていた頃、ウーヴェは本日最後の患者の診察を終えて安堵の溜息をついていた。

 最後の診察と言ってもまだ午後も早いうちで、今夜久しぶりに大学の友人達との飲み会があり、時間ぎりぎりまで診察して疲れた顔で皆に会いたくないとの思いから早々に診察を切り上げて書類整理の時間を取ることにしたのだ。

 友人に言わせると開業医だからこそ出来ることらしいが書類の整理も重要だと反論したウーヴェだが、お前の所には超が付くほど優秀な事務員がいるだろうと更に怒られてしまったためそのことについては何も言わないでいたのだが、その優秀な事務員がファイリングしたカルテや業者からのダイレクトメールなどウーヴェが必ず目を通さなければならないものを運んでくる。

「結構溜まっていたんだな」

「そうね……広告のメールは処分しておきました。後は私では判断出来ないものばかりです」

 だから処分するか保管するか決めてくれとデスクにそれらを下ろしながら苦笑したリアにウーヴェが溜息を一つついたかと思うと、気分転換をしてきても良いかと問いかける。

「どこに行くの?」

「広場の向こうのカフェで何か甘いものとコーヒーを買ってくる」

 いつもならばリアが手作りのクッキーやタルトを用意してくれているのだが今日に限って何の準備も出来なかったと出勤早々に謝罪をされていたことを思い出し、書類仕事の後に甘いものが欲しくなるのは仕方が無いとウーヴェが肩を竦めるとリアも同意するように頷く。

「なるべく早く戻ってきて下さいね」

「分かった」

 気分転換を認められて安堵に胸を撫で下ろしたウーヴェは、コートを着込み財布と携帯だけを持ってクリニックを出て行き、デスクに山積みになった書類を見下ろして溜息をついたリアは、二重窓の向こうに広がる空が俄に灰色になったことから雪が降るかも知れないと更に重苦しい気分に陥るが、コーヒーと美味しいビスケットを楽しみにしている、それともベリーのタルトかしらと一仕事終えた後のお楽しみに思いを馳せながら己が出来る事を片付けてしまおうと診察室を出るのだった。

 リアに許可を貰って気分転換に出かけたウーヴェはクリニックが入居するアパートの階段をわざとゆっくりと時間をかけて下り、コーヒーと甘いものは何が良いだろうかと思案しながらドアを開ける。

 途端に肌に感じるまだまだ冷たい風に顔を顰めコートの襟を立てて白い息を吐くと、今朝リオンに今夜友人達との飲み会に参加することを伝えたときに学生時代の友人は貴重だから行ってこいとの言葉と、飲み過ぎるな、なるべく早く帰って来いという定番の不満も聞かされたことも思い出す。

 楽しい席だとついつい飲み過ぎてしまうウーヴェの癖を熟知するリオンの言葉に逆らわないように気をつけているが、そのリオンが言うように学生時代の友人との時間は本当に楽しい為、気がつけば普段の倍近くの酒量になるのだ。

 これは本当に気をつけなければならないと何度も反省するが友人達がそんなウーヴェの様子を見ては面白いからと次々に酒を勧めてくるため、断る切っ掛けを失ってしまうことが多々あった。

 今夜もまたそうなるのかなと期待半分不安半分で広場を横切ろうとしたその時、恐る恐る呼びかけられて足を止める。

「……あの……」

「はい?」

 誰か知り合いだろうかそれとも道に迷った人だろうかと思いつつ振り返ったウーヴェは、すみません、この辺りにあるクリニックを探しているのですがご存じないでしょうかと丁寧に問われ、どこのクリニックですかと問い返すが、不安そうにメモを片手に問いかけてくる男の美貌から目を離せなくなってしまう。

 今まで様々な年齢や人種の男女と知己を得てきているウーヴェだったが、今目の前にいる男のように一目見れば忘れられないほどの美形とは出会った事がなかった。

 金髪碧眼という欧州に暮らす人たちを端的に表す言葉をここまで見事に体現している人物とそうそう出会ったことがないと呆気に取られそうになってしまうが、あの、と申し訳なさそうに問われて我に返る。

