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その日の夜、私達は孤児院へと密かに近付いていました。隠密行動は大事です。
「なんだ、八人って話じゃなかったか?十人以上は居るんだが」
「その辺のチンピラを雇ったのでしょう。有象無象が増えたところで、物の数ではありません」
ベルとシスターの話の通り、見張りの人数が増えているような気がしますが、何でしょう。この二人と一緒だと不安を感じませんね。そこへ。
「待たせたわね」
「マーサ、貴女が自ら来るとは」
「部下に任せても良いけど、ケリくらいは自分で付けたいし。なにより、シャーリィが何をやらかすか楽しみだもの」
「否定はできませんね、シャーリィ」
「否定します」
私がトラブルメーカーであると言う風評被害が酷い。提訴も辞さない覚悟です。
それはさておき、マーサさんの服装はエルフの民族衣裳?とでも言うのでしょうか。非常に軽装で身軽そうです。大胆に露になった肌やお胸が素晴らしい。べりーぐっど。
それに、自然由来のもので編まれたようなサンダルを履いた素足がまた魅力的です。えくせれんと。
私が男性なら踏まれたいと望みそうです。変態ではありませんが。
シスターはいつもの修道服ですが、スカートに入ったスリットから覗く真っ白な生足がなにかを誘います。ぐっじょぶ。
ベルはいつも通り真っ黒です。隠密に適しているように見えますが、髪の毛が真っ赤なので目立ちます。そして私は修道服。以上。ロリシスターに需要なんてありません。無い筈です。
さて、各自の装備ですが私は拳銃、ナイフ、魔石。ベルは大剣、シスターはMP40。そしてマーサさんは。
「弓ではなく狙撃銃ですか、マーサさん。確かスプリングフィールドと言う名前でしたね?」
「あら、詳しいわね?私が弓を使わないのは意外かしら?」
「はい、エルフは弓が得意だと聞いたことがありますので」
「弓も使えるけど、時代の流行には乗らないとね。それに、やっぱり楽なのよねぇ」
ファンタジーな存在であるマーサさんが狙撃銃ですか。現実と幻想の融合とはこんなものを指すのでしょうね。
「興味深いですが、それは後回しにします。襲撃計画ですが、マーサさんとシスターに苦労して貰いますよ」
「シャーリィ、私に囮になれと言うのですね?」
「はい。シスターとマーサさんが暴れて注意を惹き付けている間に私とベルが孤児院へ切り込みます。最優先はルミと他の子供達が居れば確保。敵の生存者は必要ありません」
「ちょっとカテリナ、さらっと皆殺し宣言したわよ、この子」
「それがシャーリィですよ、マーサ。この娘にとって敵対者の生存は許せないみたいなので」
「私の大切なものを奪おうとするんですよ?むしろなぜ生かしておく必要があるんですか?」
心からの疑問です。むしろ許せる人は聖人か何かですか?私は凡人なので無理ですね。
「極端な子ね。シャーリィ、貴女だけは敵に回したくはないわ。それじゃ、準備するわ。カテリナ、鈍ってないわよね?」
「マーサこそ、足を引っ張らないように。シャーリィの晴れ舞台なのですから」
軽口を叩きながら二人が離れていきます。晴れ舞台?確かにある意味暗黒街デビューですね。
「お嬢、俺の傍から絶対に離れるなよ?ただ、ついてきてくれ」
「分かっていますよ。武器はありますが、私が戦力になるとは思えませんから」
それでも乗り込むのは、ルミを助けるため。それだけです。私の存在が皆に余計な負担を増やしているのは承知していますが、これだけは譲れません。
一時間後、ちょうど月が雲に隠れて真っ暗になった時、銃声が響きました。
「それじゃあ、始めるわよ!」
「いつでも!」
マーサさんが狙撃して、シスターが軽快にサブマシンガンを乱射しています。それに合わせてバルザックファミリー構成員達も慌ただしく動き始めました。派手ですね、銃声が響く度に悲鳴が挙がります。敵の悲鳴なら幾らでも聞けますね、うん。
「行くぞお嬢!」
「はい」
