「おいっちぃ~」(ん~♪ 甘い実によく合う酸っぱいソースがたまんないわぁ~)
園内にあるフードコートにやってきた。ここでは園内で採れた植物を中心とした料理を食べる事が出来る。名物のフルーツケーキを堪能し、満面の笑顔になっているエルツァーレマイアと、アリエッタの時と同じように甲斐甲斐しく食べさせられて表情が死んでいるピアーニャ。そしてそれをニコニコ…いや、ニヤニヤと見つめる保護者達。
そんな時、係員数名が慌てて走っているのが見えた。
「どうしたんでしょう?」
「花が枯れちゃったとか?」
「きっと食材の木の実が尽きたのよ」
「もしかして石のケーキが無いってクレーム出したのがまずかったでしょうか……」
「パルミラおまえな……」
ちょっと騒ぎが気になったミューゼは、辺りの係員に話を聞きに行った。ピアーニャもついて行こうとしたが、エルツァーレマイアに勝手に動かないようにと撫でられ、一瞬たりとも解放される事はなかった。
全員がミューゼに追いつくと、丁度話を聞き終え、その場所に向かいながら説明し始めた。
「なんでも巨大な木の実が採れて、これからみんなで食べるんだって」
「へぇ、それは楽しみなのよ」
「きょうみあるな」
(今度はどこにいくのかしらー)
のんびりしていると、すぐにその巨大な木の実が数人の男達によって運ばれてきた。それがフードコートの横に用意されたスペースへと置かれる。その木の実は横たえられたというのに大人の背丈ほどあり、その場にいた全員が唖然としている。
それは一部が欠けた赤紫の瑞々しいリング状の巨大な木の実だった。
「む、あれはダナツーのミか?」
「そうなのよ。なんかすっごいでかいのよ……」
「でかいっていうか、でか過ぎ……どうしたらあんなのが出来るの?」
園内見学中にも見た本来のダナツーの実は、子供が手で持てる程度の大きさでしかない。それが大人10人以上がなんとか運べる大きさにまでなっているという異常事態である。
騒ぎを聞きつけた他の客や係員もフードコートに集まり、かなりの人数が巨大ダナツーの実を囲む事となった。
そして係員の1人が、高い所に上り、この実に関する話をし始めた。
「皆様お騒がせしました。このダナツーの実の一部は研究するために移送されましたが、あまりにも大きい為、ここで食べてしまいましょうという事になりました。しかしご安心ください、ラスィーテ出身の係員数名が、この実は食べても大丈夫と保証してくれました。食べてみたいという方はお集まりください」
その言葉を待っていたとばかりに、客達がワクワクしながらダナツーの実を受け取りに行った。もちろんパフィ達もそれに続いている。
集った全員でも食べきれない程の実は係員によって切り分けられ、沢山の人の手に渡っていった。その実は、皮が少し硬く、中にはプルプルとしたゼリー状の実と、果実に合わせたような大きな種子が詰まっていた。もちろん種子は係員が回収している。
「へぇ、完全にダナツーをそのまま大きくしたものなのよ。甘いのよー」
「おみやげに貰えるかな?」
「そうですね、ネフテリア様達にも持って行ってあげたいです」
「おいし……」(これって最初に気になった木に成る実よね。すっかり大きくなっちゃった。これくらいなら大丈夫……よね? 言葉が分かってないからバレようがないわよね? 次元違うから父上も見てないよね!?)
もちろん原因はエルツァーレマイアである。最初にダナツーの木に触れた時に、美味しそうな実が成るみたいだから食べてみたいなー…と考え、ちょっとだけ成長を促したのだ。その結果、うっかり大きくし過ぎるというミスをやらかしたのである。
その実を以て自分の失態を察したエルツァーレマイアは、アリエッタにだけは絶対にバレない様にしようと、固く心に誓うのだった。
「どうしてこんなでっかいミがとれたんだろうな? ロスグランツェしょくぶつえんがひろいといっても、はえているショクブツはフツウのおおきさだぞ?」
「そうなんですよね。花より大きいのならともかく、あれは木よりもずっと大きいです。どう頑張っても水も栄養も足りるハズが無いのに」
ピアーニャ達が考察を始めるが、エルツァーレマイアの実りの力はアリエッタしか知らない。ドルネフィラーに行った時も、エルツァーレマイアは彩の力しか使っていないのである。実際に見た事があるのは、アリエッタの家にあった野菜のみという、分析するには情報がほぼ無いに等しい状態。そこから答えにたどり着く事は、普通はまずあり得ない。
そんな真面目な話を真面目な顔でしているピアーニャだが、現在ミューゼに甘えるようにくっついているエルツァーレマイアに抱かれ、優しく撫でられている。どうやら今は諦める事を選んだようだ。
しばらくのんびり話していると、広場が再びざわついた。
「すみません! さらに巨大ダナツーが複数採れました! どなたか食べたい人はいらっしゃいますか!?」
1つ目ですら食べきれなかった広場の一同は、唖然としながら沈黙を選んでいた。
「ここは専門家に任せて、さっさと戻りましょうか……」
「そうだな……」
変な話は報告で聞こうという決断をし、この場から離れる事にしたピアーニャ達。しかし、そこに慌てた様子で係員が駆け込んで、声を張り上げた。
「みなさんすぐに外に避難してください! 緊急事態です!」
「なんだ?」
