テラーノベル
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私は美味しい夕食を食べさせてもらって、大浴場ではフェネスと名乗る執事にヘッドスパをしてもらい、ふかふかのベッドで眠った。こんなに静かで穏やかで心地いい気分になったのなんていつ以来だろうか?私が朝日の眩しさで目を覚ますとベリアンがカーテンを開けたところだった。
ベリアンはベッドサイドの水差しからグラスに水を注いで私に差し出した。
ありがたく受け取り、ごくごくと飲み干すとベリアンは私にこう言った。
「主様というのは我々悪魔執事の悪魔の力を開放して天使狩りの効率を上げるための大事な役割です。しかし、主様は力が弱いので2~3人の力を開放できれば及第点といったところでしょうか。今回はハウレス君とバスティン君とミヤジさんに協力していただきます。朝食とお着替えが終わりましたら、お庭に来ていただけますか?」
『は、はい…』
「食事は食堂までご案内しますのでお着替えが済んだらお声がけください」
ベリアンは一旦退出して私の着替えが終わるのを待ってくれるらしい。私は急いでネグリジェから部屋着にどうぞ、とフルーレという女の子のように可愛らしい執事から受け取った訓練着に着替えた。
部屋の姿見でリボンが曲がっていないか、襟が変じゃないか、上着の裾は出したままがいいのか入れたほうが良いのかとちょっと悩んで緩めにズボンに入れて部屋を出た。
「…もうよろしいですか?では、食堂までご案内いたしますね」
ベリアンはすたすたと歩きだして、私がそれに続く。
1階に下りて大きな扉を開くと、長くて大きなテーブルに一人分の食事が用意されていた。
ベリアンは食事の置かれた席の椅子を引いて私に座るように促す。私はとりあえず頭を下げて椅子に座り、豪華な食事に戸惑った。テーブルマナーなんて知らないし、こんな洒落た料理など見たこともない。困ってベリアンを見上げるとベリアンが簡単にテーブルマナーを教えてくれた。
「朝食はワンプレートなので基本的にどんな食べ方をしても構いませんが、カトラリーは外側から使うのが一般的なマナーです。ですのでまずはスープから召し上がるのがよいかと」
『そ、そうなんですね…えっと…いただきます』
野菜とベーコンがトマトと一緒に煮込まれているスープ皿を引き寄せてスプーンで口に運ぶ。クセもなく新鮮なトマトを使っているのだろうなと散々加工に加工を重ねたようなトマトしか食べたことしかなかったのですぐに分かった。とても美味しい。少ししかなかったスープはすぐに無くなってしまったが、まだまだ食事は始まったばかりだ。
できるだけ綺麗に食べようとちょっと苦戦しながら、半熟でとろとろの目玉焼きやベイクドビーンズも口に運ぶ。
これがイングリッシュブレックファストという物なのだろうなと感動しながら美味しくて豪華な食事を終えると、ベリアンが洗面所に案内してくれて顔を洗って歯磨きをするようにと言われたので、言われるがまま身支度をした。
「では、お庭に行きましょう。そろそろ3人も集まってくれているでしょうから」
庭に出ると、準備運動をしている青い髪の男性、大きな剣で素振りをしている緑の髪の男性、それを見守る白髪で褐色の肌をしている男性が居た。
「お待たせしました。集まっていただいてありがとうございます」
「いえ!ちょうど修繕も終わってトレーニングの時間にしようと思っていたところでしたから」
青い髪の男性がにっこりと笑ってベリアンにそう答える。
「俺はあまり長時間付き合えないですが大丈夫ですか?昼飯の支度があるから…」
緑の髪の男性は剣を下ろしてこちらに近寄ってくる。
「それで、その子が新しい主様なのかな?」
白髪ですらりと背の高い褐色の肌の男性がそう尋ねてきたので、私はとりあえず頷いた。
「ベリアンから聞いているよ。元の世界で大変な思いをしてきたんだろう?とりあえずこの世界に居れば執事達が守ってあげられるから安心してほしい」
目の前に膝をついて指輪を嵌めた左手を取って優しく握ってくれる優しそうな男性に少し安心感を覚えた。
「ご挨拶がまだだったね。私はミヤジ・オルディア。マナー指導と音楽係をしているんだ。よろしくね」
『…黒妓と申します。これからお世話になります』
挨拶を終えるとミヤジは立ち上がり、ベリアンに声を掛けた。
「ここまで力がない主様は珍しいね。前の主様も弱かったけれど…これはちょっと問題かもしれない」
「えぇ、その通りです。ですから主様には執事達の癒しになってもらおうかと考えているところです」
昨晩言われた「慰み者になるくらいしか存在価値が無い」という言葉を思い出して私は唇を噛んだ。やはりどちらの世界でも体を売って暮らすしかないのだという現実に胸が痛む。私の存在価値なんてそれしかないのだと突きつけられて、ちょっぴり涙が零れそうになる。
