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「…………」
誰も動けなかった。
地下の暗闇。
そこに立っていたのは――。
西園寺あきと、全く同じ顔をした少女。
長い黒髪。
赤みがかった瞳。
そして、見慣れた西園寺家の制服。
ただ一つ違うのは――。
その少女の瞳には、強い憎しみが宿っていた。
「……私?」
あきは、自分自身を見つめる。
もう一人のあきは、ゆっくりと笑った。
???「そう」
「あなたが、今の私」
あき「……意味が分からない」
???「分からなくて当然よ」
少女は階段を一段上がる。
???「だって、あなたは私の記憶を持っていないもの」
「…………」
あき「記憶……?」
???「そう」
「あなたが覚えているのは、前世のことだけ」
「でも――」
少女が胸元に手を当てる。
???「私が持っているのは、この世界で生きてきた記憶」
「西園寺あきとしての記憶」
あきは息を呑む。
「そんな……」
ちぐ「じゃあ……」
ちぐが震える声で尋ねる。
「この子が、本物のあきちゃん……?」
???「ええ」
「私は、西園寺あき」
その言葉に、あきの胸がズキリと痛む。
あき「……じゃあ私は何なの?」
???「あなた?」
少女は笑う。
???「あなたは――」
「私の身体に入ってきた、別の魂」
「…………!」
あと「魂……?」
ぷり「そんなことあるのかよ……」
けちゃ「怖い……」
まぜ「でも、あきはあきだ」
まぜが一歩前へ出る。
「俺たちが知ってるあきは、今ここにいる」
少女の目が細くなる。
???「……あなたたち」
「本当に、そう思ってるの?」
まぜ「え?」
???「この女が私の人生を奪ったのに?」
「…………」
あきの顔が青ざめる。
あき「……人生を、奪った?」
???「そうよ」
「私が積み重ねてきた時間」
「私が抱えてきた苦しみ」
「私が望んでいた未来」
「全部、あなたが奪った」
あきは何も言えなかった。
???「あなたが来るまでは――」
少女の声が震える。
「私は、ずっと一人だった」
「誰にも愛されなくて」
「誰にも理解されなくて」
「悪役令嬢として生きるしかなかった」
「…………」
ちぐ「……あきちゃん」
本物のあきが、ちぐを見る。
???「そして、最後には――」
「あなたたちに殺された」
あと「……!」
???「ゲームの結末ではね」
「…………」
あきは思い出す。
ゲームの最後。
悪役令嬢・西園寺あきは、数々の罪を暴かれ――。
国外追放。
そしてルートによっては――。
処刑。
あき「……私は」
「その結末を知っていた」
???「そう」
「だから、私は願ったの」
「…………?」
???「誰でもいい」
「誰かが私の人生を変えてくれるなら」
「誰かが私の代わりに、この世界を生きてくれるなら」
「そう願った」
あきの目が見開かれる。
「まさか……」
???「あなたが来たの」
「…………」
???「あなたが私の身体に入った瞬間」
「私は、ここに閉じ込められた」
「そしてあなたが――」
少女が指を差す。
「私の人生を生き始めた」
「…………」
あき「……じゃあ」
あきの声が震える。
「あなたが、私を呼んだの?」
???「そうよ」
「…………!」
ちぐ「じゃあ、あきちゃんは……」
???「私に呼ばれて、この世界に来た」
「でも――」
少女の表情が変わる。
???「私は、後悔した」
あき「……え?」
???「あなたが、私にはできなかったことを次々とやっていくから」
「ちぐに優しくして」
「あとたちとも仲良くなって」
「誰かに必要とされて」
「笑って」
「楽しそうに生きて……」
少女の瞳から、一粒の涙が落ちた。
???「それを見ているうちに――」
「私のほうが、あなたになりたくなった」
「…………」
???「だから」
少女は涙を拭う。
「返して」
西あき「……何を?」
???「私の身体」
「私の人生」
「私の未来」
「全部――」
少女が手を伸ばす。
???「返してよ」
「…………!」
あきが一歩後ろへ下がる。
ちぐ「待って!」
ちぐがあきの前に立つ。
???「……どいて」
ちぐ「嫌」
???「どうして?」
ちぐ「だって――」
ちぐはあきを振り返る。
「今のあきちゃんも、あきちゃんだから」
「…………!」
本物のあきの表情が歪む。
???「……あなた」
ちぐ「私は、今のあきちゃんを知ってる」
「一緒に笑った」
「一緒にお茶を飲んだ」
「怖いときに手を握ってくれた」
「だから――」
ちぐは強く言った。
「私は、このあきちゃんを守る」
「…………」
本物のあきは、しばらくちぐを見つめていた。
そして。
???「……そっか」
「あなたも、私から奪うんだ」
ちぐ「え……?」
???「私が欲しかったものを」
「全部」
少女の瞳が赤く光る。
その瞬間。
「――――!」
ズキンッ!!
