〈坂倉由紀〉
気遣いは、人を喜ばせる。気遣いは心が強くなる。そういつも教えられてきたのにいつの日かそれを信じれなくなってしまった。私の犯した過ちはもう取り消せない。もし過去に戻れるとしたらその過ちを直したい。
〈坂倉由紀〉
私と男友達の海堂蛍はとても活発で明るい存在であった。私もそれに合わせてテンションを上げるがやはり疲れてしまう。でも何故か彼と一緒にいると楽しく思える。となっても付き合おうとは一切思わない。ただの親友であり、恋人とは程遠い存在だからだ。蛍は学年内でも特に身長が高く、185cm以上はある。私は少し冗談気味にーそんなに身長高くてうらやましいな〜っと言ってみたが蛍は笑顔でーそんなことないよと返事をしてくれた。この笑顔を見るだけで今日一日が楽しく思えるような気がした。きっと蛍も私と一緒にいて楽しいのだろう。そう感情が漂ってくる。
〈海堂蛍〉
俺は1人好きな人がいる。いま隣にいる彼女だ。でも彼女は俺の顔をまともに見ようとしない。見ているのは俺と話している時だけ。いつでも俺の顔を見て欲しいのに。彼女は無理にこのテンションを作っていると知っているのだろうか。根暗な俺がこんなにもテンションを高くしているのは、あくまでも彼女に近づくためのものだ。しかしそんなことをしなくても彼女が俺の方に来てくれるからもう無理にこのテンションをしなくて良さそうだ。だったら今までのものはなんだったのだと思ってしまう。でも彼女といるだけで十分だ。そう十分なのだ。
〈坂倉由紀〉
今日の帰り、今日も蛍と一緒に帰る。私と蛍の通学路は同じだ。来た所をまた戻っていくだけ。でも今日の帰り蛍があまり元気ではなかった。いつもの元気な蛍ではなかったのだ。こんな根暗な蛍は初めて見た。下を向き、ため息はしていないものの顔色があまり良くないように見えた。私は蛍に問いかけた。ーどうしたの?何かあった?だけど蛍は反応しない。もう一度問いかけてみるも首を横に振るだけだ。ーねぇなんか言ってよ!蛍の肩が震えているのがわかった。すると蛍の瞳から涙が流れていた。私は思わずひっとなってしまった。最低な反応だったのは分かるが蛍が泣いているの初めて見た。あの涙は何なのか知りたいのに私から逃げていくように早歩きで去っていった。待ってと言える暇もなく。
〈海堂蛍〉
俺はさっきの事を改めて、素のままの状態でいようと考えた。そして帰りの時間彼女に会うと、彼女は俺の顔を不審な目で見てきた。どうやら俺がテンションを無理にあげていたことに気づいたようだ。だがなぜか彼女は俺の事を心配してくれた。どうしたのかと聞かれても今まではあなたのために無理にテンションを作っただけでこれが本当の俺と言えるわけもない。頭の中で必死に考えている間彼女が怒鳴り口調に俺の方に詰め寄ってきた。そんな彼女を見たのは初めてだった。思わず肩が震えてしまう。心配してくているのは分かったがこのときは鬱陶しかった。俺は彼女から逃げるように去ってしまった。彼女に最低なことをしてしまった。でも早めに帰らなければ行けない理由もある。母親が精神の病気だからだ。理由は昔付き合っていた彼氏が母親に暴力や強姦をするなどして楽しんでいたらしい。この男のせいで母親の身体と心は崩れていった。そんな彼氏が久しぶりに会いに行くというのだから母親の心はかなり精神的に来ているはずだ。彼女のことも大事だがまずは家族を最優先する方がいい。しばらくの間学校を休むことにした。
〈坂倉由紀〉
蛍の母親が病気になっているらしく、蛍は母親の面倒を見るため少しの間休むのだという。蛍の両親は2年前に別れ、蛍と母親の二人暮しのため頼れるのは蛍しかいないということだろう。私も何か蛍にできることは無いか。少しでも蛍の母親に元気になってもらいたい。そうだ。花屋で花を買いに行こう。私は花屋に入店した。木製でできた棚に色とりどりの花が飾ってある。その横には工房みたいなところがありあそこでオリジナルのプリザーブドフラワーが作れるらしいが今はそんなことをしている場合では無い。早く蛍、いや、蛍の母親に元気になってもらいたい。入店する時に目に止まった黄色いバラの花束を買うことにした。きっとこれで喜んでくれるはずだ。明日渡しに行こう。そう思うと明日はまだかと待ち遠しくなる。
〈海堂蛍〉