「ああ、失礼しました。どちらのクリニックですか?」

 メモを覗き込む男に優しく問いかけて返事を待つ間も碧の瞳に吸い込まれそうになってしまう。

 男女を問わずこんな風に感じたのはリオン以外にいないと思った時、ベンカーという名が聞こえてきて瞬きを繰り返す。

「ベンカーですか」

「はい。……知人の紹介で来たのですが……」

 この辺りだと教わったのだが方向音痴で迷ってしまったと心底不安そうに笑う男に頷いたウーヴェは、視線の先にあるアパートを指し示しこのアパートにお探しのクリニックがあると伝えると、どこでしょうかとウーヴェに身を寄せて同じ場所を見上げるようと男が綺麗な顔を上げる。

「あそこですよ」

 己のクリニックの上の階を指で示しながらアパートのドアの中へと男を誘導するようにウーヴェが歩いたとき、ありがとうございますと感極まったような声が聞こえてくる。

「中にまで案内してくれるなんて本当にありがとうございます……バルツァー先生」

「?」

 感激のあまり僅かに顔を紅潮させている男の言葉に違和感を覚えたウーヴェが眼鏡の下で目を細めたその時だった。

 いつどこから現れたのかがまったく分からないが、黒髪の男がウーヴェの背後に立っていたのだ。

 前後を見知らぬ男二人に挟まれ一瞬で肌を粟立たせたウーヴェは足に力を込めて何とか逃げ出せないかと隙を探るが、背後の男が耳元に顔を寄せて囁いた言葉の意味を理解すると同時に全身から力が抜けそうになる。

「久しぶりだなぁ。あの時は随分と世話になった」

 恩を受けたままでいるのは俺の性分に合わないから恩返しを是非させてくれと囁かれた瞬間、放電したときのような音が小さく聞こえ、腰に激痛が走ってその場に膝をつきそうになる。

 膝から崩れ落ちそうなウーヴェを背後から支えた黒髪の男、ジルベルトは、項垂れるウーヴェを冷淡な目で見下ろし、今度は背中にスタンガンを押しつける。

「……っ!!」

 スタンガンが押し当てられた箇所を中心に流れる電流にウーヴェの身体がジルベルトの手を振り解いて跳ね上がり痛みを声で訴えようと口を開くが、ウーヴェの前にいた不安そうな男を装っていたルクレツィオが素早く手を伸ばして声が漏れないようにウーヴェの口を掌で覆ってしまう。

 痛みに身体を痙攣させながらその場に倒れ込んだウーヴェの背中に膝をついたルクレツィオが結束バンドを使ってウーヴェの両手首を腰の上で括り付け、地下の駐車場から上がってくることが出来る階段で待機させていた部下を呼び寄せて黒い布をウーヴェの顔に被せて視界を奪うと部下がウーヴェを担ぎ上げて階段を降りていく。

 その一連の動作は手慣れたものでアパートのドア付近にも関わらずに誰にも見られる事がなかった。

 ルクレツィオが一足先にあの家に戻っているから後は頼むと告げたため、ようやくお待ちかねの時間だ心ゆくまでショータイムを満喫しようと笑ってルクレツィオの頭を革の手袋で包んだ手で抱き寄せる。

「いよいよだな」

「ああ……その前にもう一仕事終えてくる。ルーク、先に戻っていてくれ」

「ああ」

 祝杯の準備をして待っていると笑って手を上げるルクレツィオの頬にキスを残したジルベルトだが、駐車場で待たせていたバンに乗り込んでアパートを出て行くのをウーヴェのスパイダーに寄りかかってタバコに火を付けながら見送り、ちょうど五分後タバコの吸い殻をその場に投げ捨て、手袋をきゅっと填め直すとエレベーターに乗り込む。

