TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

すみれ

一覧ページ

「すみれ」のメインビジュアル

すみれ

9 - 第9話

♥

30

2025年06月28日

シェアするシェアする
報告する

その日、私は教室の隅でお弁当を広げていた。
外は少し曇っていて、光は柔らかく拡散している。

窓の外には、風に揺れる木の枝と、静かな午後の気配。


「一緒にいい?」


声をかけてきたのは、すみれだった。

私は少し驚いて、それからうれしさが胸に広がった。


「うん。どうぞ」


ふたりで机を並べて、

それぞれのお弁当を広げた。


すみれは卵焼きをひとつ、私の方へ差し出してくれた。


「食べてみて。今日のはちょっと甘め」


「ありがとう」


一口食べると、ほんのりとしたやさしい甘さが広がる。

それは、彼女の雰囲気そのままの味だった。


しばらく、言葉少なに食べ進めたあと、

すみれがぽつりと呟いた。


「……私、最近よく夢を見るんだ」


「夢?」


「うん。よくわからない場所にいて、風が吹いてて、

 すみれの花がいっぱい揺れてるの」


私は一瞬、呼吸を忘れた気がした。


それは――私が、かつて夢で見た風景と、まるで同じ。


すみれは続ける。


「でも、その夢にはね。いつも“誰か”がいるんだ」


「……誰か?」


「うん。顔は見えないけど、声だけはわかるの。

 静かで、やさしくて、少し寂しそうな声」


私の胸の奥で、何かが静かに揺れた。


すみれは、ふと私の方に目を向けて、

意味ありげに微笑んだ。


「もしかしたら――

 私の夢に、あなたが出てるかもね」


一瞬、時間が止まったような気がした。


私は箸を持つ手をそっと膝の上に下ろし、

言葉にならないまま、ただすみれを見つめた。


彼女はそれ以上何も言わず、

ただお茶を一口飲み、再び静かに笑った。


この作品はいかがでしたか?

30

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