朝目が覚めるとキッチンから音がして先生が起きているのがわかった。
「おはよう···昨日は寝れた?」
「若井くん、おはよう!ありがとうね。すっごくよく眠れたよ、食材ちょっと使っちゃった、朝ごはん食べる?」
昨日あんなに泣いたのなんか嘘みたいに、にこにこ笑うのに少し安心した。
けど気をつけてないと、この人はきっとまたひとりひっそりと泣くんだろう、俺が気をつけてやらないと···。
「あ、食べる。寝れたなら良かった。顔洗って、着替えてくる」
着替えて先生が作った朝ごはんを食べる、誰かが作ってくれた朝食は久しぶりですごく美味しく感じる。
「ごめん僕、先に行くね。帰ったら家賃のこととかちゃんと話しようね」
「うん···先生、いってらっしゃい」
「ありがとう、行ってきます!若井くんも、いってらっしゃいね、じゃああとで!」
先生が出かけて、鍵を渡すの忘れていたから適当にいつかゲームセンターで取ったウサギのぬいぐるみのキーホルダーを付けて学校で渡すことにする。
2人分の食器を洗いながら、夜ご飯のことなんて考えながら、1人だった 一昨日より、その前の日より。
確実に俺は今日幸せだって感じた。
学校で先生を見つけてポケットにしまっていた鍵を渡す。
「これ、鍵。渡し忘れてたから」
「可愛いキーホルダーついてる···僕うさぎさん好きだから嬉しい、ありがとう。今日は昨日より早く帰れると思うから」
「うん、買い物とか行ってて居なかったら鍵で入って」
「ありがとう、帰り必要なものとかあったら買って帰れるからね、連絡してね」
次の授業のために先生を見送って振り返ると元貴が真後ろに立っていてびっくりした。
「おい、驚かすなよ!」
「だって声かけようとしたら甘い会話してたからさぁ、気を使ったの」
「誤解するなよ、そんなんじゃない」
「へぇぇ?鍵を?渡し忘れたとか?早く帰れるとか?それって先生と生徒の会話としてはどうかなー?ねぇ若井くん」
ねぇねぇねぇ?としつこい元貴に昼休みにちゃんと説明する、と告げてなんとかその場を逃れた。
甘いってなんだよ、俺はただ···先生が無理するところがあるから心配してるだけ。
ただそれだけなんだ。
昼休みたまにこっそりと忍び込んでいる屋上に上がって早く聞かせて、とワクワクしている元貴に急かされて火事の事を聞いたあとの話を全て説明した、もちろん先生のプライベートなことは言わなかったけど。
「···ってワケで別に甘くもない先生思いな生徒との会話だったってこと」
「お前、それマジで言ってんの?」
元貴がわざとらしく頭を抱えている。
マジも何も真実なんだからマジでしょう。
「何が?」
「先生が火事に巻き込まれたことは大変だったと思うけど···あの若井がねぇ、まぁまぁ大胆なことですね···それが先生が色々してくれたし恩返しって?」
元貴は先生が夜の街で助けてくれたことも熱を出した時のことも話しているから俺の気持ちもわかるだろ、と思うけどどうもしつこい。
「本当にそれだけ?」
「そうだよ。あんな大変な目にあってもにこにこしてて弱音なんか吐かなくて俺なんかのこと心配してる奴ほっとけないだろ?俺が気をつけてやらないとどっかで倒れてても困るだろ、それだけ」
「俺が、ねぇ···まぁいいや、今はそういうことにしておいてあげる。けど若井、もしもそうじゃない時はちゃんと俺に相談してよ?その時が来たら俺はきっといいアドバイスをしてあげられる」
元貴は真剣な顔でそういうから俺は適当に頷いておいた。変なこというな、 そうじゃないってなんだよ、アドバイスって。
元貴はたまに俺なんかの思考を飛び越えた考え方するからなぁ、なんてその時はぼんやりと聞き流していた。
コメント
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家から送り出してくれる人がいるとか、帰りを待ってくれる人がいるって、当たり前じゃない奇跡ですからね。
2人がお互いにいってらっしゃいと言い合うのがじーんときました🥲💕 今まで1人だった2人が、お互いの存在に安心してるとこが良すぎます✨ はるかぜさん、配信ほっとしましたね🤝💕
鍵とお買い物のくだりが…もう…ときめきます………🫠💙💛