私は、一弥先輩との会話を終えて夏希のところに行った。
「ねえ、これ美味しいよ、夏希も食べた?」
夏希に話かけたけれど、ちょっと飲みすぎだ。
かなり酔っている。
以前に行ったバーベキューの時も酔っていたし、夏希はあまり自分の限界を知らないのだろうか。
「恭香、いっぱい食べたの~? 私、もうお腹いっぱい~。もう食べられないよ~」
これは、もう泥酔だ。
顔も真っ赤で足元もおぼつかない。
「大丈夫なの? もう、夏希ったら。いくら送ってもらえるからって飲みすぎだよ。明日仕事もあるんだし」
「大丈夫、大丈夫~。まだまだいけるから~」
「大丈夫じゃないわよ。もうこれ以上飲んじゃダメだからね」
このままでは、潰れてしまう。
「どうした? 浜辺さん酔ってるのか?」
朋也さんが心配そうに言った。
「すみません。たぶんこれ以上飲んだら潰れちゃうんで、私、連れて帰ります」
「うちの運転手が浜辺さんを送るから心配しないでいい。浜辺さんは実家だよな? 悪いけど、実家の方に連絡しておいてくれるか?」
そう言って、朋也さんは、運転手さんに夏希の住所を伝え、手早く送っていく段取りをしてくれた。
私も、夏希のお母さんに電話をして、迎える準備をしてもらうように伝えた。
夏希は帰りたくないとダダをこねているけれど、朋也さんが肩を抱えて車に乗せてくれた。
「しっかりしろ、浜辺」
「え~。どうして私だけ帰らないといけないんですか~! もっとここにいたいのに~」
「夏希、わがまま言わないの。みんな心配してるんだから」
「ふえ~ん。わかったわよ~」
「じゃあね。気をつけてね、夏希」
「うん。恭香、バイバイ~」
ニコニコ笑って手を振る夏希、酔っ払っていて、手に負えないけれど、こういうとこ……本当に可愛い。
「よろしく頼む」
「かしこまりました。朋也様」
朋也さんの言葉に、運転手さんが一礼して車を走らせた。
「彼は長い間うちの運転手をしてくれているベテランでとても信頼できる。安心して大丈夫だ」
「ありがとうございます。本当に助かります」
「気にするな。今日はみんな楽しんでくれて良かった」
そう言いながら、朋也さんはふと空を見上げた。
綺麗な星空だ――
その星空に溶け込むかのように、門の下から照らされているライトが、何ともいえない穏やかなオレンジ色の光を放っている。
遠くを見上げる朋也さんの優しい横顔。
チラッと見れば、いつも以上にドキドキする。
ムードのあるこの雰囲気が、そうさせるのだろうか。
朋也さん……
やっぱり、本当に素敵な人だ。
男性としてはもちろんだけれど、人間的にも。
今日一日で、朋也さんの良いところをたくさん知った気がする。
「じゃあ、戻ろうか」
「はい。みんなまだきっと楽しんでますね」
「そうだな」
私達は、階段を上がった。
後ろから背中を見つめると、なぜかそれだけでキュンとした。
屋上に着いた途端、朋也さんは別の人に話しかけられてしまった。
私のところには、梨花ちゃんが駆け寄ってきた。
「恭香先輩!」
私を睨みつけるような怖い顔をしている。
「ど、どうしたの?」
「さっき一弥先輩と良い感じに話してましたよね?」
お酒も入っているからか、梨花ちゃんの低いトーンが余計に怖く感じる。
せっかくの可愛い顔が台無しだ。
「良い感じって、普通の話しだよ」
「嘘です! あれは絶対に怪しい話をしてましたね。まさか一弥先輩に告白されたとか?」
告白なんてされるわけがない。
菜々子先輩とは別れたかもしれないけれど、だからといって私のことが好きなわけではない。
映画に誘ったのも、もしかしたら、菜々子先輩と別れたことが寂しかったからかもしれない。
彼女がいない寂しさを、私で埋めようとしたのかな……
「ち、違う違う。そんなわけないじゃない」
梨花ちゃんと話していると、酔っ払いに絡まれている感じだ。
「本当ですかぁ? ま、確かにその顔で一弥先輩に告白されるわけないですよね。でも、万が一ってこともありますから~」
「その顔って……さすがにちょっと失礼じゃない?」
あはは……
このキツさ、かなり堪える。
梨花ちゃんは気にしていないだろうけれど。
「恭香先輩は、きっと話しやすいんですよね。だから、一弥先輩も、本宮さんも、よく先輩に話しかけるんですよね。ただそれだけですよね~。恭香先輩が可愛いからじゃないですよね。ね? ね? そうですよね?」
「はいはい。そうだよ。ただの同僚として、一緒に働く仲間として、話をしてくれるだけ」
自分で言ってて、悲しくなる。
「だったらもういいです。許します。でも、ちょっと性格がいいからって、モテてると勘違いしないでくださいね~。調子に乗ると痛い目に合いますよ~。あははっ。恭香先輩のことなんか誰も好きじゃないですからね~」
完全に酔っ払っている。
目が座っていて、史上最強に意地悪モードの梨花ちゃんになってしまっている。