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28歳になるその日、空からプレゼントをもらった。
「誕生日プレゼントは、俺」
そんなラブコメみたいなセリフ。
世界一愛する人からの贈り物なんて 死ぬほど嬉しいに決まってる。
けれど、彼を狂おしく抱くほどに、痛いほど伝わってくることがあった。
かつて彼は「大人になるまで誰とも身体の関係は持たない」と言った。
なのに、俺の腕の中で愛を受け、美しく身悶える彼は……あまりに完璧すぎた。
俺が初めてじゃない。
彼はこの瞬間までに、元宮と何度も、何度も愛を重ねてきた。
元宮の愛が空の隅々まで染み込んで、ようやく、俺に抱かれる決心がついたんやろう。
「……お誕生日おめでとう、新」
「ん? ありがとう」
俺の部屋の、俺のベッド。
空が優しく微笑む。
自分から「部屋に行きたい」なんて言い出したのは、きっと彼なりに、逃げられない状況を作りたかったから。
彼が元宮と付き合い始めてから、2年。
恋人同士の大切なイベントは、すべて元宮に奪われてきた。
それでも「お兄ちゃんでもソフレでもいいから、そばに置いて」と願ったのは、俺や。
会うたびに唇を重ねて、空に触れる。
それを、恋人である元宮が認めている。
俺たちの関係は狂っている。
けれど、そんな有り得へん状況に、感謝せなあかんのもわかってる。
「新、最近仕事どう? 楽しい?」
服を整えながら、空が他人行儀に問いかけた言葉に 俺も、少し適当に返した。
「……まぁ、ぼちぼちやってるわ」
「……やってるって、何を?」
「ん? まぁ、色々と」
揶揄うように笑うと、空は目に見えて拗ねる表情をする。
可愛い。
俺にこんな顔を向けてくれるようになるなんて、前は思ってもみなかった。
「……空が嫌がるようなことは、何もしてない。真面目に先生やってるだけや。約束する」
「……うん」
吸い寄せられるように、優しいキスをする。
今の俺は、このためだけに生かされている気がする。
……いや、空とこんな関係になってから、ずっと。
♢♢♢
「んー、美味しい!ほんま新、料理うまいよな。こんな特技があるとは思わんかった。見た目も華やかで綺麗やし」
「彩色が好きやから。それは絵も料理も変わらへん」
それと、目の前にいる空も。
どんな綺麗な色に飾られたものより、自然体で、この世で一番美しいこの人に勝るものはない。
「ん? 新は食べへんの?」
「あとで。今は目の前の宝石を見ていたい」
「……ほんま、新は俺のこと買いかぶりすぎや。俺は……そんな綺麗なもんじゃないし」
照れて耳を真っ赤にする空。
俺の言葉ひとつで、まだこんなにも表情を変えてくれるんやな。
冷房で少し涼しくなった部屋の中で、そこだけ熱を持っているような、微かな幸福感。
その熱に、少しだけ心が救われる気がした。
♢♢♢
「家の近くまで送ってくわ。空が嫌じゃなければ」
「嫌なわけないやろ? こんな大切な日に、俺も新と最後までおりたいし」
「……そっか。よかった」
本当は、帰したくない。
ずっとこの部屋に閉じ込めて、俺だけのものにしたい。
けれど、わかっている。
それは俺が欲しい空じゃない。
優しくて、可愛くて、わがままで、自由で。
それが、空の魅力なんやから。
空を送り届け、自室に戻る。
空が座っていたソファに手を触れると、温もりはすでに、逃げていく熱に変わっていた。
それが、どうしようもなく寂しい。
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#先生と生徒
どんな形でも、そばに居られたら幸せやと思ってた。
何度も唇を重ねて、俺の愛を空に染み込ませようとしても。
空から溢れ出した愛は、全部元宮に吸い込まれていく。
ずっと、その繰り返し。
俺がもう必要のない存在だなんて、痛いくらいわかってる。
優しい空が、それを言い出せないだけだってことも。
もう、俺から終わらせた方がええんかな。
……そうしたところで、俺の愛の行き場なんて、この世のどこにもないんやけど。
「……いっそ、死んでしまおかな」
それなら、もっと空に触れておけばよかった。
色んな場所に行って、思い出を作って、美味しいものを食べて。
彼にしてあげたいことは、まだ山ほどある。
結局、そんな堂々巡りのまま、明日が来る。
物分かりのいい、余白として、空の側にいようと自分に言い聞かせる。
ベランダに出て、夜の風に頭を冷やす。
ふと見上げた夜空に、星が光っていた。
手を伸ばせば。
空の心を手に入れるよりも、ずっと簡単に、指先に届きそうな気がした。