あきの頭に激痛が走った。
あき「うあっ……!」
あと「あき!」
あき「頭が……!」
視界が歪む。
そして――。
『西園寺あき』
『あなたは悪役令嬢』
『だから、誰にも愛されない』
『それが運命』
知らない声。
何度も何度も響く。
「やめて……!」
あきが耳を塞ぐ。
『悪役令嬢は――』
『最後に必ず――』
「やめて!!」
――ドクン。
突然。
あきの胸元から、黒い光が溢れ出した。
「…………!」
黒羽零「……始まった」
あと「何が始まった!?」
零は答えない。
ただ、あきの胸元を見ている。
そこには――。
見覚えのない紋章が浮かび上がっていた。
ちぐ「あきちゃん、その模様……」
あき「……知らない」
黒羽零「それが、君の本当の力だよ」
「…………?」
黒羽零「転生者の力じゃない」
「西園寺あき自身の力」
本物のあきが叫ぶ。
???「違う!!」
「それは私のものよ!」
少女の身体からも、同じ黒い光が溢れ出す。
二つの光がぶつかる。
――ドンッ!!
地下室が大きく揺れた。
ちぐ「きゃあっ!」
あと「ちぐ!」
ぷり「危ない!」
けちゃ「まぜ!」
まぜ「大丈夫!」
瓦礫が落ちてくる。
その中で。
あきと、本物のあき。
二人は互いを見つめていた。
???「返して……!」
あき「嫌……!」
???「それは私の人生よ!」
あき「私だって……!」
あきの瞳から涙が落ちる。
「私だって、この世界で生きたい!」
「あなたの代わりじゃない!」
「私自身として――!」
その言葉に。
本物のあきが、一瞬だけ目を見開いた。
「…………」
そして――。
小さく笑った。
???「……そう」
「なら」
彼女は黒い羽根を握り潰す。
???「私を殺してでも、生きる?」
「…………!」
黒羽零「……まずい」
零が初めて焦った顔をする。
あと「何が!?」
黒羽零「二人の魂が完全に分離した」
「このままだと――」
零が地下の天井を見る。
「この世界そのものが、二人を敵として認識する」
「…………」
そして。
学園中に、再び鐘が鳴り響いた。
キーン――。
空中に文字が浮かび上がる。
『選択してください』
『西園寺あき』
『本物の西園寺あき』
『どちらか一人だけが、この世界に残れます』
「…………!」
ちぐ「そんな……!」
あと「ふざけるな!」
ぷり「二人とも助ける方法はないのか!?」
黒羽零「……ある」
全員が零を見る。
あき「本当に?」
零「一つだけ」
「…………」
零は静かに告げた。
「このゲームの主人公――」
「天宮ちぐが、どちらか一人を選ぶこと」
「…………!」
ちぐの顔から、血の気が引いた。
ちぐ「私が……?」
黒羽零「そう」
「君が選んだ方が生き残る」
「そして――」
零は二人のあきを見つめる。
「選ばれなかった方は、存在そのものが消える」
「…………」
ちぐの手が震える。
「そんなの……」
選べない。
どちらも「あきちゃん」だから。
そして――。
本物のあきが、ちぐに微笑んだ。
???「……ちぐ」
ちぐ「……え?」
???「私を選んで」
「…………!」
あき「……!」
???「あなたが本当に優しいなら」
「私を選んでよ」
その笑顔は――。
あきが今まで見たことのないほど、寂しかった。
「…………」
ちぐの目から涙が落ちる。
ちぐ「……選べないよ」
???「どうして?」
ちぐ「だって……」
ちぐは二人のあきを見つめる。
「二人とも、大切だから」
その瞬間。
本物のあきの表情が――。
初めて、少しだけ崩れた。
そして彼女は。
小さな声で呟いた。
???「……そっか」
「じゃあ――」
「私が決める」
「…………?」
本物のあきが、ゆっくりとあきへ歩き出す。
「私が、あなたに――」
手を伸ばす。
「私の全部をあげる」
「…………!」
――その瞬間。
二人の身体が、黒い光に包まれた。
そして。
学園から、二人の姿が同時に消えた 。
――真っ白だった。