一旦息を整えた係員が、説明の為にもう一度大声を出そうとしたその時、その背後の木を飛び越えて、巨大な何かが小さな音を立ててダナツーの実の傍に着地した。
「何あれ植物!? 動物!?」
アリエッタの身を護る為に身構えたミューゼが、その巨大なモノを見て疑問を叫んだ。
周囲の木と同程度の高さの4足歩行の生き物の姿で、その体は蔓がまばらに巻かれた樹木そのもの。足は全体的に見ればそれ程大きくなく、逆に耳がかなり大きいが、その見た目は巨大な葉。そして尾は蔓でできており細長く、先端には花が咲いている。
その巨大な生物?を見て、客の1人が出口に向かって走り出し、それに続いて多数の客と係員が逃げ出した。正気を保って誘導している者も中にはいるが、その声は悲鳴によってかき消されている。
「『スラッタル』? いやしかし、アレはどうみてもキだが……」
巨大生物?を見て、ピアーニャがその正体について考え、首を傾げている。当の生物?は、目の前にある巨大ダナツーの実を夢中で齧り始めた。
その姿を見て、残った者は冷静さを徐々に取り戻していく。
「でっかいけど可愛いね……でっかいけど」
「総長どうするのよ?」
よくわからない事態だが、多数のリージョンのトラブル解決や危険排除の仕事を受け持つシーカーの本分であり、シーカーであるミューゼとパフィが総長のピアーニャを指示を仰ぐのは、ごく自然な流れである。
しかしその総長は、エルツァーレマイアに保護されて動けない。
(ふっふっふ、こうやってぴあーにゃちゃんを護ってあげるのは、アリエッタの望む事だからね。絶対に離さないわよ)
「あー……とりあえずパルミラ。ミブンをあかしてのこったゼンインをあつめろ。シーカーがいたらてつだってもらえ。チュウイしてちかづき、なつかれなければハイジョするしかない」
「分かりました」
王子直属の側仕えであるパルミラの地位はかなり高く、信用されやすい。まずは係員に身分を明かし、指示を出す人物を呼んでもらい、ここにいる全員を集めてもらった。
「ぷふっ! 総長…来てたんですね……フフフッ」
「わらうなぁっ!」
(おーよしよし、叫ぶほど怖いのねー)
集った中にはシーカーも数名いて、案の定ピアーニャの現状に吹き出していた。
残った人々に近くのシーカーがそれぞれピアーニャの正体を話し、驚きと笑いが広がっていく。まぁ少女に抱っこされた幼女がシーカーの総長などと、普通は思わない。
ピアーニャは集まった者達全員に、今やるべき事を提案した。
「よっしゃ、久しぶりの新種調査だな」
「暴れるようなヤツじゃなきゃいいが……」
シーカーを含む戦闘可能な人材は巨大生物?の直接的な調査に。
「わちもあのナカにはいりたかったな……」
「アリエッタが離さないから無理なのよ」
戦闘の出来ない者達は一部を残して外へ避難。残った者はその場から離れ、遠くから巨大生物?を観察する事にした。その中にはエルツァーレマイアに解放してもらえないピアーニャとパフィも入っている。丁度良いので『雲塊』でまとめて護衛することになった。
安全を確保したところで、巨大生物?の傍に残った者達が動き出す。まずは音を立てて注意を引いてみる。すると、チラリと音のした方を見て、再びダナツーの実を齧り始めた。
「うわぁ可愛い……こんなに大きくなければ……」
「ですね……」
近くで観察しているミューゼとパルミラが、思わずそんな感想を漏らした。大きさはともかく、動きは小動物によく見られる落ち着きの無いものだった。
とくに何事もなかったので、続いて直に触れてみる事にした。男が慎重に近づき、後ろ足に触れる為手を伸ばす。すると、
「うおぁっ!?」
「わぁっ!!」
その巨大生物?は、手が触れる直前に大きく後ろに飛び下がった。巨体が急に動いた為に、近くにいた者が風圧で軽く飛ばされている。
巨大生物?は明らかな警戒態勢となり、離れた場所からシーカー達を睨みつけた。
「! これよりアレを討伐対象とします! 迎撃態勢を!」
『おうっ!』
防衛本能だろうが、敵対心を見せた巨大生物?は人社会では討伐対象となる。パルミラの号令で戦闘態勢に入ったシーカー達は、それぞれの武器を構えて巨大生物?を睨みつけた。
次の瞬間、巨大生物?が吠えた。
「ミュイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
巨体に合わない可愛い泣き声を上げると、体から黄色い無数の突起物が生えてきた。
遠くからその動きを見ていたピアーニャが、その正体に思い当たるものがあり、口を開く。
「やはりアレは『スラッタル』か?」
「『スラッタル』っていうと……たしか小さくてすばしっこい可愛い生き物なのよ? 怒ると体中の毛を逆立てて外敵を追い払うっていう……」
「ああ」
「でも……大きすぎるし、木っぽいのよ?」
「……ああ。どういうことだろうな。それにアイツはグヴぇっ……アリエッタ……はなせ……」
(むむ、アレから敵意を感じるわ。ぴあーにゃちゃんを護らなければ!)
ピアーニャの話が物理的に途切れた時、『スラッタル』はもう一度可愛い声で吠えた。そのまま勢いよく体を回転させ、身体から生やした無数の黄色い突起物をばらまくように、シーカー達や周囲に向かって飛ばした。
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