「さあ、あと一仕事だ」

 これが終わればショータイムが始まるそれに間に合うように帰らなければと歌うように囁きながらエレベーターを降りたジルベルトは、今日の診察は終了しましたとの看板がぶら下がっている両開きの扉の前に立つとこの後のことを思ってついつい興奮しそうになるのを深呼吸で抑え、そっと扉を開けて初診の患者のような不安な態度で室内の様子を窺いキッチンスペースらしき所から出てきた女性に呼びかける。

「あの……」

「……診察をご希望ですか?」

 キッチンスペースから出てきたのはリアで、診察終了の札を出しているはずなのにと少し前のことを思い出しながら入って来たジルベルトに問いかける。

「……いえ、こちらにバルツァー先生がいらっしゃると聞いたのですが……」

「はい、バルツァーはうちのドクターです。どのようなご用件でしょうか」

 室内に入って一度ぐるりと見回したジルベルトは、ここにリオンが暇を見つけては足繁く通っていた所かと胸の裡で呟きつつコートのポケットに突っ込んだ手でスタンガンの電源を入れる。

「いえ、二年前にバルツァー先生に大変お世話になった者で、こちらに来る用事がありましたので先生に直接お目に掛かってお礼を述べたいと……」

 恐ろしいほどの丁寧さで用意していた来訪の理由を告げたジルベルトは、申し訳ないが今彼は不在でもうすぐ戻って来るとは思いますがと返す彼女に鷹揚に頷く。

「……そうだと良いな」

「え?」

「あいつはもう二度とここには戻ってこない」

 丁寧な言葉使いが一変するだけではなく女性の鼓動を早めそうな魅惑的な笑顔が言葉では言い表せない凶悪なものに変化したことにリアが気付いた瞬間、ジルベルトが間合いを詰めて彼女の細い身体に肩を押しつけ、素早く取りだしたスタンガンを先程のウーヴェと同じようにリアの身体に押し当て小さな放電音が響いた直後、リアが悲鳴を上げてその場に倒れ込む。

 スタンガンの出力は控え目にしているがそれでも痛みは強烈なもので、スタンガンが押し当てられたお腹を押さえながら身体を丸めるリアをウーヴェの時以上に冷淡な目で見下ろしたジルベルトは、扉の鍵を内側からかけて外部からの目を完全に遮断すると、痛みに身体を震わせるリアのスカートを無造作に掴んで力任せに引きずり下ろす。

「……イ、ヤ……、やめて……っ……・!!」

 スタンガンを押しつけられた痛みと衣服を剥ぎ取られた恐怖から次に起こることを否が応でも想像してしまったリアは痛みを堪えてジルベルトから逃げようと床の上を這いずるが、その細い足首を掴まれた恐怖に顔を引きつらせ、再度足首にスタンガンを押しつけられて甲高い悲鳴を放つ。

「アアアアアァ!!」

 身体を激しく痙攣させて痛みにのたうつリアにうるさいと言い放ったジルベルトは、リアの首に巻かれているスカーフを乱雑に剥ぎ取ると悲鳴を上げる口にスカーフを押し込む。

 くぐもった悲鳴を耳にしつつぐるりと周囲を見回したジルベルトだったが、視界の隅で痙攣する身体に苛立ちを感じ、手入れがされている革靴でリアの下腹部を踏みつける。

「……っ、ぐっ……!」

 スタンガンの攻撃を二度も受けて痙攣する身体を足で踏みつけられる痛みに失神しそうになったリアは、己を踏みつけた男がどこかに電話をしている姿をぼやける視界で認め、ルーク、一時間ほどで戻ると伝えているのを遠い世界の会話のように聞いていたが、纏めてアップしていた髪を解かれるだけではなく、まるで荷物を運ぶのに打って付けだというように引っ張られ絨毯の上を引き摺られてしまう。

 突然の思いもよらない暴力に襲われた彼女はただ悲鳴を上げることしか出来なかったが、その悲鳴も己の口に突っ込まれたスカーフがほとんど吸い取ってしまっている為、彼女自身にしか聞こえないほどだった。

 何故こんな暴力を受けなければならないのかまったく理解出来なかった彼女は、トイレの中に引き摺られていった後、荷物よろしく投げ捨てられてその場に蹲ってしまうが、カシャンという金属音が聞こえた瞬間、血の気を更に喪ってしまう。