朝、彼女が俺の家にやってきて花束を持ってきてくれた。その花束を見る前に彼女の目に向かって感謝を伝えた玄関の扉をゆっくりと閉めて鍵をかけた。白い布に覆いかぶさった花束を見ると全て黄色で統一されたバラがあった。とても綺麗な花束だった。きっとお母さんも嬉しく思うだろう母親は寝ているためそっと棚の上に置いた。まだ母親は起きる様子がない。少しの間買い物にでも行くか。ちょうど帰ってくる時間にお母さんも起きている頃だろう。
3時間後。早めに帰ろうと思っていたのに少し寄り道をしすぎてしまった。急ぎ足で家に帰る。ただいま。と返事をしても何も返事は無い。例え横っきりになっても必ず返してくれたのに今日は無かった。勝手に外に出たとは考えにくい。車もあれば自転車も置いてあるし、そもそもお母さんの靴があるのだから。母親が寝ている寝室に入ると俺は一生忘れることの出来ない光景を見てしまった。母親が自殺していた。
〈坂倉由紀〉
蛍の母親が自殺してしまったらしい。ビニールテープを首とカーテンフックに結んで首吊り自殺をしたらしい。なぜそこまで知っているのかというと蛍が警察に言ったことがそのまま噂となって町に伝わったのだ。遺書には「私はあれを見た瞬間今までの事を思い出してしまいより重い病気にかかってしまいました。最初は綺麗だと思っていたのにそれを見るだけで過去のことを思い出し、自分で苦しんでしまいます。こんな病気を治すためには死を選ぶしかありません。ごめんなさい。」
筆圧の高そうな文字で書かれたこの遺書は検察官が保管しているらしい。私はなぜ蛍の母親が自殺したのかは分からない。そして何故か私がプレゼントした花束が処分されたのだ。5000円以上したのにそんなことも知らずに、平気な顔をして処分していく検察官の姿を見ると腹が立ってきた。それだったら私にお金を返金して欲しいくらいだ。でも私はまだ蛍に話を聞いていない。母親が自殺に追い込んだ理由を。いやこれは聞かない方がいいかもしれない。蛍のためにもその他の遺族のためにも。
〈海堂蛍〉
遺族が俺のことを心配してくれてピーナッツを買ってくれたが俺はそれを断った。俺はピーナッツアレルギーだからだ。昔お父さんがツマミとして食べていたピーナッツをひと口かじるとその瞬間口の中が痒くなって身体中が赤くなり蕁麻疹も発生して、呼吸困難になってしまいそのまま意識を失った事がある。それ以降1回も食べたことは無い。食べてはいけない。もちろんピーナッツ成分が入った物も食べてはいけないそのためレストランに行く時や食事を買いに行く時もいちいち確認しなくてはならないが自分の命を守るためにしなくてはならない。今日の昼彼女に会いに行く。1週間ぶりに。
〈坂倉由紀〉
今日1週間ぶりに蛍に会いに行く。蛍は元気にしているのだろうか、前と同じ笑顔を見せてくれるのだろうか。家族が亡くなった後に初めて会うからきっと笑顔は見せてくれないと思うがそこはしょうがないと思っている。私は蛍に少しでも元気になってもらいたいため昨日昼夜かけてクッキーを作った。ハートや星型のクッキーを100均に売ってある小さな袋に無造作さに入れ、袋がクッキーでパンパンになっていく。蛍の家に着いた。インターホンを押す。ゆっくりとドアが開き、蛍の顔が見えた。すると私を笑顔で迎えてくれた。蛍はどうぞと居間まで促そうとするがまだ無関係な私が入っては行けない場所だと思い私はそれを断った。そのお詫びと同時に昨日作ったクッキーを渡した。そして蛍は嬉しそうにーありがとう!と言ってくれた。この言葉が聞けて嬉しかった。昨日頑張ったことも間違っていなかったようだ。私はそのまま別れの挨拶をして蛍の家を後にした。しかし私まだ蛍に入っていない事がある。これはサプライズの一貫として。クッキーの中にはとあるものが入っている事を。
それは、ピーナッツクリームを練りこんだクッキーだということを。蛍はきっと驚いてくれるだろう。
〈そのあと〉
嬉しそうにクッキーが入った袋を見つめる海堂。袋を開ける。ハート型のクッキーを取り出しまず最初に匂いを嗅ぐ。仄かに甘い食欲をそそるような匂い。思いっきって一口で食べる。サクサクと歯で簡単に崩れ一瞬で甘さが口の中に広がっていった。このままのペースで次々と口の中にほおり投げていった。一枚、もうまた一枚と・・・
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