何もない。
床も、壁も、天井もない。
ただ、白い世界が広がっている。
「…………」
西園寺あきは、ゆっくりと目を開けた。
「ここ……どこ?」
返事はない。
あきは立ち上がろうとする。
けれど――。
「……!」
身体が動かない。
足元を見る。
身体が、半透明になっていた。
「なに……これ……」
指先から少しずつ、光の粒がこぼれている。
「私……消えてる?」
その瞬間。
「違うよ」
「!」
背後から声。
振り返る。
そこには――。
もう一人のあきがいた。
???「消えてるんじゃない」
「戻ってるの」
西園寺あき「……戻る?」
???「そう」
彼女は白い空間を見渡す。
「ここは、この世界が作られる前の場所」
「ゲームのシナリオも」
「キャラクターも」
「全部、ここから生まれた」
西園寺あき「…………」
???「そして――」
少女があきを見る。
「ここが、私たちの魂が最初に分かれた場所」
「…………!」
西園寺あき「じゃあ、私たちは……」
???「一つの魂だった」
「え?」
???「正確には――」
彼女が自分の胸元に手を当てる。
「私が、この世界の『西園寺あき』」
「あなたが、外の世界から来た『記憶』」
「二つが重なって、一人の人間になった」
西園寺あき「……だから」
「私たちは同じ顔で……」
???「同じ心を持っている」
「…………」
あきは、しばらく黙っていた。
そして。
西園寺あき「……じゃあ、あなたを消さないと、私は生きられないの?」
???「そうなるはずだった」
「はず?」
???「でも――」
少女が笑う。
「あなたは私に『生きたい』って言った」
「…………」
???「その言葉を聞いたとき」
「私も、初めて思ったの」
「私も、生きたいって」
西園寺あき「……え?」
???「だから」
少女が手を伸ばす。
「どっちか一人じゃなくていい」
「二人で生きればいい」
「…………!」
その瞬間。
白い世界に、巨大な文字が浮かび上がった。
『エラー』
『キャラクター数が規定値を超えています』
『修正を開始します』
???「……来た」
西園寺あき「何が?」
???「世界そのもの」
白い空間の向こうから――。
黒い霧が押し寄せてくる。
「…………!」
霧の中から、無数の声が聞こえる。
『悪役令嬢を削除します』
『シナリオを修正します』
『異常な魂を排除します』
西園寺あき「……!」
???「走って!」
二人は同時に走り出す。
けれど。
黒い霧が迫ってくる。
「速い……!」
???「あき!」
西園寺あき「何!?」
???「私の手を!」
「!」
二人が手を繋ぐ。
その瞬間――。
二人の胸元の紋章が光った。
――ドクン。
「……!」
白い世界が震える。
そして。
『二つの魂を確認』
『統合しますか?』
二人は顔を見合わせる。
西園寺あき「……統合?」
???「一つに戻るってこと……?」
『YES』
『NO』
二つの選択肢。
西園寺あき「…………」
???「……私は」
少女が小さく笑う。
「あなたに任せる」
西園寺あき「え?」
???「あなたが決めて」
「私の人生を奪ったと思っていたけど――」
少女は首を振る。
「違った」
「あなたが来たから、私は初めて外の世界を見られた」
「だから……」
「最後くらい、あなたが選んで」
あきは黙って選択肢を見る。
そして――。
「NO」
「…………!」
???「……え?」
西園寺あき「私は、あなたを消したくない」
「あなたは、私だから」
「でも――」
あきは笑った。
「私とは違う人でもある」
「だから、二人で生きる」
『ERROR』
『不可能です』
西園寺あき「うるさい」
『ERROR』
西園寺あき「私は、この世界のルールに従うために生きてるんじゃない」
「この世界で生きるために――」
「自分でルールを変えるのよ!」
その瞬間。
二人の紋章が強く輝いた。
白い世界が――。
砕ける。
――パリンッ!!