しかし、ミヤジはすぐに私を慰み者にするのには慎重派らしく私の頭を優しく撫でながらベリアンに柔らかく反論する。
「まぁまぁ、そういうことは追々考えればいいじゃないか。主様は元の世界でとてもつらいことがあったばかりなんだから、今はゆっくり心と体を休ませてあげるべきだよ」
その言葉に青い髪の執事さんと緑の髪の執事さんも頷いた。
「絶望を味わったことがある主様なら俺達のことを理解してくれやすいかもしれないしな」
「まずは執事たち全員と顔合わせしてからでも決めるのは遅くないと思います」
「…そうですね、まずはこちらの世界に馴染んでから考えても遅くありません。それよりもまずはどの程度の力の開放ができるかのほうが重要ですしね」
ベリアンも三人の意見を聞いて私を慰み者にするかどうかは後々決めることにしたらしい。
青い髪の執事さんと緑の髪の執事さんを手招くと挨拶をするように促す。
「ハウレス・クリスフォードと申します。訓練係と設備管理係をしています。悪魔の力が味方の戦闘能力を上げるものなので優先的に力の開放をしていただくことになるかと思います。これからよろしくお願いしますね」
「バスティン・ケリーだ。飼育係と調理係補佐をしている。昼飯の準備があるからあまり長い時間居られないがよろしく頼む」
手を胸に当てて頭を下げる二人に私も頭を下げる。
『黒妓と申します…主様としては役に立たないかもしれませんが…よろしくお願いします』
挨拶が終わると、ベリアンはそこそこの厚さのある本を渡してきた。
「これが力の開放を行うために必要な本です。このページの魔法陣の下…ここの部分をなぞっていただけますか?そして呪文を唱えてください」
『ここをなぞって…呪文を?』
「はい。一緒に一人ずつ開放していきましょうか。まずはハウレス君から。繰り返してくださいね。
【来たれ。闇の盟友よ】」
『【来たれ。闇の盟友よ】』
「【我は汝を召喚する】」
『【我は汝を召喚する】』
「【ここに悪魔との契約により】」
『【ここに悪魔との契約により】』
「【ハウレスの力を開放せよ】」
『【ハウレスの力を開放せよ】』
その瞬間、本がぴかっと光ったのを見たところで私の目の前が暗くなって意識を失った。
『…?』
ざわざわと男の人達の話し声が聞こえてきて目を覚ますと昨晩寝たベッドに寝かされていて、知らない執事さん達に囲まれているのが分かった。何の話をしているのだろうかと耳を立てると、どうやら私が一人の力の開放しかできず、力の開放を出来たとしても意識を失って倒れてしまったことについて議論をしているようだった。
「これでは天使狩りを主様無しでするのと変わらないではないですか…」
「それに、倒れた主様を安全な場所まで運ぶ執事が必要となるともっと面倒なことになるね」
「せめて力の開放をした後自力で動ける程度の力がないと逆に迷惑ですよね…」
「うーん…でも力の開放無しで戦うのもきついよね…」
あぁ、私は一人の力を開放しただけで倒れちゃうくらい力がなかったんだ。そりゃ迷惑だよね。強い天使と戦うために悪魔と契約したのに主様に力の開放をしてもらわないと力が使えないという不思議な契約なのに、その主様が一人分の力の開放しかできない上に倒れちゃうなんて足手纏いでしかない。
「戦場には連れて行けないな。なぁ、主様が変わる条件とかってあるのか?」
「大抵は天使に消されるか、貴族の刺客から殺されるか…とりあえず亡くなることが条件になりますね。主様が元の世界で指輪を他人に渡した場合などもありましたが、この主様は元の世界に戻ることはないでしょうからその可能性は無いでしょうし、死ぬまで待つしか…」
「はぁ、せっかく主様が現れてくださったのにここまで役立たずだったら貴族達からの風当たりもまたきつくなるね。交渉は…これからまた面倒になるな…」
「とにかく訓練を一層厳しくして力の開放無しでも戦えるくらい鍛えるしかありませんね」
「怪我人や死人が出ないことを祈るしかないか…」
「ベリアンが言っていた通りの使い道しかない主様だなんて信じられないよ」
室長達が私の周りで話し合っているのを聞きながら、私はただ涙を流すことしかできなかった…
#命の選択
ぷち
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なっちゃん
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コメント
3件
うわぁ…読み終わってすごく胸が痛いよ🥀 せっかくフェネスのヘッドスパとかベリアンのテーブルマナー指導とか、ほんのり優しい日常が始まったと思ったのに…最後の執事たちの会話、黒妓ちゃんの涙が刺さった。 「戦力にならない=慰み者」みたいな空気、辛すぎるよ。でもミヤジの「今は休ませてあげるべき」って一言がせめてもの救いだったなあ。 続き、どうなるんだろう…黒妓ちゃんの力や存在意義、ちゃんと見つかってほしいって思う🥺