 蒼白な顔で振り仰いだ男の手に握られているのは鈍い光を放つ細身のバタフライナイフだった。

 スタンガンで身体の自由を奪った後レイプをされてそのナイフで刺されて殺されてしまうのだというニュースでよく見聞きする事件の概要が脳裏を過ぎり、自然と涙が流れてしまう。

 何でもするから殺さないでと懇願したとしてもきっとこの男は鼻で笑い飛ばしながら殺すのだろうと思うと命乞いの言葉も出てこず、目の前にしゃがみ込んだ男がナイフの切っ先を先程踏みつけた辺りに宛がったとき、リアがきつく目を閉じて愛する人たちの顔を脳裏に思い描いてしまう。

 ジルベルトの手がリアに恐怖を与えるようにわざとゆっくり持ち上げられ、ナイフの切っ先が彼女のシャツのボタンをはじき飛ばしていく。

 ぷつぷつと弾けるボタンの音がやけに大きく聞こえる気がし、何を興奮しているんだと自嘲したジルベルトは、シャツの間から見える白い肌に赤い筋を走らせたくなるのを何とか思いとどまり、今度は胸の谷間にナイフを立ててブラを難なく切り裂くとその手を下ろしてタイツと下着を切っていく。

 女性が助けを求める場合、命が掛かっていたとしても胸や股間を見せることは躊躇することで、それだけでも時間稼ぎが出来る事をジルベルトは知っていたが、命の瀬戸際に追いやられたときには形振り構わないことも良く知っていた。

 だから彼女自身が助けを求めることを躊躇させるために服を剥ぎ取り、さらにきっと自慢だっただろう手入れの行き届いている長い髪をざんばらに切るだけでも十分な効果はありそうだった。

 己が切り取った長い髪を彼女の裸体の上に撒き散らすように捨てながら二年前も同じ長い髪を切った後にレイプさせた女のことを思い出してしまい、苛立たしそうに舌打ちをする。

「……あの時はあいつのメダイに残した指紋で足がついたからな」

 今回もここから足がつくだろうが時間稼ぎは出来ると笑うと涙を流してただ身体を震わせるリアの肩を踵で蹴りつけてトイレの床に倒れさせ、痛みにも最早悲鳴を上げることすら出来なくなったリアを見下ろしたジルベルトは、やはり白く柔らかな肌に赤い筋を残したい衝動を抑えるために拳を握るが、心の葛藤を抑えるために無意識にナイフを視界の端に見えた何かに突き立てる。

「キャァアアアア!!」

 狭いトイレに響く悲鳴に我に返り、己がナイフを突き刺したのが女の白い太ももだと気付いて一瞬呆然としてしまうが、ナイフを抜いてしまえば返り血を浴びて面倒なことになりかねないと己に言い聞かせるように深呼吸を繰り返し、ナイフをそのままに立ち上がる。

 ナイフを突き立てられた痛みに失神したリアを見下ろしながら一つ溜息をついたジルベルトは、意識を回復した彼女が逃げ出さないようにするため口の端から出ているスカーフを引き抜くと、トイレの配管と彼女の手を括り付ける。

「運が良ければ助かるだろうな。チャオ、お嬢さん」

 色を無くした頬を一つ手の甲で叩いたジルベルトは、あんたの持つ運が勝つかそれとも俺が勝つかと笑うと楽しそうに肩を揺らしながらトイレから出て行く。

 部屋の中央に無理矢理脱がせたスカートがあり、それをトイレの中に投げ入れた後、何事も無かったかのように両開きのドアを開け、そこにぶら下がる診察終了しましたの札を一つ指で弾いた後鼻歌交じりの浮かれた様子でクリニックを後にする。

 階段を下りつつ取りだした帽子を目深に被ったジルベルトは、迎えに来る部下との待ち合わせ場所に向けてアパートを出て行くが、地下に降りる階段にウーヴェの眼鏡が落ちていることに気付かないのだった。




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