* * *
「――あき!」
天宮ちぐの声。
「…………」
ちぐが目を開ける。
目の前に、二人の少女が倒れている。
「……あきちゃん!」
ちぐが駆け寄る。
あと「二人ともいる!」
ぷり「マジか……!」
けちゃ「消えてない……!」
まぜ「よかった……」
黒羽零だけが、黙って二人を見ていた。
天宮ちぐ「……あきちゃん?」
一人が目を開ける。
西園寺あき「…………」
「……ちぐ?」
天宮ちぐ「よかった……!」
ちぐが抱きつく。
西園寺あき「ちょ、ちょっと……!」
その隣でもう一人が起き上がる。
???「……ここが」
「外……?」
あと「二人とも……いる」
零が呟く。
「成功したのか……」
西園寺あき「……成功?」
零「魂の分離」
「本来なら不可能だった」
「でも、君たちは世界のルールを書き換えた」
「…………」
本物のあきが零を見る。
???「……黒羽零」
零「何?」
???「あなたは知ってたの?」
零「何を?」
???「私たちが、二人とも生き残れること」
零は少し黙った。
そして――。
「いや」
「僕にも分からなかった」
「…………」
零が空を見上げる。
「だから――」
「次は僕の番だ」
西園寺あき「……?」
黒羽零「僕が、この世界に来た理由を話すよ」
全員が零を見る。
零は静かに言った。
「僕も――」
「転生者だから」
「…………!」
天宮ちぐ「え……?」
あと「お前も!?」
零「そう」
「僕が前にいた世界は――」
一瞬だけ、零の表情が曇る。
「君たちのいる世界を作った世界」
「…………」
零「つまり僕は――」
「ゲームの中に転生したんじゃない」
「ゲームを作った側の世界から来た」
「…………!」
西園寺あき「じゃあ……」
零「そう」
「君たちが『ゲーム』だと思っている世界は――」
零は黒い羽根を一枚取り出す。
「本当に存在する世界だった」
「そして――」
その羽根が燃え上がる。
「この世界を作った人間が、今も君たちを見ている」
「…………!」
天宮ちぐ「誰が……?」
零「それは――」
零が答えようとした瞬間。
学園の空に、巨大な画面が現れた。
そこに映し出されたのは――。
見覚えのない少女。
制服姿。
黒い髪。
そして――。
その顔は。
あきとも、もう一人のあきとも違う。
少女は画面越しに微笑んだ。
???『こんにちは』
『転生者のみなさん』
『ここまで来られるとは思わなかったよ』
「…………」
???『でも、まだ終わりじゃない』
『ここからが――』
少女が笑う。
『本当のゲームの始まりだから』
画面が消える。
そして。
学園中に、再び鐘が鳴り響いた。
キーン――。
零が呟く。
「……最悪だ」
西園寺あき「何が?」
零「第八話が始まった」
「…………」
黒い羽根が空から降ってくる。
けれど今度は――。
その羽根の先が、赤く染まっていた。
――物語は、ついに「ゲーム」の外側へ踏だ。
終了.ᐟ.ᐟ
長くなっちゃったけどごめん.ᐟ.ᐟ
おつむぅ.ᐟ.ᐟ
コメント
10件
なんかすごすぎてやばい 普通にこんな本売ってそう
ああ……もう、心臓がバクバクしてるよ……(手を胸に当てながら) 二体の「西園寺あき」が向き合う展開、重すぎて息できなかった。本物のあきちゃんがあんなに苦しそうで、でもちぐちゃんが「このあきちゃんを守る」って言った瞬間、涙腺崩壊した……。そして、あきちゃんが「NO」を選んで二人で生きる道を選んだところ、本当に尊い……! 零くんがまさかのゲーム制作側の転生者だったのも衝撃だし、最後に出てきた謎の少女も気になりすぎる……。もう次が待てないよ。本当にありがとう、この物語に出会えてよかった。むぅωさん、ほんとにすごい。