それに合わせて私達は孤児院目掛けて走り出します。目標は裏口、三年前を思い出しますね。不思議な気分です。
「なんだてめぇらは!」
「邪魔だぁあっ!」
「ぎゃっ!」
見張りに見つかりましたが、ベルが大剣を一閃すると首が胴体とサヨナラします。ううん、お見事。
「中に入ったら道案内を頼む!」
「任せてください」
そのまま私達は他の奴らに見付かることなく孤児院へと裏口から侵入することに成功しました。
孤児院内部は灯りもなく真っ暗でしたが、私としては何度も遊びに来た場所。土地勘はあります。
「外の騒ぎで、連中も出払ってるみたいだな」
「好都合です。ルミを探しましょう」
もし居なくても必ず戻ってくる筈。ここが拠点なのですから。その場合は先に掃除してルミを出迎えて保護する。うん、簡単な話です。
察するに脅されているみたいですから、脅している人が居なくなれば問題はない。
「……やけに静かだな。お嬢、離れるなよ」
ベルを先頭にゆっくりと廊下を歩きます。その時、いきなり天井が軋んでガラガラと崩れて来ました。
「あぶねぇ!」
「おっと」
幸い私達は瓦礫を容易く避けることが出来ましたが、その衝撃で廊下に有った家財なども倒れて私達の間を塞いでしまいました。
「お嬢!無事か!」
「大丈夫です。ベルもお元気そうで」
怪我がなくて何よりでしたが、分断されてしまいましたね。
「くそっ!今そっちに行く!」
「いえ、構いません。ベルはそのまま探索を。此方から其方へ回る道はあるので、ホールで落ち合いましょう」
「……無理はするなよ。何かあったら大声を出せ。無理矢理にでも行くからな」
「もちろんです。ベルも気を付けて」
頼もしい限りです。分断に意図的なものを感じますが……危険は承知の上。私は装備を改めて確認すると、修道服に隠したまま廊下を進みます。
そこにあったのは、子供達が寝起きしていた大部屋。私物が散乱していて、荒れ果てていました。やはり、他の子達はもう…。
「何だ、まだ子供が居るじゃないか。役立たず共め」
突如後ろから声がかかり、振り向くと白衣を纏ったやせ形の中年男性が立っていました。
「来たまえ、君も生まれ変わらせてあげよう。完璧な存在にしてあげようじゃないか」
「知らない人についていくなと母に教えられています」
「ふむ、そうか。私はヘルシェル、人類に革命を興すものだ。君はその一員になれる。それはとても栄誉なことだ」
こいつがバルザックファミリーに身を置くマッドサイエンティストでしょうか。
外の騒ぎが聞こえていないのかな。随分と落ち着いていますね。
「質問しても?ヘルシェル博士」
「手短に頼むよ」
「ここの子供達はどちらに?」
「ああ、あの子達か。あの子達は私の偉業の礎になってくれたよ。残念ながら、皆命を落としてしまったが……進歩のためにはやむを得ない犠牲だ」
こいつがルミをっ!怒りが沸くのと同時に気分が高揚していきます。
「人道に反する行いですよ、博士。良心の呵責は無いのですか?」
「これも人類のためだよ、お嬢さん。そのために人道等と言うものは必要ない」
「そうですか、分かりました」
「わかってくれてなによりだ。さっ、君も来たまえ。大丈夫、痛みは少ない」
「貴方が行くのは地獄ですよ、このクソヤロウ」
私は拳銃を取り出してヘルシェル博士に向けます。
「何の真似だね?」
「私の敵を排除するために行動しているだけです。楽に死ねると思うな」
こいつは害悪です。たっぷりと後悔しながら死んで貰うとしましょうか。でなければ、私の怒りが収まりません。
「…惜しいな、君は逸材だ。なにせ私に銃を向けながら笑っているのだからね。実に残念だよ」
ふむ、確かに気分が高揚していますね。さて、あとはこいつを拘束してベルを呼び寄せれば。
「だが、私はまだ為さねばならないことがあるからね。抵抗させて貰うよ。四号!」
奴が叫ぶと、後ろから少女が現れました。ああ、畜生です。本当にこの世界は意地悪です。何故なら…。
「ルミ…」
現れたのは、無表情で瞳に力の無い大親友だったのですから。